第11話 天使日本人ハーフ日名子

 時刻は夕方近く。比較的大きな通り沿いに来たっつー。オレンジ色に世界が染まり始めてる。なにか酒場とかがあるにぎやかな通りだっつー。人も多いし。これなら傷薬くらい貸してくれる人いるかな?


 なんだかみんなざわざわして色々な店に入ってくぞっ。


 おっ。


「ガッハハ。今日はいい陽気じゃったのー」

「おう。確かに。小銭あるし、飲み行かねえか? ルッグ」


 おっ、あれはニホンジンとドワーフのおっちゃんの二人連れじゃん。声掛けられそうかも。夕方過ぎに酒場に行って、二人で飲むのかね?


 これはPDCAサイクル成功ジャン!


 あっ、ただ、すぐに酒場に入っちゃったよ。二人で。残念っつー。


 そこから他の人を探したし、声を掛けようともしたけど、なんかせわしない感じで声掛けられそうな人っていなかったっつー。


 店通り来るまでにアロエもなかったし、この世界にアロエってあるのかね?


 ああ。空振りだっつー。ただ、落ち着いて今の結果を検証してみよう。


 ふう。道の切株に腰かけて考えよっと。


 PCDAサイクル。CHECK。


 現場で実行した結果の評価だっつー。


 うーん。大通りで立ち止まってる人ってあんまいないんだよな。


 なんか人よさそうで余裕がありそうなヤツ、スラムで見つけるの難しかったなっつー。


 ほとんどみんな麻の服着て、貧乏そうだし。傷薬借りるのもためらわれる感じ。


 酒場に入る人はなんつーか、集団で急いで入る人が多いみたいだっつー。なんか、店の数が少なくて、席の取り合いとかしてる感じジャン。


 はあ、でも、なんかほんとに中世ファンタジーの世界だな、スラムってー。


 今前足早に通った人でもそうだけど、なんつーか、見かける人、見かける人、みんな擦り切れた麻の服を着てるっつー。


 くそっ。きっと金ねえんだな。みんなっ。みんないい服着られるように、俺がバリバリ1200兆円かせぎたいぜっ!


 しっかし、声掛ける人間探すの大変だっつー。なんかつーか、ちょっとした助け求めるのってむずかしいぜ。


 相手の都合とか考えると、道歩いてたら邪魔したら悪いとか思ったりもするし、人間のプライオリティ的に言ったら、怪我してる人間助けるの当たり前だと思うんだけど、自分からは声掛けづらいっつー。


 立ち止まって話とかしてる人あんまいないんだよな。今、スラム歩いた感じで。


 歩いてたらどこか向かってるわけだし、相手にもいろいろ都合あって声掛けづらいジャン。


 つーわけで、


 PCDAサイクル。ACT。


 対策について改善すべきことがあればさらに対策を計画することっつー。


 さて対策ジャン!


 今の通りは大きかったけど、酒場の通りで急いで酒場を楽しむ人しかいなかったっつー。だいたい大きな通り沿いって立ち止まってる人っていなかったっつー。


 プランの失敗だっつー。


 PCDAサイクル。ACT。


 改善すべきことがあれば、さらに対策を練り直して計画を立てるジャン。


 うーん。なんか問題あったかっつーこと落ち着いて考えて、さらに現場実行DOジャン。


 いて、いてて。



 まあ、きょろきょろ周りみよ。


 誰か声掛けてやすい人間見つけて助けてもらうのが一番だよな?



 これじゃあ、誰かが困ったときに誰も助けてくれねえよ! 現代社会の闇を見たっつー。


 はあ。どうしよ。


 うーーーん。


 とりあえず、助けてくれそうな人はいねえぜー。どうすっか?


 

 















 そうやってアロエを探してうろうろ歩いてたら、夕日が夕闇に変わってきたっつー。


 暗くなってら真っ暗になりそうだから、とりあえず、ACTにもあったけど、住宅街で、明るい場所に行こうと思ったっつー。スラムは街灯もなくて、なんか夜が真っ暗になる気配。なんか、ちょこちょこ飲み屋や、お店もあって、古いランプを炊いてる女の人もさっき見かけたけどっつー。


 あの、ランプつけてた人、ダークエルフだったよな?


