第5話 魔獣狩り

6日前、強制入隊のある男が魔獣狩り中に脚を骨折した。骨折がそれだけの期間で治る訳もなく、休みだしてから5日目、彼は添え木を付けた脚を引きずりながら荷馬車に悲壮な顔をして乗り込んだ。パンパンに腫れた脚はノロノロと歩いても激痛が走り、まだ魔獣狩りに参加できる状態ではとてもない。でも参加しなくても強制的に荷馬車に乗せられて森に放置される。それなら無理を承知で魔獣狩りに形だけでも参加して百万分の一にも満たないような生存率に賭けるのだ。


そんな男を横目で見ながら、カールや他の隊員達は、魔獣退治用に特別に交配された魔馬まばと馬の雑種に跨った。カールは左脚の怪我を負った当初は馬に乗るのに一苦労したが、それも訓練するうちに慣れて今や問題ない。


警備隊の一行は、基地の裏手にまわり、森に入って行った。しばらくは轍と足跡で自然にできた道に沿って移動していく。ある程度進んだ後、その道を反れて森の深部へ入って行って最近魔獣を狩っていない地帯を目指す。荷馬車が辛うじて通れるような木の間をジグザグ進み、灌木等で通れない所は隊員達が切り開く。そのため、道から外れた後、一行は牛歩のようにゆっくりと進んだ。それでも地面が凸凹しているので、荷馬車が揺れ、その度に骨折している男はうめき声を上げて御者に『うるせぇ』と文句を言われた。


そうして苦労して進んでしばらく経っても魔獣1匹たりとも見当たらない。しかたなく御者が魔獣を引き寄せる香を焚き始めた。御者はすぐに荷台に移って骨折している男に怒鳴る。


「早く降りろ!」


ノロノロと立ち上がった男に苛ついた御者は男を荷台からドカッと蹴り落とした。


「ギャーッ!」


香の匂いと男の悲鳴に惹きつけられて遠くから魔獣の遠吠えが聞こえた。その吠声から推測するに狼型の魔獣『魔狼まろう』のようだ。隊員達の表情は緊張で一気に引き締まった。


小熊ほどあろうかという大きな魔狼がそれより小さめの魔狼を何頭も引き連れて隊員達の目の前に現れた。目はギラギラと輝き、大きな口には鋭い牙が見え、涎がだらだらと垂れている。ボスとみられる一番大きい魔獣が負傷している男を瞬時に見分けてダッと飛び掛かった。


「うわー、助けてくれー!」


男は無駄を承知で助けを呼んで叫び、恐怖のあまり失禁して失神した。バタリと倒れたその男の前にカールが乗馬したまま割り込んだ。ボス魔狼がカールの馬に飛び掛かり、首を噛もうとする。馬は辛うじて避けたが、魔狼の爪が馬の肌を裂いた。馬は痛みで暴れてカールを振り落とし、その場から逃げて行く。落馬と共にカールの古傷の右肩に激痛が走った。他にも落馬で負傷した箇所がありそうだが、魔狼との闘いの緊張と興奮で痛みを感じないのだろう。


落馬の隙を見逃さず、ボス魔狼がカールを襲ってきた。カールは落とした剣を素早く拾って脚を切り付けた。ボス魔狼は負傷してますます狂暴化し、カールは防戦一方になったが、爪がカールに届きそうな間一髪のところでボス魔狼の眉間を素早く剣で貫いた。剣を引き抜くと、ブシューッと血が噴き出て魔狼がドサッと倒れた。その間に他の隊員達も他の魔狼を倒しつつあったが、残りの魔狼は案外気が弱く、ボスが倒されたのに気付いて森の奥に逃げ戻って行った。


カールは気を失った男の頬をベチベチと叩いた。目覚めないようだったが、これ以上この場に留まるのは危険だ。魔獣は別種の魔獣を好んで喰らう。だから一度魔獣を倒すと、血の匂いに惹かれて他の魔獣が襲ってくるため、撤退が原則だ。

カールは失神したままの男から目を離し、急いで自分の倒した魔狼の左胸を切り裂いた。そして魔石となる核を取り出して持参した革袋に入れた。


カールは、魔狼を馬の背に載せて荷馬車に積み替えようと思い、自分の馬を探すと馬は荷馬車の後ろに隠れていた。負傷で興奮気味になっているが、魔馬と普通の馬の雑種は貴重なので、この程度なら安楽死させずとも基地に帰ってから手当をすることにした。

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