第2話
次の日俺は仕方なく保健室に行った。
いつも通り派手に扉を開くと、開幕目に飛び込んできたのは背もたれの無い四本椅子に座って、机に問題集を広げている鈴木だった。
鈴木は音に反応し、俺と一瞬目があった。
先生じゃないとわかるとすぐ問題集に視線を戻したけど。
何がしたいのかわからねーけど俺と話すつもりが無いのは良く伝わった。
保健室には鈴木一人だった。田中先生はまだ朝会議でここには来てない。
好都合。俺は一直線にベッドに向かってダイブした。カーテンを閉めて太陽の光すら遮断した。朝なのに薄暗く、眠るにふさわしい環境が整った。
あの人いるとベッド使わせてくれないんだよな。こんなフカフカのベッド使わなきゃ損だわ。
寝転がって眠りにつこうとした。保健室は静かだった。
いつも通り時計のカチカチという音しか聞こえない。しかし今日はいつもと違った。
カリカリというペンを走らせる余分な音が一つ混じっていた。
軽くため息が漏れた。
何であんな奴連れて来たんだか。そもそも俺がここに居るのはイジメる生徒とイジメられる生徒を一緒にしたくないからじゃねーのかよ。
あの鈴木とかいう女はイジメられてここに逃げて来たんだろ?
適当な仕事ぶりにイライラした。
そんな事を考えてる時だった。
「ねぇ。」
聞き慣れない声が聞こえたと思ったら、シャーとカーテンが開かれた。
そこには鈴木がたっていた。
「あ?なんだよ。」
丁度眠れそうな所を邪魔されて少しムカついた。
「あなた人をイジメてたからここに居るの?」
なんだ。喋れたのかこいつ。初対面の物静かな雰囲気と違って堂々と質問して来たので驚いた。
「そうだけど。」
「どうして人をイジメるの?」
「どうして?理由はねぇよ。イジメられる方が悪いんだよ。」
鈴木は少し震えていた。怖いなら話しかけなきゃ良いのに。
「てかお前うざいわ。話しかけてくんな。あんまり鬱陶しいと前の学校でされてたことするぞ。」
鈴木は黙った。その場から動かなくって、ただ俯いてた。
「何突っ立ってんだよ。黙って勉強してりゃ良いだろ。」
鈴木はその場から動かない。ここが教室なら突き飛ばしてたが保健室だからやめた。田中先生に怒られるのめんどくさいし。
かといって俺も優しい人間でない。
この状況が続いたらキレて手を出しそうだったので、ベッドから出た。
「トイレ行ってくるから先生来たら伝えとけ。」
大きい独り言を残し保健室の出入り口に手をかけた。
その瞬間、背中に激痛が走った。何か先端の尖った物で突き刺された痛みが体を支配する。
「死ね。お前みたいなのがいるから・・・お前みたいなのがいるから!」
状況を理解した。背中にポールペンを突き刺していた。
更に俺の髪を引っ張って、「死ね!死ね!死ね!」と呟く度にボールペンを背中に突き刺してきた。
「イタッ!・・・痛いって!おい!やめろ!」
俺の提案は受け入れられない。掴む力に刺す力は更に強まり、止まる気配はない。
ザクザクと背中のあらゆる箇所ににボールペンが突き刺される。
腰より少し上部分に刺さった時だった。今までで一番強い痛みが全身を襲った。
頭に血がのぼって俺もそこでブチ切れた。
「おら!」
力関係は明確で俺は鈴木を簡単に引き剥がして机に叩きつけた。
ぶつかった衝撃で机がずれて問題集が地面に散乱した。
背中を抑え倒れる鈴木を足で何度も踏みつぶした。
「てめぇ調子乗ってんじゃねーぞ!」
「こら!何してるの!」
扉が開き田中先生が朝会から帰って来た。
先生はすぐさま鈴木に駆け寄って大丈夫かと何度も聞いていた。
鈴木は涙を流していた。錯乱しているのか、先生の質問には答えられてなかった。
