第2話 主人公☆爆誕☆

「おぎゃぁぁぁ!おぎゃぁぁぁぁぁ!」

某日明け方、まだ東の空に金星が輝いている時間にタンサ―ル家に新たな生命が誕生した。母親からは深緑の瞳、父親からは紺の髪を受け継いでいる。赤子はひとしきり泣いたあと泥のように眠った。そんな赤子を母親が優しく抱きかかえた。

「キフェル、、、生まれてきてくれてありがとう。」

と言い頭を撫でる。その様子を見ていた父親が待ちきれないといった様に

「レニア、私にも抱かせてくれないか。」

と尋ねる。

「エディル、くれぐれも優しくね。」

「分かっているとも。」

幸せな家庭の一幕だ。


年月が経ちキフェルが四歳を迎えた。この四年の間にキフェルは類稀なる才能を遺憾なく発揮し、猛烈な英才教育の末に大人とほぼ同じ位の知識を蓄積していた。タンサ―ル家の歴史を遡ってもここまでの傑物はいない。そんなキフェルは今、バースデーケーキを前に瞳を輝かせている。

「「誕生日おめでとう。」」

「ありがとう!もう食べていい?」

「いいわよ、たくさんお食べ。」

しばらく皆で談笑しながらケーキを食べていたがおもむろにエディルが重要な話を切り出した。

「キフェルはよく頑張って勉強してくれているし知識も豊富だからね、勉強をレベルアップさせようよ思う。」

「それって何をするの?」

「キフェルの世界に対する考え、思想を育てるんだ。その中で父さんの仕事の一部も見せてあげよう。」

「父さんの仕事を見られるの?やったー!」

「よかったわねキフェル。」

キフェルは膨大な知識を蓄えてはいるが、その知識は線でつながっているわけではなく無数の点として存在しているだけだ。故に無邪気で純粋である。思想を育てると言ったが、本来人生経験と共に培われるそれに過干渉である事は洗脳と同義である。タンサ―ル家で繰り返されてきた教育でエディル自体も気が付いてはいないが。社会と共に歪んだタンサ―ル家の教育がキフェルにも牙をむき始めた。


翌朝、キフェルとエディルが向かい合って話をしている。さも日常会話の様に、教材も無く話しているが、内容は勉強そのものだった。

「キフェル、生産性のジレンマの話を覚えているかい?」

「生産性が高くなれば高くなるほどプロダクトイノベーションが起きにくくなるってやつ?」

「そうだ。」

今の世界では生産性のジレンマはあまり問題視されていない。もはや生産性は上流の搾取の建前以外の意味を成しておらず、中流に求められているのはプロダクトイノベーションではなく社会維持の歯車となる事だからだ。

「でも、今の社会では何の問題もないよね?」

「普通はそうだな。ただ、タンサ―ル家は違う。」

「あっ、、、、」

娯楽はワンパターンだといつか飽きられてしまう。更に、上流は娯楽を生きがいにし始めたので大量のコンテンツが必要とされる。つまり、目新しい作品を、尋常ではないスピードで最大効率で作り続けることが求められているという事だ。これは、本質的に生産性のジレンマに打ち克ち続ける必要がある事を示している。昔は、既存の顧客ばかりに捉われない、積極的にチャレンジするといった事が生産性のジレンマの克服を手助けしていた。しかし今は、顧客は変わらず、一度の失敗も許されない冷たい社会だ。

「じゃ、、じゃあどうやって、、、、、」

「そこで教育だ。タンサ―ル家が代々受け継いできた思想を学ぶ事で価値観を更新し続けることが出来るようになるんだよ。」

代々受け継いできた既存の思想が価値観の更新を可能にするという矛盾を隠す様に、あるいは言い聞かせて自分の人生を肯定するかの様にエディルは語気を強めて言った。

「そうなの?それで、その思想ってどんなものなの?」

「生産性が絶対で、下界人は上流階級の玩具として足りない生産性を補おうとしてい界るという考え方だね。タンサ―ル家は下界人を玩具として扱う事で、下界人が無能なせいで果たせない社会的責任を果たす支援をしているんだ。人助けをすると気持ちがいいだろう。」

「そうだね、、、、でも可哀そうじゃないの?」

頭の中には疑問が残っていた。

(もっと別の形で支援すればいいのに。それともそれ以外の方法がない程無能なのかな?)

キフェルの疑問は尤もなものだが、この世界で生きていくには甘く、若い考え方だ。そもそも下界人は上級に都合が悪かっただけで無能ではないが、そうであると考えなければやっていることの正当性はなくなり自我を保てなかったであろうから。

「彼らもきっと喜んでいるさ。、、、、、まだ釈然としていないようだね。でも、父さんの仕事を見ればわかるから大丈夫さ。」

「いつ見られるの?」

「そうだなぁ、、一ケ月後にしよう。キフェルのために準備することもあるし。」

「何を準備してくれるの?」

「それは当日のお楽しみさ。」

それから一か月間キフェルはタンサ―ル家の思想を叩き込まれた。


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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

次話に鬱?展開を入れる予定なので、苦手な方はブラウザバック推奨です。

 

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