 銀の髪に浅黒い肌。スラムにはダークエルフもいるんだな。やっぱ麻の服着てるから差別されてんだろうか?


 って今日は諦めて眠る場所探そう。傷抱えたまま寝る場所もなく彷徨うことになるのは勘弁だっつー。とりあえず、眠れるとこ。ACT。住宅街で。


 でも、どうすっか?


 住宅街なら、野犬とかマフィアとか出ないと思うんだよな。スラムって。真っ暗な中で人気のない場所で野犬に襲われたりしたら、俺大丈夫かって思うし。犬って早いから夜いきなり襲われたらやばいジャン。


 なんかそれで囲いのある場所見つけようと思っても、なんか住宅街でそれらしい場所ないぞ。すごくやばくね?


 ちょっとピンチを感じてひやひやしてたら


 助けが来たぜ!!!


 そこで俺のテンションは爆上がりになったっつー。PCDAサイクル。ACT大成功!


 アセスメント介護アイドルのもえゆずが成功を歌うジャン!



「きゅーーーん♪ アセスメント作戦・大・大・大・成功ぉ~! ニンジン好きー」


 OH~! 待ちに待った虐げられた老人を含む多くの人たちの希望、待望の法律の女神というべき、介護保険法成立2000年のサイキョーの奇跡が今起きたぜ~!


 スラムには希望が確かにある! なぜなら女神のような女の子がいるから!


 うろうる家屋群を歩いていたら、女の子が駆け寄って来たっつー。ちっちゃい女の子。8歳くらい? でもカワイイっつー。


 すごくちいちゃいのに、なんか目がすげえきれいでおっきい。垂れ目で、子どもなのに、ちょっと慈愛を含んたような優しそうな目してる子だぜ。なんつーか、看護婦さんと介護職の女の人あわせたような優しいソフトな目持った子だっつー。


「だ、だいじょうぶですかっ。怪我してますよね?」


 日本人風の女の子だ。ちょっと顔の造形が異世界っぽい気もしないでもないけど、たぶん日本人。長い黒髪にボロボロの服を着てるけど、きれいな子。


 助かったと思った。


 が!!! がが!! しかし、話したら、なぜかコミュ障出たっつー。とほほ。なんでだよ~っ!?


「だ、だ、だだだ、だ、だいじょうぶぐbgば」


 うっ、激しくドモったっつー。


 なんか転生前の記憶人類全幸福計画作ってたこととか、それなりに覚えてるけど、どんな人生送ってたかってのは覚えてねえんだよなー。


 俺がちょっと焦ってると、女の子にっこり笑ったジャン。


 あっ、この子、もえゆずにやさしそうな笑顔なとこが似てるかもせん。


 ただ、俺は自分の失敗でシクシク。ちょい焦り。


 なんつーか、たぶん、トラウマで、俺、コミュ障になってるっつー。たぶんだけど、前世の俺のコミュ障影響確定? うーー、情けないっつー。


 ただ、女の子は気にしないぜ。優しくにっこり笑ってくれたジャン!


「こっちへ来てください。怪我、手当します。私、魔法が使えるから。ついて来てください。私の診療所に行きます」


 ああ。助かったっつー。


 女の子はにっこり。天使の笑顔っつー。


「はい。手握りますね」


 ぎゅっ


 あっ、手握られた。かわいいちっちゃな優しい手。人を助ける意志を持てる優しい小さな女の子の手だっつー。あったかい。


 それから、俺、どっかに連れて行かれるっつー。診療所? 私のって、この子、診療所の子どもか?