「お前みたいなのは死んじゃえ。死ね。死ね。」
そんな状況でも俺への恨みは健在だった。
涙を浮かべながら、呟くように呪詛を吐いていた。
「お前が死ねよ。てか先に手出してきたのそっちだろ。」
そう言い返したら、田中先生に軽く頭を叩かれた。意味が解らなかった。
その後先生は喧嘩の手当を優先した。最初は鈴木からだった。湿布を張る為、俺はカーテンを閉めベッドで待機するよう言われた。
見ないし、興味無いわ。って言い返しても良かったけど田中先生が怒りそうだからやめた。
カーテン越しから先生のもう良いよという声が聞こえて、先生の目の前に移動した。
服を脱いで、ボールペンがザクザク刺された背中を見せる。
「ここ刺されたんだ。痛かったでしょ。」
「まぁね。」
「・・・・・え。」
二人の事を後ろで見ていた鈴木が驚いた。
あー多分俺の背中見られたな。
痣だらけのこの背中みて何か思う所があったのかもしれない。
「その傷どうしたの?」
「お前にボールペンで刺されたからに決まってんだろ。自分でやっといて『どうしたの?』はヤバいだろ。」
鈴木も先生も何も言わなくなった。冗談をいう雰囲気では無かったらしい。
仕方なく本当のことを話してやろうと思った。
「親にやられたんだよ。あと父親とよく家を出入りしてる女にもか。俺が邪魔で気持ち悪いんだってさ。」
本当の事を言ったが、沈黙は変わらない。
何も言えないなら聞くなよ。
俺だってこの話すると周りが静かになるからしたくないんだよ。
パン!と手を叩く音が鳴った。田中先生だった。
「じゃあ、手当も終わったし二人で少し話そうか。」
「何でだよ。」
突拍子も無い話に思わず敬語を忘れる。
「当たり前でしょ!?喧嘩した後なんだからまずはお互い話し合わないと。今度は私が見てるから思う存分言いたい事言い合いなさい。」
余計なことを。何にも言いたい事なんてない。俺はただムカつくから蹴っただけだ。
それに鈴木だって俺に言いたい事なんてないだろう。
しかし鈴木は吹き飛んだ机を元通りにし、席に着いた。
「ほら佐藤君も早く席ついて?」
先生にせかされ、俺も仕方なく席についた。
俺と鈴木が向き合い、俺から見て左側に先生が座る。
「じゃあ鈴木さんどうしてあんなことしたの?」
「私は人をイジメる人が嫌いだからです。イジメをしてたのに全く反省してないその姿勢が許せなくてやりました。」
「そうだね。それは良く無いよね。」
つまんない会話に欠伸をこぼれた。
「人の痛みがわかんない奴だと思った。でも、貴方だって人に傷つけられてる人だよね?」
ムカつく事に反応してしまい、鈴木に目を向けてしまった。
「それなのにどうして・・?殴られたら痛いってわかるよね?暴言いわれたら辛いってわかるよね?どうして平気で人にそんな事ができるの?」
改めて言われると答えるのに困った。そんな事考えたことも無かった。
何で自分が気持ち悪い奴をイジメるのか。
ただ答えないというのもダサいので、とりあえず言ってみた。
「そういうもの・・・だから?」
「そんな訳ないでしょ!あんたは間違ってる!」
鈴木が机をバンと叩いて、大声で立ち上がった。
急に大声を出されて、耳がキーンとなってイラっとした。即座に俺も立ち上がった。
「また蹴られたいのかよ!」
「はい。落ち着いて。」
先生が間に入ったことでお互い手は出さなかった。数秒にらみ合ってから俺は馬鹿らしくなって荷物を持って保健室から出た。
先生は特に止めなかった。ただ後ろから、明日もちゃんと来なさいよ。と言っていたのは聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます