朝、目が覚めてすぐにスマホを開く。燕座羽衣のSNSを片っ端からチェックする。目に留まった気になる単語を調べる。彼女の様子を確認する。精神状態を文面から伺う。あまり体調が良くなさそうだから、声をかけるのはまた今度にしようと考える。身支度を整えて外へ出る。眼前には秋空が広がっており、空気は冷え込んでいる。階段を下りる度に吹いてくる風が冷たい。ポストに手紙を入れる。その他諸々用事を済ませて近くのコンビニに寄る。商品棚に、羽衣が以前載せていた物を見つけて購入する。食べる。飲む。同じ物を摂取する。おかしい。おかしい。頭の片隅に、常に彼女が居る。あの子の事が毎日毎日気になって気になって頭から離れない。気づけば四六時中あの子の事を考えている。俺はどうかしてしまったのだろうか。あの子の生活を把握していないと気が落ち着かなくなってしまう。知らぬ間に惚れ薬でも飲まされたんじゃないかと思う。何をしていても、誰と会っていても、集中力が続かないのだ。「これが恋なのだろうか」と友人のタカと以前会った時に聞いてみれば、「お前のそれは依存と執着だ」と煙草片手に一蹴されてしまった。けれど、恋も執着も、俺にとっては似たようなものだと思う。ここ最近はずっと燕座羽衣を手に入れる方法ばかりを考えている。彼女は自分を慕っている。それが恋愛感情なのか、昔からの幼馴染として懐いているだけなのかはさておき、好意的に思ってくれているのは確かだと思う。かといって、あの子の生活に自分の入る隙があるのかと考えると、難しい。出来る限りの事はやっているつもりだ。けれど、まだ俺には何も足りない。手段も権利も無い。燕座羽衣を手に入れるために、今の自分には何が必要なのかを考えた。燕座羽衣が以前、自身のインスタグラムで、友人の紅原日琶と好みのタイプについて話しているのを見た。彼女は「地頭が良くて頼り甲斐のある人が好きなんだよね」と話していた。無理だと思った。俺は頭が悪いし、凛々しさの欠片も無い。こんな甲斐性無しの男が選ばれる訳がない。男性における頼り甲斐とは、つまり経済力、精神力、包容力、そんな所だろう。そのどれもが、今の自分には無い。価値がない。一瞬死のうとさえ思った。血迷ってカッターを手に取ったところで、ふと我に返った。

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