(二)-10

「言えない事情でもあるのですか」

 香川刑事からの優しく諭すような口調の言葉に対しても、黙ったままだった。

「このぬいぐるみと似た熊のぬいぐるみがベビーベッドの上で発見されています」

 香川刑事が、美幸のバッグに突っ込まれた俺のことを指さしながら言った。

 俺は心の中でアチャーと言わずにはいられなかった。いや、俺はぬいぐるみだから声を出すことはできないのだが。それはともかく、それは彼女にとっての地雷だ。

「それは……、子どもが欲しがったので買い与えただけよ」

 この会議室に来て以来、初めて美幸は口を開いた。

 そして彼女は、大粒の涙を落とし始めた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る