 はぁ、助かったー。


 少し潤んだ風な垂れぎみの大きな目が可愛くて優しいもえゆずに似た8歳くらいの女の子。助かった。まるで天使だっつー。




 そっから移動っつー。少し薄暗くなったスラムの土の道を迷いなく女の子は連れて俺を連れて行ってくれるぜっ。たぶん、手握ったのは夜が暗いからなんだろな。


 手、ちっちゃいけどあったかい。


「夜道暗いから気をつけてくださいね」


 あっ、さりげなく声掛けてくれたっつー。


 俺返事する。


「さ、さ、さ、さんきゅーっつー」


 また、コミュ障出た。


 そんな速足じゃなく、とことこ歩く女の子に連れられて、俺、女の子の診療所へっつー。


 10分ほどで診療所にはついたっつー。女の子は片手は俺の手を握って、もう片方の手になぜか砂糖だけ持ってるぜー。


 さとうの砂糖 300g。


 買い物してたのか? 砂糖買いに行ったついでだったのかね? 砂糖だけ買い物? すくなくね?


「お買い物中にあなたを見かけて。よかった。怪我絶対治しますからね」


「さ、さ、さ、さんきゅーっつー」


 また、コミュ障出た。




 それから、俺は女の子に連れられてスラムの工場の跡地近くの掘ったて小屋の中に入ったっつー。


 ひどいボロボロの木造りの、なんだか倒れそうな掘っ立て小屋。日本の住む人がいなくなった木造家屋みてーっつー。窓は木の窓が嵌められていて、入口の木も木製っつー。なんか、日本で人の住まなくなった古い昔の廃屋みたことあるけど、2階建てで、なんかそんな感じっつー。


 なんかボロボロ。


 モラム地区診療所と日本語で縦に入口に看板が斜めに立てかけられていたっつー。


 あっ、日本語だ。けど、なんつーか、木造りで燃えやすそうだなー。


「ここです。私の診療所。中に入ってください」


「お、お、おう。ありがbyふじg」


 あっ、コミュ障また出たっつー。


 建物の中に入るとわりときれいっつー。ガラスのない木の扉の診療室で、けっこうそこそこ広いジャン! ベッドも木だけど10個くらいあるっつー。


 女の子が、ぎゅって手握って、診療室まで連れて来てくれたっつー。


「よかった。今日は急患がいなくて。さあ、椅子に座ってください」


「お、お、おう。ありがbyふじg」


 くっそー。コミュ障取れねー。けど、女の子はそんなこと構わず、俺に椅子を勧めてくれたっつー。ほんとにいい子ジャン。


「大丈夫ですよ。………ん。よかった。これならなんとか。そんなにひどい傷じゃないです。今治しますからね」


 座った椅子は木作りでちょっとギシギシ。でも、きれいな椅子ジャン!


 女の子は向かい側に座って、救急箱いじって消毒を取り出して俺の腕にかけてくれたっつー。


 あっ、ちょっと滲みるっつー。


「痛いかも知れないですけど、傷口を先に消毒しますね。傷口に細菌が入ってると、ヒール掛けたときに治った傷口の中に細菌はいっちゃいますから」


 女の子は丁寧に優しく傷口をアルコールで何度も拭いてくれる。


 手慣れた感じで、丁寧に何度も傷口をアルコールで拭う。


 ちょっとヒリヒリ傷が痛いけど、なんか安心感あんジャン。プロの仕事って感じ。


 やっぱり、この女の子が治療やるんだっつー。ちっちゃい子なのにすげえなっ。やっぱり診療所の子なのかっつー。


「それじゃあこれからヒール使いますね。私魔法弱いから3分くらい発動にかかっちゃうけど、待っててください」


 へえ。魔法の発動ってそんなに時間掛かるもんなんだな。


 なんつーか、手持無沙汰っつー。


 かわいい女の子がいる前で、その女の子を目の前にして、じっと観てるとちょっと恥ずかしいぜー。


 目線とか合わせると照れるけど、目逸らせないし。


 なんかこの子の目っておっきくてドキドキするっつー。


 ええい。雑念じゃ。よそ事かんがえよー。


 あー、なんだろ?


 疑問に思ったけど、魔法使えるっつったけど、やっぱ魔法で治すのか? 初不思議異世界体験だぜー。


 なんかちょっとだけわくわくするぜ。


 魔法ってどんなんだろ?


