星屑

 列車の窓から星屑が流れてゆくのを眺めている。きらきらと点線状に並んだ眩く輝く灯りが景色を掠めていく。眠そうな彼女の顔はちらちらと光に照らされて、その度に彼女の柔らかい瞼は瞬きを繰り返している。クリーム色の髪は白い光を通して、月の様に輝いている。それを暫くの間何も言わずに眺めては、また窓の景色に視線を移す。真っ黒の布地を広げた上に光の粒を点々と落としたような、静かで美しい空だ。何処までも広く、何処までも暗い。彼女は退屈し始めたのか、鞄から本を取り出し読み始めた。手元の本に目を落としたまま此方を見ないので、薄らと妬みに近い様な感情が湧いてくる。半ば衝動的に「それは何の本だ」と尋ねれば、彼女は少し目を開いて顔を上げ、「星座の本です」と答えた。「星座?」「ええ、遠い国に伝わる星に関する神話ですよ。お師匠様はご存知ですか」「いや、知らないな」「それでは、読み聞かせて差し上げましょうか」「なんだって?子供じゃあるまいし…」「こうして座っているだけでは、退屈ではありませんか」何だか気を遣われたような気がして俺が不服そうな表情をしていると、彼女は「大丈夫ですよ。この列車には私達の他に誰もおりませんし」と柔らかく微笑んだ。向かい側に座っていた彼女は立ち上がり、俺の隣にそっと腰掛け、本をパラパラと捲ってみせた。肩と肩が触れる。「丁度、お師匠様と同じ長寿の魔術師のお話を読んでいたところなんです」「どうせ、それも悲劇なんだろう。魔術師の出てくる話は大半が暗いエンディングと決まっているんだから…」「いいえ、そんな事はありませんよ。これは幸せなお話ですからね」俺が信じられないといった素振りで肩を上げると、彼女はまた微笑んだ。ページを一枚ずつゆっくりと捲り、挿絵をなぞる。「綺麗でしょう。この間、研究室へ遊びに来た焼き菓子屋の女の子を覚えていますか。あの子が薦めてくれたんです」そんな風に他愛ない会話を挟みながら、ライラは本を読み始めた。指で文字をゆっくりと辿りながら、彼女の口から星座の神話が語られる。車窓は未だ、透明な湖と星屑を散りばめたような広大な銀河が続いている。俺はその景色を、彼女の肩越しにぼんやりと眺める。自分の心が今までに感じたことのない程穏やかになっているのを、確かに感じる。こんな気持ちになる日がくるだなんて、昔は思ってもみなかった。冴えていた頭の中は次第に落ち着き、目を閉じて優しい声に耳を傾ける。紡がれる声に沿って、物語に出てくる景色を想像で追いかけていると次第に眠気がやってくる。

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