第4話 陰に堕ちる
介抱され、ベッドに寝込むキフェルの表情は実に面白いものだった。時として孤独に苛まれている寂れた老人が宿り、また時として修羅が写る。終には、使命に燃える若者の表情までもが見え、無表情に戻る。そして今までの事など無かったかのように、新しい表情を写し始める。そして、三回ほど無表情に戻った時にキフェルは目覚めた。
「んん、、、ぅん?」
意識が完全に覚醒しておらず、ベッドの温もりを感じていたが、その余裕も覚醒と共に失われていった。
「あっ、、、、、、、、、」
直ぐに口を手で押さえたが、出るものが無かった。
(あれが序の口で戦争まで、、、気持ちが悪い。何よりそれが当たり前な事が本当に狂っている。)
”親は正しい”という絶対的な信仰対象に裏切られたと感じた今、普通ならば、偽りの正義に心酔し新たなもの信仰するか、ニヒルに染まるという道を歩むだろう。しかし、染み付いた罪悪感は最早それを許してはくれない。
(終わらせなくては、、、、、、償いはそれからだ。)
するべき事を決められたキフェルは今後の人生の展開に思いを馳せる。せめて想像の中だけでも輝かしい英雄の人生を想像できたならばどれ程良かっただろう。鮮明に浮かんだのは上流から信頼を得て全てを知る為に、上流のニーズに応えた”作品”を作り続ける自分の姿だ。上流はリアルな戦争を楽しんでいる。言い換えるとすれば、戦争に関わる全ての人々の様々な顔を一人一人愛でているのだ。今までの作品でも、もう演者で補う事は出来ない程に濃密な人生が一つの作品に大量に詰め込まれている。
(必要な犠牲なんだ。、、、、、必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲必要な犠牲。そう、必要な犠牲なんだ!)
表情に甘えが消えて冷たさが宿った。
「あの少年は使えるな。滑稽な劇が出来そうだ。」
そうしてキフェルはエディルの下へ向かった。
「父さん。昨日見せてくれたショーの映像はある?」
「おお、キフェルか。もう大丈夫なのかい?」
「うん。父さんのおかげであれらの扱い方を知れて、いっぱいアイデアが湧いて来たんだ!」
「どれどれ?父さんにもそのアイデアを教えてくれるかい?」
「うん!」
それから語られたシナリオは到底、子供が語っていいものではなかった。
あの少年ーレイズは神を信じていないどころか憎んでいるということを前提として、彼の人生に多くの試練を与え、少しの努力と多大な奇跡で彼を王に成り上がらせる。そうして、人間として出来上がってきたところに、あの憎むべき”神”の手によって全て仕組まれていたどころか感情さえ操つられていた事を明かし、自分を見失ってぐちゃぐちゃになった表情と崩壊した自我を芸術とするというシンプルなものだった。
「素晴らしいぃぃぃ!しかし、長い時間がかかってしまうよ?あとタイトルは何にする?」
全てを聴いたエディルは興奮気味に言う。
「他の作品と並行して作っていければと思ってる。タイトルは経過報告なんてどうかな?」
「ああ、素晴らしい!すごいじゃないかキフェル!明日にでもアトレス様に挨拶をして作品を作り始めよう。」
アトレスとは上流の中でも発言力がある人物で、同時にタンサ―ル家の主要顧客にして最高の出資者であった。
翌日、二人が豪華な屋敷に入っていく。キフェルは上流の住処に立ち入る事が初めてだったので、無礼にならない程度に周囲を観察していた。屋敷の中を五分ほど歩いていると装飾が一際豪華な扉が現れた。エディルはその扉を四回ノックした。
「入ってくれ。」
「失礼いたします。ご無沙汰しております。アトレス様。本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。」
「いやいや、全然問題ないよ。そちらのキフェル君のに関して相談があるんだったよね?」
アトレスは、この地獄のような世の中を率先して作った人間とは思えない様な、穏やかで優しい表情と声色でエディルに応答した。
「はい。キフェル挨拶しなさい。」
「お初にお目にかかります。キフェル・タンサ―ルと申します。本日は私の為にお時間を頂きありがとうございます。」
「いいよいいよ。それで、相談したい事は何かな?」
キフェルは言葉を選びながら、自身の作りたい物と、そのために下界人の一人に世界の真実を伝える必要があることを説明した。
「別に、その主人公しか知らない状態を維持出来るなら自由にしてくれていいよ。多少の問題行為も実害を出さない様ならば大目に見よう。なんて言ったって、これは傑作になりそうだからね!期待しているよ。二人とも。」
「「ご期待に添えるよう尽力いたします。」」
「それでは失礼いたします。」
「うん。」
エディルとキフェルは一礼をした後帰路に就いた。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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