 女の子は真剣な顔で集中してる。徐々に女の子の体から緑の光がじわじわと溢れて来る。


 すげえな。魔法ってこんなんなんだ。初体験。


 あっ、でも、今気づいた。


 これって治療ただでいいのかなっつー。俺金持ってねえけど。大丈夫だよな? この子にこにこしてたし。治してもらってお金稼げるようになったら治療代絶対はらおっと。


 でも、この子、ほんとにいい感じの子だっつー。


 なんつーか、性格のいい介護の人思い出すっつー。


 じいさんが1963年に入所した終の家として老人ホームという名の介護老人福祉施設だったつー。


 チームケアがすごかったんだっつー。


 介護の人って、利用者の身近な距離で接する存在ですげえありがたいんだよなー。


 利用者の体調の変化とか、暮らしぶりの変化とか、気分の浮き沈みにも対応してくるっつー。


 それで、じいさんの率直な気持ちを話す相手になってくれて、話を聞いて、ケアチームでじいさんの問題話し合って、いろんな問題の解決の糸口みつけてくれたっつーか。


 結局、そこで医療的な相談までしてくれて、その問題を看護婦に相談するアドバイスしてくれたっつー。


「体元気にしましょう。一人で悩んでるより、看護婦さんに相談すればきっと大丈夫ですから。私が介護でお手伝いしますし」


 なんか、この子ってそういう優しい介護職員みたいな雰囲気あるジャン。もえゆずで、8歳で、魔法が使えて人の気持ちに寄り添ってくれる優しい介護職員。


 3分くらい経った。


 それから


「ヒール」


 ふわりと黒髪の女の子が声を出して緑色の光が俺を包む。


 ふわっ。


 気持いー。


 あっという間に俺の額の傷と、腕の傷が治って痛みが引いたぜ。


 すげっ。


 これが魔法の力かっつー。


 魔法で傷治せるってなんつーかすごすぎの気配ジャン。


 女の子は魔法が終わると、真剣な顔をやめてまたにこにこ笑ったっつー。


「これで治療終わりです。よかった。怪我治って」


 いい子やなー。かわいい。ほんともえゆずに似てるジャン。


 なんかほっとしたぜー。


 あっ、


 あわわわ。


 お礼言わねえと。なにやってるんだ。俺、うかつだっつー。


「あ、ああ、あああ、ありがとkbgぐば、」


 ぐわっ。またコミュ障じゃ。


「?」


 あ、わわ。フォローしねえと。なにか言えっ。俺っ。


「あぐb、ありが、、、ぐ」


 なんとか言葉を発しようとするけど、意味にならねえっつー。


 ほんとはお礼言いたいんだけど。俺、全然コミュ障じゃないはずなんだけど。


 ほんとなさけねえっつー。とほほ。


 そしたら、女の子がまたにっこり笑ったぜ。


「ああ。コミュニケーション取るのが苦手な人なんですね。大丈夫ですよ。ゆっくり自分のペースで話してください。私、気にしませんから」


 うわ! ええコやー。よかったつー。コミュ障理解してんなー。


 でも、なんとかしゃべらなきゃ。


「あ、あ、ありがとgkっぶ。お、お、俺、サンコっつー。き、き君の名は?」


 あっ、緊張してねえのになんでしゃべれねえんだよ。俺っ。たぶん体が怖がってるっつー感じか?


「えへ。私、日名子っていいます」


 日名子が笑った。あっ、すごくかわいい。


 天使みたいな子だっつー。


 ほんとに俺がコミュ障ってわかっても全然平気な子みたいだぜ。


 アーグスにムカついたが、この世界来てようやくいいことがあったぜ。


 この子に出会えたジャン!


 てっ、いかんいかん。


 雑念に囚われてる場合じゃないぜ。


 これから生きて勝ち上がるために大切なこと聞かなくちゃ。


 コミュ障を気にしてる場合じゃないっつー。なんとか勝ち上がるために色々聞かなきゃ。


 大丈夫。俺はできる!


