第7話 クルトの頼み事
熱を出したカールを部屋に閉じ込めたクルトは、食堂へ向かった。朝食時間はとっくに過ぎて、魔獣狩り中に摂る飲食物も既に荷馬車に積んであって食堂はがらんどうだ。でも食堂はオープンキッチンなので、食事を受け取るカウンターから働いている女性従業員達が見える。ちなみに強制入隊組もここで食べるが、彼ら専用ゾーンは壁で仕切られて別室のようになっていてお互いに姿を見ることも行き来もできない。
クルトが従業員達に声をかけると、そのうちの1人が彼をちらっと見て面倒くさそうに返事した。
「おはよう、おばちゃん!俺の同室の奴が熱出しちゃって今日は休むんだよ。昼飯持って行ってくれないかな?」
「ああ、やっとくよ。安心して行ってきな」
「ありがと!部屋番号は102。鍵かかってるから、事務室のおっちゃんに開けてもらって!――ああ、急がなきゃ置いてかれる!」
クルトが大慌てで食堂を出て行った後、彼と話した従業員はインガにクルトの頼みごとをするように命令した。でももしクルトが彼女好みのハンサムボーイだったり、『同室の病気の奴』がカールだと分かっていたりすれば、彼女は梃子でも自分でやっただろう。
「インガ!聞いてたかい?あんたがやるんだよ」
「わかったわよ。昼食時間の片づけが終わったら行くよ」
昼食時間に食堂を利用するのは昼間基地に残る従業員だけなので、片付けは早く終わる。本当は昼食片付けの後の休憩時間を削りたくなかったが、片付けを一緒にやらないで文句を言われるのは敵わない。
昼食の片付けが終わると、インガはオートミールを作って事務室へ急いだ。
「おじさん!熱がある隊員の昼食を頼まれたんだけど、102号室の鍵、開けてくれる?」
「おお、お安い御用だよ。それにしてもいい匂いだなぁ」
「さっき昼食食べたばかりでしょ。でもおやつはあるわよ。はい、これどうぞ」
「ありがとう!おいしそうだな。後でお茶と一緒にいただくよ」
インガは自分の休憩用に持って来た手作りクッキーを事務員にあげた。
「でもなんだい、病人が部屋にいるのに外から鍵がかかってるのか?」
「同室の人が今朝そう言ってたの」
よっこらしょと事務のおじさんは鍵束を持って立ち上がり、事務室の鍵を閉めてインガと共に102号室へ向かう。2人が部屋の前に着くと、部屋の扉はほんの少し開いていて木刀が扉の前の床に転がっていた。
「なんだ、開いてる!」
「鍵は閉めなくてもいいよね?じゃあ、もう行くよ」
「わざわざ来てもらったのにすみません」
「いいってことよ!でもクッキーはいつでも歓迎だよ!」
もう一度クッキーをあげないといけないかとため息をつきながら、インガは事務員を見送った。その後すぐに扉を開けて目を見開いた。扉のすぐ後ろに隊員が倒れていた。
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