第2話

 私はタクミくんを事務室に連れていき、アイスティーを出すと、タクミくんはそれを一口飲んでからあの夜のことを話し始めた。

 メイドのカナコさんと、お客さんだったタクミくんが付き合い始めたのは、失踪事件の1年近く前だった。そして、あの日もカナコのお給仕が終わる夜10時からお祭りに行く約束をしていた。しかし、彼女はその時間を過ぎても姿を見せず、失踪してしまったという。そして、「カナコさんの幽霊」の噂を聞き、もし本当なら一目会いたいとのことだった。

 彼は喋り終わると、アイスティーを一息に飲み下した。私が聞く限り、彼の言葉に嘘はなさそうだった。オーナー兼店長に相談し、店長と私が一緒に泊まるとの条件で今夜検証することとなった。

 お店の片づけが終わったころには深夜1時を回っていた。疲れたからお店で寝たいと騒ぐメイドたちをマリの家にまとめて送り届け(マリに事情を話したら二つ返事で彼女たちの寝場所とお風呂を提供してくれた。)、同じビルにあるバーで時間をつぶしていたタクミくんを呼び寄せた。


 何時ころだろう。二日酔いのようなひどい頭痛で目が覚めた。着替えずに眠ってしまったせいで、メイド服のレースが汗を吸って張り付いていた。気持ち悪い。立ち上がろうと手に力をこめると、動かないことに気づく。

 え? 金縛り?

 暑いはずなのに、背中に違う汗が流れた。店長を呼ぼうとするも声は出なかった。ただ店長のいびきだけが響く。

 衣擦れの音がして、追うように目を開いた。正面、店の反対側のソファーにはタクミくんが寝ている。彼の前にメイド姿の女の子がかがんでいる。彼女の背中と重なっていて、タクミくんの顔を見ることはできない。

 「カナコさんの幽霊」だとすぐにわかった。目の前のメイドが来ているメイド服は昔のデザインで今はもう使われていない。

 カナコさんはタクミくんも耳に顔を近付けて何か伝えると、タクミくんの身体がぴくりと反応した。彼女は立ち上がると、こちらへ向いた。その表情はとても明るい笑顔のように見えた。


 次に目を覚ました時には朝日がたっぷりと店内に流れ込んでいた。プラムがカーテンを開けている。私に気づくと、「もう少し寝ててください」と笑った。彼女に感謝し、起こしかけていた体を、ソファーに埋めた。夜中よりさらに体が重く、頭は巨人に握りつぶされているように痛い。プラムが出勤してきたときにはすでにタクミくんの姿はなく、店長はプラムに鍵を渡して帰ったとのことだった。

 それから1カ月後、川底から2人の遺体が発見された。1人は20代前半の女性で白骨化しており、もう1人の遺体は20代後半の男性でまだ死んで1カ月程度とのことだった。そして何より世間を驚かせたのは、女性の遺体が男性の遺体に抱きつくようなかっこうで発見されたことだった。私はこの記事を読んだとき、すぐにこれがカナコさんとタクミくんだとわかった。

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