 転生してからずっと疑問に思ってたこと、日名子に聞こうっつー。


「ひ、日名子。こ、ここの国なんて国っつー? どういう世界? お、俺、今日、転生してここに来た、ば、ばっかりなんだけど」


「あっ、やっぱり転生者なんですね。この世界はランズワードって言うんですけど、

 日本人がよく転生して来るんです。国の名はシェリルです」


 あっ、なんかコミュ障が落ちついて来たっつー。


 この調子で話そうぜ! 俺はやれるぜっ。


「う、うーん。やっぱり知らない国で世界だっつー。はは。俺、転生しちゃったぜ。

 日名子は日本名だから日本人なんだろ?」


「いえ、私は日本人の父と、シェリル人の母の間に産まれたハーフです」


「そっか。日名子はハーフなのか。素敵だぜー」


 なんか調子が出て来たっつー。日名子は話しやすいぜー。


「えへ。サンコは、やっぱり元々はニホンジンですか?」


「そう。元々はもっとたぶんおっさんだったと思うんだけど、8歳になっちゃったっつー」


「わあ。大変ですね。それじゃあ色々困ってませんか?」


「一番困るのは、この世界の常識が全然わからないことだっつー。なんか、全然知らない世界に来て、なにかしようにも常識がなさ過ぎて困るんだっつー」


「そうなんですね。じゃあ、色々私が教えてあげます。この世界のこと」


「おっ、サンキュー。すごい助かるっつー」


「それじゃあまず一番肝心なこと。私たちニホンジンはこの国では予算不足で学校にも行けないし、権利も保障されてないんです」


「うわ。ひでえ。なんて体制だよ。誰か助けてくれねえの?」


 にこりと日名子は笑った。


 なんつーかさりげない笑顔。なんか大人っぽいな。日名子。8歳なのに。


「がんばりましょう。日本人同士助け合ってるし、スラムの中でも助け合いしてる人が多いです。サンコも助け合いましょう」


「おう。わかったぜ」


 俺が言うと、日名子はにこにこしたっつー。


「えへ。よかったです。最初はなにもできない状態かも知れませんけど、みんな転生したときは同じだって聞いてます。それを助けてくれるお店とかもあるし、国内で何人かお金を持った日本人活動家や、同じく人権の弱いドワーフや、ダークエルフが助け合ってます」


 へえ。転生して企業家になって、日本人だけじゃなくて、ドワーフとかも助けてる人いるのか? 俺もそんな人になりたいぜー!


 さらに日名子はクビをちょっとだけ傾けて笑った。あっ、この笑顔ちょっとかわいい。


「えへ。今はサンコ住むとこないから、この診療所によかったら住んでください」


「ほっ、ほんといいのか?」


 おおっ。なんつー奇跡。住む場所とか最初はのっぱらに住んで雑草食ってやって行こうと思ってたけど。


 日名子ちょー神っ!!!! すげえ助かるっーーー。


「もちろんです。食べ物とか私もあんまりお金ないからいっぱい食べさせてはあげられないけど、私がなんとかしますから。心配しないでください」


「あっ、ありがとう。ちょー助かるよ」


 おお。住むとこ、食事つき。天国ジャン! 日名子マジ天使!!!


 コミュ障の俺でも、気にしないで相手してくれたし、この世界に天使がいたっつー。


 ほっとしたらお腹が鳴った。


 ぐぅ


「あれ?」


 そうだ。俺、死ぬ前も、死んでからも、何も食べてないんだった。


 安心したら喉も乾いてきたっつー。傷のことですっかり忘れてたっつー。


「えへ。お腹減ったんですか? じゃあガーフ作りますね。待っててください。その前に喉渇いたでしょう。水だけでお茶とかないですけど、水出しますね」


 わあ。助かった。食い物ぉーーー。水ぅーーーーー。


 すぐに日名子は立ち上がって台所の脇にある大きなかめから水をすくい、コップに入れて出してくれたっつー。


 うぉおおおおおお。水じゃあああ。


 ずっと水飲みたかったんだよぉおお。あああ。うまぁーーー。すげえエリクサーみたいな味するっつー。






 それからメシも食わしてくれる準備をしたジャン。まるで、もえゆずの食いしん坊ごろごろ野菜カレー料理歌。介護保険法第2条第2項「保険給付と介護状態の軽減および悪化の防止。医療との連携」ターメリッくん的に至れり尽くせりジャン。


 俺、ハイパーリッチか! ちょーリッチか!


