第10話 リハビリ
マリオンは前世の記憶を一生懸命思い出そうとしていた。
和臣も事故で脚を骨折していた。昏睡状態から目覚めたからリハビリするだろうと思って色々ネットで調べた。もちろん、美幸が素人であることは承知の上だ。彼のリハビリを少しでも理解できれば婚約者として少しでも心の支えになれるのではという思いからだった。
今日、クラウスは領地の視察にマリオンの父と共に出かけていて公爵邸にいない。彼に邪魔されずにカールを見舞えるよいチャンスだ。マリオンはルチアを引き連れてカールの部屋へ向かった。
カールは寝台に横たわってはおらず、騎士のお仕着せを着てその横の椅子に座っていた。
「カール、もう具合はいいの?」
「はい、だいたい。これからこの部屋を引き払って自分の部屋に戻る所です」
カールは公爵邸の敷地内の使用人棟に自室を割り当てられている。左脚を引きずってでも自分で歩けるようになったので、自分の部屋に戻ることになったのだ。
「お嬢様の護衛にも戻れればいいのですが…」
「私の護衛に戻れる条件は聞いた?」
「はい、3ヶ月後の剣術大会3位以内ですよね?」
「歩いてみてくれる?」
カールは右足に力を入れて立ち上がって歩いてみせたが、左脚を引きずっている。その様子を見てマリオンは悲しくなってしまったが、カールに涙は見せられない。
「お願いだから剣技大会には出ないで。護衛じゃなくても貴方が私の側付きでいられるようにお父様に頼んでみるわ」
「そんなわけにはまいりません。お嬢様に護衛以外の男性の使用人が日常的に仕えることなど、閣下もクラウス様も許さないことでしょう。でも私はお嬢様にお仕えしたいのです。頑張りますから出場しないようになんておっしゃらないで下さい」
「でも貴方の脚では…」
「まだ3ヶ月あります!悲観的にさせないで下さいませ、お嬢様」
「そうね…ねえ、カール。もう一度椅子に座って」
カールは不思議そうにマリオンを見たが、彼女の言うことを聞いて椅子に座った。
「右脚を上げ下げしてくれる?次に左脚も」
右脚に比べると動きが鈍いが、まっすぐにして上げ下げする分には左脚もそれほど悪いように見えなかった。
「今度は膝から下を動かしてくれる?」
左膝は右膝ほど自由に曲がらない。10回ほど繰り返すとカールの顔にかすかに苦痛が見えた。カールは我慢強い上にマリオンに心配をかけたくない性質だ。マリオンはカールを制止した。
「痛いのね。止めましょう。お医者様にどんな動きが脚の機能回復にいいのか聞いてみましょう」
マリオンはカールにそう言ったものの、彼の左脚の動きが訓練でよくなるとは思えず悲しくなった。
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