世界の救世主はハッピーエンドを目指すようです。

感佩

一週目 ~救済の革命~

第1話 設定、他諸々

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五十年前の世界は法の元に平等で基本的人権が保証された社会がメジャーだったが、格差拡大を始めとする様々な問題が起因となって消極的優生思想が蔓延し始めた。生産性を絶対のものとする法律が乱立し、優生思想の狂信者は社会が良くなる事に胸を踊らせた。しかし、その生産性の有無の判断を下すのは政治を牛耳る上流階級の人々であった。その人々は世界規模で集い、統一政府を創り自分達が勝者である事を決定させ、次いで、ある一定以上の生産性がある人々を中流階級として徴集して人権無視の搾取の構造を造り上げた。最後に生産性が無いと判断された下流階級は上流階級に娯楽としての役割を押し付けられた。上流階級の動きを追うと、消極的優勢思想はより過酷な新しい支配の正当化に使われただけであり、優勢思想が理想とする社会にはならなかった事は火を見るよりも明らかだった。そんな大変革を遂げた社会の中で一時的に人気を博したのがリアル戦争シュミレーションゲームと戦争ショーだ。脳を弄られて、存在を確認する事すら許されない上流階級の指示をさも自由意志に基づく行動であるかの様にこなすのだ。

地理的な話では、嘗てのヨーロッパ州が上流の住処となり、中流はアフリカ州に徴集された。それ以外の地域は下流の戦場となり、上中級の地域とはホログラムによって光が差し込まないように細工された人口森林で隔離され、脳を弄る時に記憶からも抹消されている。進むにつれて光が消える空間は、下流の目には世界の端の様に映るだろう。

このような現状が何十年も続いた時期に科学技術が発展し、脳を作り変えられる様になり、上流の不老不死が実現した。当然、AIも発展して中流階級の労働を全て肩代わりする事も可能になったが、上流階級の優越感の為に中流階級は働かされていた。


さて、上流達が新たに娯楽として見出だしたリアル戦争シュミレーションゲームと戦争ショーだが、かなり早くに衰退し始めた。リアル戦争シュミレーションゲームはリアル故の不便さが徐々に忌避される様になり、戦争ショーは毎回同じ様な風景が繰り返される為に飽きられていった。このまま消滅するかの様に思われたが、この二つが融合して新たな娯楽として大人気コンテンツに帰り咲いた。今より語るはそのきっかけと娯楽提供の一角を担うようになったタンサ―ル一家の誕生の一幕である。

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「このまま戦争の行方を見届けるのも飽きてきたな。」

「ええ、そうですね。下界人の戦争ショーも何度も見ると飽きるものですね。」

明らかに身なりの良い人しかいないバーの一角で大きなスクリーンを眺める二人がそんな会話をしている。

「もうすぐこのショーも最終局面になりそうですし、ここは一つ賭けでもしませんか?」

「賭け?」

「ええ、私はレトフ王国が勝つことに1億$賭けましょう。」

「今更金を賭けても何にもならないが、こっちはラトイ帝国に2億$にしよう。」

そんな会話をしている二人に、豪華な装いの初老の男性が近寄って行く。

「何やら、面白い事をされているようですな?」

二人はその顔を確認すると驚愕の表情を露にした。

「アトレス様!?なぜこのような場所に?」

「偶然通りかかったので来ただけですぞ。それより、ショーの行く末を賭事にするなのならより良い演出もあった方が面白いのではと思いましてな。」

加えて、戦争の泥沼化を防ぐ為の管理者も必要だろう。

「演出家はレイシス・タンサ―ルが適任でしょうか。」

「そうでしょうな。」

レイシスは中流階級の人間だが芸術家であった為に、他と比べると上流の覚えは良かった。上流に様々な娯楽を提供してきた過去を評価されての抜擢だ。

「それではこちらから連絡を入れておきます。」

三人は新しい形の娯楽に胸を躍らせていた。


さて、命令が下されたレイシスは大いに苦悩した。前例がなく曖昧且つ他人の命令で、更にはごく短い時間で新しい作品を創作するのだ。良い作品など生まれようはずもないのである。

「でも、やりきらなければどんな目に合うか、、、。」

腹をさすりながらそう言う彼の顔は青白い。生産性が絶対の世界で、数では計りきれない表現者をやらせてもらっているのだ。当然周りの目は厳しく、一度の失敗さえ悪目立ちするだろう。彼自身そうやって凋残した先学をたくさん見てきた。

「発想の切り換えだ。」

彼は、戦場の死体より、生者の表情を映すことでショーにドラマの属性を持たせることにした。



この一週間、レイシスは死力を尽くして創作に励んだ。しかし、実際に出来上がった作品はお粗末なものだった。もはや作品と呼べるものなのかどうかも怪しい。内容は兵器と戦況を解説し、生者の顔を映すだけのものだった。披露当日の朝、彼はストレスで何度も嘔吐していた。自分の人生の終わりを覚悟していた。しかし、人生が終わる覚悟を持って臨んだお披露目会での上流の評価は以外にも良いものだった。

「いやぁ、君の作品は新たな娯楽の原点となりうる素晴らしいものだったよ。つくづく君の才能には驚かされるばかりだよ。これからもよろしくね。」

「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう日々精進していく所存です。」

予想以上の反響だっただろう。彼の顔には安堵の色が窺える。

「ところで、君には将来を誓い合った相手はいるかね?」

「え、、、いえ、おりません。」

「そうか、それ程の才をそのまま天に返すのは惜しいからな。近頃に相応しい相手を紹介しよう。」

紹介とは言いつつ実質的には結婚の強制ではあるが、それ程に評価されたという事でもある。

「身に余る光栄でございます。」

言うと同時に深い礼をした。

 斯くしてタンサ―ル一家が誕生し、一族の者は皆創作の才に恵まれ上級からの信頼を勝ち取っていった。


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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

人間には、自身を一般平均以上だと自己評価する傾向があるらしいです。平均以上効果、レイクウォビゴン効果って呼ばれているらしいです。道理で優勢思想がある訳です。










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