 俺は椅子に腰かけてキッチンで料理する日名子を観てたぜっつー。


 日名子がキッチンで小麦粉を解かして、フライパンでガーフを焼いてるっつー。

 うーん。すげえよ。日名子。料理万能。なんか料理食べられると思うと、ワクワクがとめらねえっつ~!


 あー、なんかいい感じー。


 料理作る女の子見守りながら、何もしないでそれ見てるの。


 なんつーか、高校生んときにそういうの憧れたよなーっつー。


 あまりのいいシチュエーションに、もえゆずの、食いしん坊介護保険法の歌がバックミュージックで聴こえてくるぜ~!


『―――わくわく。もえゆず料理はしめじが活躍だ~♪ 【介護保険法1条的きゅんッきゅんッ♪ 家庭ラーメン食べたい1条は~♪ 要介護状態になった人の尊厳~♪ チャーシュー大好き。自立生活を~ー♪ 営むための保険サービス提供するための定義なの~♪ ラーメンにホウレンソウ大好き~♪ 大好き~♪ ほーれんそー~♪』


 キッチンは木で作られていて、脇にさっき水を汲んだ大きなかめがあって、木の板がその横の敷かれていて、その上にまな板があって、まな板の上に牛乳パックが敷かれていて。小さなガスボンベで動く携帯式のガスコンロがあるっつー。


 脇にいろいろ収納する大きな棚もあるっつー。キッチンのものは、わりと原始的だけど、しっかりした造りだって思う。木のお皿も、銅のなべも、フライパンも、ドワーフ製か? うーん。キッチンってテンションあがるっつー♪ 料理っていいよな。わくわくするジャン!


 また、もえゆずの歌聴こえてくるぜ~♪ 介護保険法2条3項の歌が聴こえるジャン!


『―――つけめんッ♪ つけめん~~♪ 料理したーい♪ 大好き大好きー~♪ 2条3項は~♪ 被保険者の心身状態の~♪ しなちく♪ チャーシュー~♪ いろいろ環境で~♪ 被保険者の選択に基づいて~♪ 半熟たまごで適切な~♪ 保険医療サービス、福祉サービス、多様な事業者が~♪ ちじれ麺お替り活躍だ~♪ 総合的・効率的に~♪ 提供しようよ~法律だ~! しなちく~! しなちくー~♪』


 うーん。ガスは通ってないのかも知れないっつー。


 火が弱くなってガスが足りなくなって、さりげにペットボトルぐらいのガスボンベを日名子が作ってる途中に変えてたっつー。ガスのない生活って大変だっつー。


 まるで慈愛の女神の法律。介護保険法の規定に基づく「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営の法律に関する基準の第1項第1条的」的じゃないぜー。ニホンジン的になんとか文明生活を日名子が送れるようにしたいぜー。


 俺の推しのアセスメントアイドルもえゆずも「にこにこ介護」で言ってたぜーっ。


「きゅんきゅん。わさび。わざび。お刺身。お刺身~! 指定居宅介護支援等事業者基準・1条はー大切な法律ですぅー♪ これは指定居住介護者は、介護状態になったときに、居住において、能力に応じて自立した日常生活が営めるように配慮をしなければならないって法律なのでーーーすっ。普通に暮らしできない人のために仕事する人が、その人のために普通に生活できるようにがんばろーーーって法律でーす。もえもえ、きゅーーーんッ」


 しなちく~♪ しなちくっー~♪


 全然文明的じゃないめんどくさい生活させられてんジャン。日名子。なんとかしたいぜー。俺が早く大金持って絶対日名子の生活変えてやるジャン。




 おっ、小さなガスコンロの上にフライパンを載せて、日名子がガーフを焼いてるジャン。


 じゅー。


 ガーフって小麦粉だよな? たぶん、小麦粉。


 なんか砂糖を入れただけの、フライパン一つに丸く引いただけの食べ物っつー。


 日名子は木でできたボールの中に小麦粉と水と、それから砂糖を入れてたっつー。


 あっ、なんつーか、小さい頃の記憶ちょっとだけ思い出したっつー。


 なんちゃってホットケーキ?


