Level1
物怪幸王
第3話 始まり
「ばく、はつ?」
オレの理解が追いつかない。近づきたくない。
でも、動けない。
「……逃げなきゃ」
逃げないと。逃げろ。早く、にげ。
「……っ!」
何かで滑って転んでしまった。
でも、にげ。
「……逃げんなよ」
その声は、オレの恐怖心を煽る。本能に刻まれた恐怖。
「あ」
死ぬ。ほんとに、死ぬ。
ずっと生きてて、死ぬとか、死のうとか、いっぱい思ったでもこれは違う。
目の前にある死。理解では無い。これは本能。
声しか知らない男からオレは死を感じていた。
「あ」
オレは声の主を見る。その主の姿は左右非対称だった。自然界の生き物は左右対称なもの。だがこいつは違う。まるで異形。岩石のようなツノが一本、頭の右側に生えており、体に光る線が入ってある。目は黒く、強さを感じさせる。顔の半分が怪物の仮面で覆われていた。そして謎の黒いエネルギーを纏っている。
「あ、ごめんなさ」
寒かった。そして違和感を覚えた。
見たくないけど、オレは左手を見なければならない。
全身を震わす悪寒。いや、もう知っている。オレの目の前にいる何かが持っている左腕が誰のものかなんて。
「……」
左腕を見ると、肘から先が消えていた。
「うっ、うわっ」
「はいお口チャックー」
喋れることに驚いた。
アナウンスが頭の中に流れる。
「私たちは王様が欲しい。もう力を得ている人もいるらしいけど、正式にはこれから始まり」
アナウンスでこの何かが止まるわけではない。オレはコイツからも質問される。コイツの尖った指がオレの喉に食い込んだ。
「お前から匂う」
「ごめんなさい」
「王の香り。だれだ? 誰に会った?」
「ごめんなさい」
唾液と涙が混ざり合うなか、アナウンスが続く。
「人間に力を授けた。それを鍛え、王となれ。どうやらもう
怪異と呼ばれる者は言う。
「言え。言え。言え」
「ごめんなさい」
アナウンスが続く。
「時々こちらからも命令を出す。せいぜい生き延びろ。終わりは必ずあるのだから」
声はもう聞こえない。
オレは記憶を見ていた。
「だからね、私は思うの。なんで先生の言うこと聞かなきゃいけないんだって。なんで親の言うこと聞かなきゃいけないんだって」
小学生の時の記憶。そう言っているのは
そういえば、昔から反骨精神が凄まじかったな。
「
「おれは、言うことはきかないといけないと思う」
「えー」
ぶーぶーと言いながら、機嫌の悪そうに公園の砂でお城を作っている彼女。オレは微笑んだ。
そうだ、そうだった。
反骨だ。
オレはずっと他人に対して何も思わなかった。名前もほとんど覚えていなかった。
でも、今は違う。
オレはお前に強い感情を抱いているよ。
お前が
「死ねよ」
オレの体は浮いており、
当たり前のように、鼻で笑われる。
オレは投げられた。
「…… 」
驚く隙もなかった。突如として現れる突風。その中心にいるよく知っている人物。
オレは二つのことに驚いた。一つは彼女の事。
「
この場に現れた女。それは橋の下で会話した子だった。
そしてもう一つは……。
「日付はわからないって言ったけど、まさか今日だとは思わなかった。君には恩がある。安心して」
小鳥遊さんは怪異を見つめながら、こう言った。
「私が絶対に守るから」
もう一つの驚き。それは左腕が治っていた事ではない。それは……。
「嘘だろ」
オレと相対した怪異の後ろに並んでいた、数百もの怪異達の姿であった。
それは一人一人、殺意を持って、こちらを見る。
彼らは、笑っていた。
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