幕間3 果たされなかった誕生日ディナー
美幸の誕生日、午後6時半――美幸は会社を出ようとしてロビーに和臣の義妹麻衣がいるのを見つけた。
「麻衣!どうしたの?」
「美幸、誕生日おめでとう!これ、誕生日プレゼント!」
「わあ、ありがとう!わざわざ持ってきてくれたんだ。後で見させてもらうね――あ、そうだ、これからカズと食事に行くんだけど、一緒に来る?」
「いいよ、お邪魔虫がいたらせっかくの誕生日ディナーが台無しでしょ?」
「そんなことないよ。レストランに電話すれば1人ぐらい増えても大丈夫じゃないかな?」
「ううん、やめとく。お兄ちゃんの恨み買いたくないからね」
2人は一緒に美幸の会社を出た。会社の建物の前にタクシーが停まっていた。
「タクシー、呼んでおいてあげたよ。乗ってきな」
「ありがとう。麻衣も一緒に乗ってけば?」
「ううん、いい。遠回りになるでしょ。地下鉄で帰るよ。楽しんできてね」
美幸がタクシーに乗ったのを確認して麻衣は電話をした。
「今、出発した。GPSで着くのを確認して動いて」
麻衣が地下鉄駅に着いた時、既に空は薄暗く、和臣が広い道路の反対側の地下鉄出口から出てきたのには気付かなかった。
タクシーに乗った美幸は、目的地のフレンチレストランの場所を運転手に伝えたが、出発したすぐ後に和臣から電話が来た。
「美幸、今、どこ?」
「さっき会社の前からタクシー乗ったとこ」
「じゃあ、俺を地下鉄駅出口で拾って。今日の会議、延期になったから一緒に行こうと思ってこっちまで来たんだ」
美幸は和臣の説明した通りの地下鉄駅出口で彼をピックアップした。
「美幸、誕生日おめでとう!」
和臣はタクシーに乗ってすぐ美幸の唇に軽くキスをした。
「カズ!タクシーの中っ」
「このぐらい大丈夫」
2人は幸せそうに見つめ合って手を繋いだまま、タクシーに乗っていた。
「ここで停めて下さい」
和臣が料金を払う間に美幸はタクシーを降りた。レストランは通りの向かい側にある。和臣がタクシーから降りると、美幸は通りを渡り始めた。
その途端、ヘッドライトが近づいてきて美幸は和臣に突き飛ばされた。
「美幸、危ないっ!」
衝撃音がしたが、和臣にぶつかった車は走り去っていった。タクシーは和臣が降りてすぐに走り去っており、運転手は事故を目撃していない。
美幸は腕や脚を地面にぶつけて出血し、突き飛ばされた衝撃で気を失ったが、少しして我に返った。
「カズっ?!大丈夫?!」
道の真ん中で和臣が倒れており、美幸が近寄ろうとしたら、誰かに制止された。衝撃音を聞いたレストランの従業員が店から事故現場に出てきていた。
「動かさないほうがいい。今、救急と警察に電話した。貴女も怪我をしてるからここで待ってて」
救急車が到着し、和臣はストレッチャーに乗せられた。だが和臣はぴくりともせず、美幸の不安は募った。美幸は手足をすりむいて足をくじいたぐらいだったが、頭を打っているので和臣と共に病院へ搬送された。
美幸は病院ですぐにねん挫の手当をしてもらったが、少し頭を打ったため経過観察で今晩は入院、頭部のCTを翌日昼間に撮ってもらうことになった。
美幸が車椅子に乗って廊下に出ると、両親が駆け寄ってきた。
「美幸!大丈夫なの?!」
「うん、ちょっとすりむいて足をねん挫したくらい」
「頭はぶつけてない?大丈夫?」
「ちょっと地面にぶつけたから今晩は入院して経過観察だよ。念のために明日CT撮ってくれるって。それより和臣さんの容態は?!」
「手術中だそうよ。あちらのご両親と弟さん、妹さんが手術待合室で待ってるって」
入院手続きのために夜間救急受付へ行く両親を振り切って美幸は手術待合室へ向かった。和臣の両親、駆、麻衣は待合室に揃って打ちひしがれていた。麻衣は美幸を見て唇を噛んで拳を強く握りしめたが、美幸の頭は和臣のことだけでいっぱいで、麻衣の様子に気付かなかった。
「おじ様、おば様、和臣さんは?!」
「まだ手術中なの…でも美幸ちゃんも入院するんでしょ?ここは私達が付いてるから病室に行って」
美幸は和臣の両親に説得され、迎えに来た自分の両親と共に自分の病室へ行ったが、朝まで眠れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます