第4話
それから二週間後。
俺はいつものように保健室で宿題をやっていた。まだ鈴木も先生も来ていなかった。
そんな事を考えてるとタイミングよく人が入って来た。鈴木だった。
「あ!また宿題家でやってきてない!」
「うるせーな。家じゃ・・・・いや別に何処でやったって良いだろ。」
「提出期限まであと十五分だよ。」
「答え写させろよ。」
「駄目。自分でやんないと。手伝ってあげるから。」
鈴木と向かい合って宿題をする。「ここ違う。」だとか「良いよ。あってる。」などダメ出しされながら行われて行く。
廊下を行き交う生徒の足跡や「おはよう」と言い合う声が耳に入り、登校時間より早く来すぎたと思った。
頭が冴えてるのか鈴木の話を聞きながら、そんなどうでも良い情報まで頭に入ってくる。
「よし!終わり!頑張ったね!」
宿題が終わって、鈴木が笑顔で言った。俺より喜んでる気がした。
そして、やっぱり未だに理解できなかった。
「なぁ。どうして俺に付き纏うんだよ。別に同じ空間にいても無視すりゃ良くない?俺のこと嫌いだろ?」
「最近はそうでもないよ。一緒に居て楽しいし。」
俺と一緒に居て楽しいか。あんなに死ね死ね言ってた癖に。
「だから、イジメをやめてくれたらもっと仲良くなれると思う。」
俺は思わず鈴木を睨んだ。
「じゃあやめないからお前とは仲良くなれない。」
「どうして?貴方だって殴られれば痛いってわかるでしょ?暴言を吐かれれば辛いでしょ?」
鈴木が俺の手を握って訴える。柔らかく、小さい手から鈴木の体温が伝わった。
少し冷たい頼りない熱だった。
「だからだよ。やられない為に強さがいるんだ。俺はあいつらを殺して自由になる。その為に人を攻撃するのに躊躇いをもってたら負けるんだ。」
「殺すってどういう事?」
俺の事を鈴木は激しく動揺した目で見てる。その目が気に入らなくて、握られた手を振り払った。
「そんなの絶対ダメだよ。」
「じゃあどうすんだよ。やられたままでいろってのか?」
「違う!もっとやり方が・・・。」
無いよ。俺は人を傷つけることでしか物を語れない。
親から教えてもらった生き方の表現は暴力と発狂しかない。
「お前に俺の何がわかるんだよ。イジメから逃げてこの学校に来た癖に。どうせやり返す事もしなかったんだろ?だから舐められてイジメられて心ぶっ壊された。」
もうめんどくさかった。鈴木の生き方を決めつけ、話を終わらせたかった。
頭の中で家に帰るか、ベッドに沈むか、考えてた。すると、悩んだ表情をしながら鈴木が口を開き始めた。
「そんなことないよ。私はイジメと戦った。」
鈴木の言葉運びが重く、俺の耳にゆっくり入って来る。
「初めはずっと勉強してるのが気持ち悪くて気に入らないって理由でクラスの子達に目つけられてイジメが始まった。まずは教科書をトイレに捨てられるとか些細な事だったんだけど、どんどんエスカレートして暴力まで振るわれるようになった。けど頑張ってたんだよ。男の子に殴られたけど、その場でやり返したりしてた。」
根性がある。それでいいじゃん。と思ったが、それでうまく行ったなら今鈴木はここに居ない。だから話の続きが気になって、珍しく話を聞こうとしてた。
「でも、一人で帰ってる時・・・・男の子達五人にむりやり体育倉庫の・・・中に・・・連れてかれて・・・。その・・・・制服脱がされて・・・・」
話すのが遅くなる。
「何枚も・・・何枚も写真撮られて・・・クラスのラインに裸の写真貼られた。」
鈴木は机にあった消しゴムを落ち着きなく触っていた。俺とは目を合わせてない。
「その後服もってかれて、・・・裸だからその場で動けなくて・・・・暗い場所でずっと・・・・・。」
悔しそうに肩を震わせ始めた。見てられなかった。
「話したくないなら話すなよ。」
「ごめん。大丈夫。」
呼吸を整え、水筒の水を飲み鈴木は続ける。
「自分の話するつもりじゃなかった。けど、私が言いたいのはやりかえすのは大事だけど。真正面から戦ったらきっと凄い傷つく。」
「だから殺すなんて考えないで、佐藤くんも良くない結果に絶対なる。」
そう言われてもどうすればいいんだ。そんな俺の疑問を感じたのか鈴木は言葉付け足す。
「困ったら誰かに相談してみて。田中先生も私も力になるから。佐藤君は素直で良い子だから人を傷つけなくても生きて行けるよ。」
素直で良い子。
そんなこと言われたこと無くて、大声あげれば良いんだが、蹴れば良いのかわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます