好きこそものの上手なれ~~魔法大好き少年が魔導士と呼ばれるまで~~

@yuuki009

第1話 始まり

『魔法』。


 それは超常の力。魔力とも呼ばれる生命力を元に放たれる力だ。炎の壁を生み出し、大地を水で潤し、岩の巨人を生み出し、風の力で空を舞う。


 人の常識を超えた魔法の力に魅せられる者は多い。多くの者たちが、魔法を扱える者、『魔法士』に憧れ、次の世代の魔法士になる事を夢見る。


 魔法士を目指す者は多い。魔法は超常の力だ。だからこそ、その力で富や栄誉、金を得るために魔法士になろうとする者は多い。だが、その多くは魔法士になる事無く挫折し、諦めていく。なぜなら魔法士となるためには魔法に対する先天的な才能も必要だからだ。


 魔法士になる道は決して楽ではない。運の部分も必要だからだ。だが、それでも人々の魔法に対する渇望は、決して消えることはない。


 誰しもが一度は魔法士になる事を夢見る。そして『彼』もまたそんな夢を追いかける、1人の少年だった。



~~~~~

 ここは、魔法と呼ばれる力が存在する世界。人々が住まう大陸にはいくつもの国があり、この世界ではいくつもの種族や動物が暮らしていた。いくつもの国やコミュニティが形作られ、人々は暮らしていた。


 そんなとある世界の片隅に、ありふれた農村があった。そしてこの農村に、『彼』はいた。



~~~~~

 農業という仕事は過酷だ。人の手で畑を耕し、種を植え、毎日毎日世話をして、物が大きくなれば収穫し、そして街などに売りに行く。やる事は多く、それ故に人手は必須だ。基本的に農家となると、5人家族くらいは当たり前だ。両親2人に複数の子供たち。子供たちは若くとも、繁忙期ともなれば仕事に駆り出される。


 そして『彼』もまたそんなとある農村の、農家の末っ子だった。


 そこは特にこれと言った、他の農村と違いなど無いありふれた農村だった。そんな農村にある一つの家で6人の家族が暮らしていた。


 そんな一家のある日の、お昼休みでの事だった。


「なぁなぁ、アレックス」

「ん?何?兄貴」

 お昼休み、彼らは家の一角で休憩がてらテーブルを囲んで駄弁っていた。そんな中で兄、『シーク』より声を掛けられた黒髪の少年、『アレックス』。

「お前は将来どうするんだ?」

「将来って、いきなりなんでそんな事聞くのさ?」

「いや。お前だってもうすぐ10歳だろ?いい加減、将来の事決めておかないと不味いだろ。アレックス以外は親父の後を継いでこの村で農家やりながら嫁さんでも探すって決めてるけどさ、お前はどうするんだよ?」


「そんなのもちろん決まってるじゃんっ!俺は魔法士になるのっ!」

 アレックスは座っていた椅子から立ち上がり、決意に満ちた表情で叫んだ。が、しかし……。


「お前は相変わらずか」

 兄のシークは彼の言葉に『やれやれ』と言わんばかりに苦笑を浮かべている。

「あのなぁアレックス。魔法士になるのは簡単じゃないのは、お前だって知ってるだろ?」

 シークはまるで親が子を諭すような口調で話し始めた。


「魔法士になるには、まず何よりも才能が必要だ。才能が無い奴は魔法士に慣れない。いや、そもそも魔法すら使えない。それはお前だって知ってるだろ?」

「で、でも才能があるかどうかなんてやってみないと分かんないじゃんっ!」

「あぁ。でも『やってみないと』、って簡単に言うけどな。でも、じゃあ才能があるか無いか、どうやって試すんだ?その方法は、もう何十回と話したから知ってるだろ?」

「それは分かってるよ。『魔法士に弟子入りする』か、『町で魔法書を買って勉強する』、でしょ?」

「あぁそうだ。でもな、弟子入りなんて簡単に言うが、今の世の中、金のない平民の子供を弟子にする魔法士なんているのか?大体の奴は貴族に金積まれて、貴族の子供の相手で手一杯だ」

「そうそう。それに魔法書を買うって言ったって、値段とかすげぇ高いんだろ?」


 シークの言葉に別の兄弟が反応する。そして彼の言う通り、魔法を学ぶための書物、魔法書はかなり高額で取引されている。

「あぁ。この村にあるお金全部集めても買えるかどうか分からないくらいの、高級品だ」

「うげっ、何だよそれ。それこそ貴族に借金でもしないと、俺らが魔法書を買うなんて無理な話じゃん」

「そもそも俺らみたいな平民に金貸してくれる貴族なんて居るのかよっ?」

「いや居る訳ねぇよなぁっ!」


 そう言ってシーク達は可笑しそうに笑っているが、反対にアレックスは眉を顰め、不服そうに頬を膨らませている。

「絶対、魔法士になって見せるもん……っ!」


 半ば意固地になりながらも、彼はまだ夢を諦めてはいなかった。



 とはいえ、平民の出でありながら魔法士になる事は難しい。例え才能があったとしても、その有無を確認するためには誰か別の魔法士を師事し教えを乞うか、魔法書を手に入れ独学で魔法について学ぶしかない。


 だがシークが先ほど言った通り、どちらも難しい。更に付け加えるのなら、魔法書には専門的な用語等もあるため、例え運よく魔法書を手に入れられたとしても、それを理解できる頭が無ければ始まらない。詰まる所、平民にとって魔法士とはそれほどまでに狭き門だったのだ。


 それでもアレックスは、諦めなかった。が、しかし……。


「ハァ、今日もダメだったなぁ」

 ある日、珍しく休みを貰ったアレックスは村の近くにある山、その合間を流れる川辺へと行き、何としてでも魔法を使えないかと、四苦八苦していた。


 ある時は川辺で瞑想をしてみたり。

 

 ある時は手から何か出せないかと指先や掌に力を込めて見たり。


 アレックスはとにかく魔法の才能があるか、思いつく限りの事を試した。だが、そう簡単に素人が魔法を使えるのなら、誰も苦労はしなかった。


 どれだけ試行錯誤を繰り返しても、何の成果も無い日々が続いた。


 そんなある日の午後。昼休憩を終えて畑仕事のために農具を手に畑に向かうアレックスやシーク。そんな道中にて。

「おいアレックス。いい加減諦めたらどうだ?」

「やだっ!絶対にあきらめないからっ!」


 日々魔法士になると言って聞かず、休みの大半も自主練習という名の、殆ど無駄な努力を続けるアレックスに、兄であるシーク達は諦めるように促すのだが、肝心のアレックスは諦めない、の一点張りという状況が続いていた。


「ハァ、あのなぁアレックス。お前の諦めない気持ちは凄いと思うぞ?だがなぁ、物事にも限度ってものがあるんだ。……そりゃぁ、俺たちだって昔は魔法士になる事を夢に見たさ」

 シークの言葉に他の兄弟たちも『うんうん』と頷いている。


「けど、時が流れていく度、それが夢物語だって気づいたんだよ。俺だって子供の頃はお前みたいに色々試したさ。魔法士になりたくてな。……でも結局ダメだった」

 シークは、過去の自分を懐かしむような、憐れむような、そんな表情で言葉を続ける。

「どれだけ色々試してもダメだと分かって、次第に魔法師になる夢は叶わないって理解した。だからこうして親父たちと農家をしてる。……アレックス、お前もそろそろ、現実を見る時が来たって事さ」

