旅の人と東京の人
旅をすると何ということのない景色に意味を探したり感動したりしませんか。何の神様が祀られているかわからない神社や、裏道のせんべい屋さん、初めて見るスーパーに興奮したり。きっとそれらは自分が住む町にもあるのでしょうが、繰り返される毎日に押しやられ泥色に塗りつぶされ、心の地図では隣町にあることになっているような気がします。
旅にはそんな心の地図に覆いかぶさった砂埃を掃いて、日常をクリアにする作用があるのかもしれません。例えば東京の電車なんてすごいんですよ。路線図はあんなにも複雑なのに、一度も外へ出ずに目的の駅までたどり着けるんです。東京の都市設計をした人はもしかしたらドラキュラか地底人かもしれませんね。
新宿で京王線から大江戸線に乗り換えるシーンがあったんですけど、導線の矢印が分りにくく同じところをぐるぐると巡りまして。あれには焦りました。順路が外へ出ていそうに見えるけど、外に出ると街星マップのルートから外れてしまいます。どうしよう、特定の角度からしか見えない道標があるのかな?などと意味不明な考えを巡らせながらもぐるぐる。人間どうしようも抜け出せない問題にぶち当たると、走馬灯のように考えがめぐりはじめます。もしかしたらすり抜けられる壁があるかもしれない。なるほどこれぞまさにコンクリートジャングルだ。2ちゃんで見たぞ新宿駅は迷宮。
こんな具合にこれまでの見間、言葉がとりとめもなく、論理的な思考の膜を突き破り飛び出してきます。これはもう詰んだかとも思いましたが、ぞろぞろと人の流れに身を任せているとピンク色のアイコンが再び見えてきました。大江戸線だ!!!やはり、外を歩かずに駅構内(半分外みたいなところを通った気もしますが屋根はありました)の適路で連絡されていました。これからは、東京で道に迷ったら人の流れに乗るという走馬灯が追加されることでしょう。
そんな東京の電車は私が住む町の電車よりも大きな音で、しかも走行音のパリエーション、レバートリーが豊富でエンターテイナーだなと思いました。
きいいいいいいいという甲高い軋むような音
ごごごこぉぉぉぞっごごおという低く唸るような音
のどかな町並みを走れば、心地よい電車の音
地下鉄を吹き抜ける風の音
きっとこれらの音も普段からその電車を利用する方にとっては、風景の一部でしかなくてすでに色を失った音なのでしょう。魅力的な音の数々。耳の調子が悪い私には少し辛くて耳栓をしていました。東京に住むなら耳栓は必須かもしれません。
私の住む町では電車で1時間30分の移動は気合の入ったお出かけというイメージなのですが、関東圏内の皆様はそれくらい何食わぬ顔でした。交通網が発達しているので移動が不便に感じないのでしょうか。東京の地図が小さく見えるような錯覚を覚えました。数日歩き回ると住みやすそうな町も見つけました。周辺の3LDKのアパートの金額を見てみると今住んでいる住宅の3倍近い賃料。とても住めません。私にとって東京はしばらく住む場所にはならなそうですがこの旅でいい出会いもたくさんありまして、定期的に遊びに行きたいと思いました。また懇意にしてくださる方にも出会い、東京でも音楽活動ができるかもしれません。しかし、このような期待もまだ東京が私にとって旅先だから湧き上がる感情なのかもしれません。
旅の身に降る店先は彩々と カゴに洗剤東京の人
ぴゅら子
知らない街のスーパーは魅力的に見えましたが、そこにはこの街で暮らし買い物する人もいます。現実に引き戻されるような感覚。それもまた旅の醍醐味ですね。
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