 砂糖に小麦粉を溶かして焼くだけで美味しいおやつになるっていう。


 それだけのもの。


 ただ、ずっとメシ食ってなかったから、もう、たまらなくワクワクするジャン。ああ。やっと食べ物食べられるって。ちょっと涙出てきそう。


 俺、たぶん前世、けっこう食べることに苦労してたと思う。なんかやたらにうれしく思ったりするし。


 ただ、ほんとうれしい。日名子、やっぱ天使。




「えへ。お待たせしました。焼けました。一緒に食べましょう」


 フライパンひとつで丸く焼いた薄いガーフを牛乳パックの敷いたまな板の上で、包丁で半分に切って、木のお皿に乗せてほかほかのガーフを載せて日名子はやって来たっつー。


 ほかほか。


 ガーフが美味しそうに焼きあがってるジャン。


 木のお皿の上に乗るガーフは、きつね色に焼けていて、すこしうっすらと端の方に焦げがあって、ちょっとだけ湯気を上げてて、ちっちゃいけど、素朴でうまそうだ。


 それを使い込まれたキッチン脇のテーブルの上に置いて、二人でキッチンの椅子に座って、日名子にっこりっつー。


「さあ、少ないですけど、食べましょう」


「うわっ! 日名子ありがとう。いただきまーーーーす」


 ちょっと丁寧に味わうようにガーフを食べたっつー。なんつーか、砂糖はちょっとしか使われてないし、量も少ないんだけど、じんわり、ほのかに甘味があって、すごく美味しいガーフ。


 あっ、もう食べきっちゃった。


 はぁ………美味しかった。



 水も飲んだし、ガーフも食べたし、なんつーか、ちょっと幸せな気分。


 ただ、ちょっとだけ量は少なくてもっと食べたくなる。贅沢だよなぁー。はぁ。



 それから、日名子とちょっと話をした。


 日名子はちょっと申し訳なさそうに笑いながら言ったっつー。


「えへ。ごめんなさい。食事は今、ガーフだけしかなくて。量が少ないから、おなかいっぱいは食べさせてあげられないんですけど」


 食べさせてくれたのにほんとにいい子だっつー。


「いや、うまかったっつー。なんつーか幸せな食事だったっつー? 砂糖は高いのか?」


「えへ。いえ。200円あればなんとか手に入る感じです。量は使えないんですけど、砂糖だとちょっと満腹感出るから」


「それはわかるなー。塩もいいけど、やっぱ砂糖ジャン。ほんとうまかったよ」


「よかったです。美味しく食べてもらえて」


「ほんとうまかったジャン! 日名子マジ天使ジャン!」


「えへへ。ありがとうございます」


 それから俺は今後のために、日名子に色々な情報を聞いたぜー。なんつーか、ここから浮浪児から大逆転して、1200兆円掴むためには、なんでもかんでも聞ける情報仕入れとくべきだよな!


 お水を飲みながら、テーブルに向い合せで俺たちは話す。


 なんつーか、日名子はいつもにこにこしてるな。


 素朴な疑問とかかるーーーく聞いてみよっかな? いろいろと。


 ちょっと俺が思い出す限りの記憶の中での笑い話なんか交えながら、俺たちは話したっつー。


「ははははは。あっ、今思ったけど、円って、この世界円が通貨になってるのかっつー? 日本人が差別されてるのに、円が通貨になってるってどういうこと?」


 日名子はにこにこ答えてくれたっつー。


「へー。サンコはサンショウウオ食べたことあるんですね。えへへ。あっ、円のことよくわからないです。私は産まれたときから、円だったので。なにかその戦争前は、ルクサンって通貨だったと聞いたことがあるんですけど。戦後しばらくまでは日本人の差別はなかったってお父さんが言ってました」


