片付けるなら混沌を

 人の欲望は恐ろしい。飽くことがない。例えば食。人は一度ものを口にした時から常に食後であり食前である。何かを食べ終わったその瞬間には何かを食べ始める前とも言える。そうやって血を、肉を作り生きている。三才になる我が子も三才なりに食べたいものに正直だ。欲望を従えてお菓子をほっさんと叫ぶ。手をつけられなくなった怪獣はクッキーにチョコレート、キャンディやラムネを貪り両手が空になるまでリビングからキッチンまでの大通りを闊歩する。ひとしきり食べ終わると今度はリンゴジュースを欲しがるのである。まさに止まることを知らない。


 人の欲望は恐ろしい。常に最上を求める。寝る前のことである。片付けがしたいと言い出した我が子は、全てのおもちゃをリビングに広げる。すでにおもちゃ箱に収まっている2軍の車やブロックもリビングに広げる。全ての箱をひっくり替えしていく子の周りの床は、同心円状にカラフルなおもちゃの波紋が広がる。片付けがしたかったはずなのに何故散らかしているんだろう。怒りたい気持ちをぐっと堪える。

 道理が通じる相手ではない。

 しかし大人が納得するには理由が必要だということも分かってほしい。一連の流れを隣の部屋で寝転びながら見ていた男がぽつり「片付けるなら混沌を」得心した。片付けを楽しむためにはガチャガチャに散らかせばいいということだ。混沌が整理されるさまに惹かれているのだ。なんと欲深い。

 子は私たちを従えておもちゃを箱へと片付けていく。線路や電車、パトカーに救急車。こうしておもちゃの群れをまとめてみると、リビングにはまるで一つの街でもあったかのようだった。リビングに散らばった街は丁寧に均されて床になる。明日もまた開発が始まるだろう。


 人の欲は恐ろしい。そんなわがままを受け入れてでも親であろうとすることの欲がどうにも恐ろしい。


仁王立ち片付けるなら混沌を 玩具がんぐの街にあくびが3つ

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