再演

七春そよよ

心臓


 この世に奇跡なんてものは存在しない。在るのは結果だけだ。運命も偶然も、全ては必然の元に起こる。故に、白馬の王子様というのはこの世に存在しない。ならば私はそれをこの手で創り出し、引き寄せる必要がある。だからあの日、私は窓辺に生き物達の死骸と自分の体の一部を並べ、満月にお祈りしたのだ。どうか私達が無事に巡り逢い、笑顔を交わし合い、現世で結ばれますように。邪魔者が淘汰され、辺り一面更地に変わりますように。貴方が邪と後悔の業火に囲まれたとしても、心が強く逞しく保たれますように。何度間違えたとしても、正しき道に導かれますように。貴方の魂と肉体が健全でありますように。遥かな茨を越えられますように。永久に続く固い絆が、この指に巻かれますように。あの日、悪魔は確かに言った。「確かに契約は交わされた。お前は天界には逝かず魂は永遠に虚空を辿る」。私の心臓には、真っ黒な悪魔の刻印が刻まれている。そうして、杷瑠璃は来た。十数年の時が経ち、紆余曲折の旅路を経て、ようやく私の元まで還り着いたのだ。奇跡や運命なんてものはこの世に存在しない。つまりこれは私が呼び寄せた、ただの結果に過ぎない。これを奇跡と定義するのか否かはあくまでも個人の自由である。要するに、当人の捉え方次第でどうにでも捻じ曲げられるというわけだ。私が私の手によって引き起こした必然、魔法の力、彼に繋がれた操り糸。私はそれらを運命と呼ぶことにしている。

 杷瑠璃。二十二歳。B型。美大生。絵画サークル所属。古着屋店員。南渚町生まれ。兄妹は無し。今は一人暮らし。ネガティブ思考な傾向にあるが基本誰にでも分け隔てなく接する人当たりのよい性格。キャンバスに絵を描き、それらを公開している。昔から親しい男性の友人が一人。家を頻繁に出入りしている女の先輩が一人。過去に何かしらのトラウマ有り。現在ベルソムラ、エビリファイ、ロゼレム服用中。他恋愛歴省略。要するに、普通の人だ。今時どこにでも居るような、ちょっと鬱傾向の大学生。けれども、他の、どこにもいない。この世のどこを捜しても貴方は一人しか見つからない。唯一無二の私の想い人だ。ただ一つのかけがえのない記憶と生命。そして彼の人生には、一つだけ欠けているものがある。私だ。杷瑠璃の抱える虚無感や満たされない空虚な心は全て魂の片割れである私が不在である故に起こる、所謂一種のバグである。私がその隙間を埋めない限り彼は死ぬまで欠乏感を抱えたまま生きていくことになる。どんなに富や名声を得ようとも、他のどんな優れたパートナーを選ぼうとも、永久にパズルのピースが一つ欠けたような虚しい心理状態が続く。穴の空いたバケツにいくら水を注いでも満たされないのと同じ理論だ。何故なら彼にとっての正しい道筋というのは最初から一つに定められており、それ以外は全て誤りだからである。そしてそれは、私も同様だ。何故なら運命がそう定めたからだ。運命とはこの場合、私の魔術による契約のことを指す。例えば、私は金輪際、彼以外の人間を伴侶に選ぶことが出来ない。己の魂の導きに背いているからだ。同様に彼も私以外の人間を選ぶ事が出来ない。道を外れた時点で、幸福には辿り着くことが出来ない仕組みだからだ。私達を取り巻く時空の何もかもが、魔法と予知夢の強制力によって支配されている。彼が絵を描く時、筆の細部に

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