 なんか日名子ってすごくいい。いつもにこにこしてるし、子どもの目線で、一生懸命俺のために俺の疑問に答えてくれるっつー。


「戦争があったのかっつー?」


 日名子はやっぱりにこにこ。


「えへへ。私あんまり詳しくないんですけど、お父さんが転生する前に戦争があったらしいです。時期まではわからないですけど、すいません。私医療知識以外あんまりなくて。学校に通ってないから」


「いーーや、全然役に立つっつー。俺も常識ねえからっつー」


「よかったです。サンコのお役に立てて。えへ。私子供だからあんまり詳しくないけど、私の知ってること話しますね。学校は日本人の企業家の人が建てた日本人学校が受験で受けられて、そこに行くと、日本人企業で雇ってもらえるらしいんです」


「普通の学校には入れないって言ってたよなっつー?」


「そうです。普通の学校はニホンジンとハーフは入れません。受験は子供でも12月12日に王都で出来るようになってます。ダンジョンに行くためのバス会社を建てた日本人の人が子供が無料になるバスを出してるんです。サンコは受験したいですか?」


「いや、俺は学校よりも事業やりたいと思ってるジャン。3年間通ってる間に、事業とかできると時間がもったいないと思って」


「ふふ。それは私もですね。スラムで診療所やってるから。診療所はヒールができる人間が建てられる施設なんです。ただ、医療施設とは別でお医者さんの医療行為はできないことになってるんです。お父さんは転生する前医大生だったんですけど、日本人だから、医療免許が取れなくて、ヒールが使えるお母さんと一緒に診療所を建てたんです」


「へえ。すごいジャン。日名子のお父さん」


「はい。お父さんはすごいんですっ。でも、3年前にウィルス性の流行り病で死んでしまって。お母さんも一緒です。なにか流行りの肺炎だったんですけど、治療薬が作られる前でどうしようもなくて。私だけが病に掛からなくて」


「あっちゃー。ごめんな。辛いこと思い起こさせてちゃって。日名子のお父さん転生者だったんだな。何歳で転生したの?」


「えへ。気にしないでください。お父さんが転生したときは20歳だったらしいです。私の父は、シェリル歴1980年に転生しました。そのときは結構景気もよかったので、他の診療所で雇ってもらって診療所建てたって話してました。なにかすごくいい時代だったみたいです」


「なんか、地球と年号同じに思えるなっつー。今ってシェリル歴何年? シェリルって王国制だよな?」


「2023年ですね。今日は春の4月18日です。シェリルは王国制です。皇帝陛下が治めていますけど」


「そっか。皇帝がいるのに王国制なんだな。なんか変わってるなっつー」


 なんか色々日名子から聞けてこの世界のことがちょっとだけわかったっつー。


 もっと話したかったんだけど、色々話してるうちに人が戸口から中に急に入って来たっつー。


 患者さんか?


 そう思ったんだけど、おっ、違う。入って来たのは日名子と同じ歳くらいの男の子だっつー。


 銀髪で、耳がとがってて、浅黒い肌。


 アーモンドみたいな赤い目したかわいい男の子だっつー。


 ダークエルフの子どもだな。なんつーか、第一印象は優しそうな子っぽい?


 男の子は袋を抱えてるっつー。


「やあ。日名子。仲間に分けてもらってね。おいも持って来たよ。一緒に食べよう。

 って。――おや、お客さんかい?」


 日名子が言った。


「あっ、ルークありがとうございます。お客さんというか怪我をしていて」


「あっ、患者さんかい? そりゃ間の悪いときに来たね。ごめんね。患者さん」


「い、いやいや、gkっぶ、お、お、お、俺助けてもらった、だ、だ、だけだからっつー」


 げっ、またコミュ障出たっつー。なんでだよっ。


 ルーク君っていうのか? 日名子の友達みたいだからコミュ障忘れて仲良くしたいぜー。

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俺がほんとに成り上がるための転生ストーリー @merumo33

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