いまは、孤独じゃなくて
そして、それから数週間後。いよいよ文化祭当日。
「じゃあ、やっていこうか!」
演劇部の彼の号令に、私達は円陣を組みます。
『おー!』
皆の息ピッタリな返事に気圧されながら、私も控えめに声を出しました。
「……お、おー」
「ちょっとー?声が小さいよ?」
ニヤニヤと笑いながら陽葵ちゃんが肘で小突いてきますが、私はそれどころじゃありませんでした。
そして円陣の後は皆それぞれの持ち場、あるいはシフトの無い人は他の出し物を見に行きました。
深呼吸をして、私も定位置に向かって歩き出します。
(大丈夫。ちょっと出て行って、セリフを言うだけ。緊張する事なんてない)
そう言い聞かせますが、それでも強ばった顔はほぐれず。頭の中ではぐるぐると不安が渦巻いて、やっぱり私じゃダメなのか、なんて気弱な考えが顔を出した時。
「かーなちゃんっ!どうしたの?」
唐突に声をかけられました。振り向くと、そこに居たのはクラスメイトの女子━━━━私の後に口裂け女の役を演じるはずの生徒でした。
「
「……なんでいるのって、ちょっと聞き方無神経じゃなーい?」
そんな事を言う口はコイツか、と両頬を
「い、いひゃいです……」
「あっはっは、痛いだろー?」
けらけらと笑いながら引っ張る彼女に抗議しましたが、それでも手を離してはくれません。
「や、や
ぱしぱしと頬を抓る手を叩き、ようやっと力が緩んできました。
「……もう。なんて事するんですか……」
「いやー、何か悩んでるように見えてさ。ちょっと心配になっちゃって」
「もっと普通に励ましてください!ほっぺた痛いじゃないですか」
「ごめんごめん。でもさ、ほら。まだ緊張してる?」
言われてみると確かに、先程まで感じていた緊張はいつの間にかほぐれていました。
「大丈夫……だと、思います。多分」
「なら良かった。カナちゃんって色々と抱え込みそうな感じだからさ、上手いこと吐き出してよ」
それだけ言って、それじゃ、と彼女は去っていきました。
「……よし」
その背中を見届けて、ひとつ呟いて。
そして、持ち場に着くと、
「おっ!来たね、口裂け女ちゃん!」
「楽しみにしてるよー!思いっきり怖がらせちゃって!」
既に待機していたクラスメイトが、口々に応援してくれました。
まるで自分で勝手に追い込まれていたかのように緊張感が霧散していき、変わってどこか温かい、安らかな気持ちが溢れてきました。
━━━━━━━━皆も、カナちゃんが頑張ってるのは分かってるからさ。
「は、はい!頑張ります!絶対、成功させましょう!」
一人じゃない。皆でここにいるんだ。
心からそう思えました。
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