 シークはアレックスを宥めるように、彼の頭を優しく撫でる。


「分かってるよ。俺もそろそろ、そういう歳になるんだって。でもっ!!」


 アレックスもシークの言い分は分かっていた。だが、彼とて引けない理由が、想いがあった。

「せめて、せめて適正があるのか無いのかだけは、知りたいっ!無いのなら無いで、俺だって諦めがつくよっ!でもそうじゃないならっ!」

 アレックスはギュッと、固く拳を握り締めた。


「ハァ。なぁアレックス。お前、なんでそこまで魔法に、魔法士に拘るんだ?」

 まだ言うのか、と呆れんばかりに息をつきつつもシークは問いかけた。

「それはっ!」

 問いかけにアレックスは声を大にして答えようとした。が……。


「おぉお前らっ!ちょうどいい所に来たなっ!」

「あれ?親父?」

 畑の方から、先に畑に向かっているはずの父がこちらに向かって来ていた。それに気づいてシークやアレックス達は会話を中断し、そちらに目を向けた。


「どうしたんだ親父。何か忘れ物か?」

 彼の畑はまだ少し先だ。それが家の方向に戻ってきているのだから、忘れ物か?と考えても可笑しくは無い。

「いやっ!そうじゃないんだっ!実はな、今村に客人、いやっ!新しい住民が来ててなっ!」

「住民?どういう事だよ?」

 いまいち父の言葉の意味が分からず、シークは首を傾げている。傍に居たアレックス達もだ。


「何でもその人は、田舎で隠居生活を考えているらしくてな。たまたまこの村に立ち寄ったんだよっ!それでその人と村長が話し合った結果、その人、『グレイル』って人が山にある山小屋で生活する事になったんだとよっ!」

「へ~~。こんなクソド田舎で隠居生活とはねぇ。よほどの物好きなのかねぇ?」

「それは分からねぇが、聞いて驚けっ!なんとグレイルさんは、『魔法士』らしいぞっ!」


「………えっ!?!?」


 それまで、シークと父、『バリー』の話を大して興味も無い、と言わんばかりの表情で聞き流していたアレックスだったが、その表情は瞬く間に一転した。

「父さんっ!それ本当っ!そのグレイルって人、魔法士なのっ!?」

 アレックスは農具を地面に置くと、すぐに前に出てバリーに詰め寄り、その服の裾を掴んで問いかけた。まるで答えてくれるまで離さない、と言わんばかりの鬼気迫った表情でだ。


「お、おぉっ。村長と一緒に話をしたって言う奴からの又聞きだから詳しくは知らないが、そうらしい。なんでも食料とかを分けてくれる代わりに、魔法で手伝える事があれば言ってくれ、とか何とか話してた、って聞いたんだが……」

「そのグレイルさんっ!今どこにいるのっ!?まだ村にっ!?」

「た、多分な。まだこの先で村長たちと話してるんじゃ……」


「っ!ありがとっ!」

 バリーから話を聞くと、アレックスはすぐさま駆け出した。

「あっ!おいアレックスッ!」

 後ろから聞こえるシークの声を殆ど無視してアレックスは走った。彼は目を輝かせながら走った。転びそうになりながらも、全速力で、息を切らしながら走った。


 それほどまでに、夢を掴むチャンスがすぐそばにあるからだ。魔法士への夢を掴むチャンスが。



「ハァッ!ハァッ!ハァッ!あっ!!」

 そして走っていると、前方でアレックスも見慣れた村長が、見慣れない初老の男性と話をしているのが見えて来た。

「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」

 そこから更にアレックスは全力で走った。夢を逃がすまいとするように、大粒の汗を流しながらも必死に走った。


「ん?おやアレックス。どうした?」

 そしてアレックスが村長と男性の元にたどり着くと、彼の荒い息遣いに気づいて村長が振り返り、問いかけてきた。


「ハァッ、ハァッ!お、お話し中に、ごめん、なさいっ!でも、どうしても、聞きたい事があってっ!あなたが、グレイルさん、ですかっ!?」

「……あぁ」


 村長と共にいた男性、グレイルは静かに頷いた。白い髪と白い口髭が特徴的な初老の男性。アレックスは息を荒らげながらも、彼を見上げる。


「お父さんから、聞きました。グレイルさんって、魔法士なんですかっ!?」

「……あぁ」


 グレイルは魔法士、という単語に反応し、僅かに眉を顰めながらも頷いた。

「ッ!」

 それとは対照的に、彼の言葉を聞いたアレックスは目を見開き口元は笑みを浮かべていた。彼の夢の成否に関わる存在が目の前にいるのだから無理もない。


「あ、あのっ!お願いがあるんですっ!俺に、俺に魔法を教えてくださいっ!」

 だからこそアレックスは声を荒らげた。

「俺、魔法士になりたいんですっ!お願いしますっ!!」


 誠心誠意、気持ちと願いの強さを表すように声を大にして叫び、彼はグレイルに向かって頭を下げた。


 ……が。

「断る」

「えっ?」


 返って来た言葉は、否定。アレックスは疑問符を浮かべながら、顔を上げる。彼の見たグレイルは、鋭い目でアレックスを見下ろしているだけだった。


 これが、のちに魔導士と呼ばれる少年と、その師匠の最初の出会いだった。


     第1話 END

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