39話_奪還ト終息

誰も居ない街に雨が降り出した。

正確に言えば誰も居ない訳ではない、人がそこら中に倒れている為だ。行き交う人々の姿がないまま点滅する信号機、車の走行音すらしない道路。

最悪の事態こそ防げてはいるがそれでも街は静まり返っている。聞こえて来るのは地面に打ち付ける雨音だけだった。そんな中で雨に濡れた状態で1人の女性が体育館の前で扉を守る様に立っていた。

その横には白い装束を身に付けた男性2人が彼女を挟む様にそれぞれ錫杖と呼ばれる杖と槍を構えて立っている。


「ッ……次から次へと…!!」


女性の名は鈴村円香。

普段は北見高等学校の国語教師として務めている反面、裏では祓い師として動く事もある。

突如として湧き出た謎の黒い人影達とそれに応じ現れた悪霊達と戦っていた。


「もう…霊力も限界か……これ以上、長引かせたら……マズいッ…!!」


倒れれば自分の背後にある体育館に居る生徒達が連中の脅威に晒されてしまう。左右の手に纏っている指先の空いた黒い手袋の左側で額の汗を拭った。

もうかれこれ1時間以上は休まず戦っている、それに対し向こうは数が減らない。

この混乱のせいか詩乃とも連絡が取れないままで彼女の安否さえも気遣えなかった。

すると1人の祓い師が円香へ「避けろ」と叫ぶ。

振り向いた時にその一撃を躱せずに彼女の身体が錐揉み上に宙を舞った末にアスファルトの地面へ叩きつけられてしまった。


「うぐぅッ!?ゆ、油断した…やってくれるじゃない…ッ!!」


顔を上げた時、飛び込んで来たのは黒い影の塊。それは円香の背丈を上回っていた。身体を起こそうにも思う様に力が入らず、彼女はその場に留まっていた。

そしてジリジリと距離を縮めてはその手を全て伸ばして円香へ襲い掛かって来る。


「や…やられる……ッ!?」


顔を右腕で隠して思わず目を閉じた時、

その手は何故だか円香には当たらなかった。

何が起きたか解らずに目を開いてみるとボロボロの明日香がその場に立っていたのだ。


「先生!!大丈夫か!?」



「か、奏多…さん!?どうして……。」



「今だッ!朱里、理人ぉッ!!」


彼女が叫ぶと理人は手にしていた鞄から10枚の形代を投擲し塊へ放り投げるとその塊を朱里が拘束術で足止め。

そのまま直撃し、消し飛ばされてしまった。

明日香が振り返って手を差し出してから円香を立たせると彼女は安堵していた。


「…ありがとう、助かった。それにしても…随分強くなったわね?」



「誰かさん達に追い付きたいから必死に鍛錬やって…その結果がこれですから。」



「そっか…。ねぇ櫻井君、お金あげるからそこの自販機でエナジードリンク買って来て?人数分お願いね。」


円香は手招きし、財布から取り出した小銭を理人へ手渡して向かわせる。


「さて……気合い入れ直してやり切るわよ!詩乃も今頃、何処かで戦ってる筈だから。」



「なぁ先生、東雲って知ってる?」



「え?どうしたのよ藪から棒に。何かあった?」



「…さっき会ったんだ。鈴村の事を酷く恨んでるって言ってた。」



「……その話はまた今度ね。」


円香は戻って来た理人からエナジードリンクを受け取ると、残る3人もそれぞれ缶を開けて中身を一気に飲み干した。そして空き缶をゴミ箱へ綺麗に投げ入れてから身構えると円香は右手の拳を左手の手で包む様にし、パキパキ鳴らすと目の前に居る魑魅魍魎達を見てニヤリと笑った。


「ねぇ知ってる?野球は9回ツーアウトからが面白いのよ。どれ程劣勢だとしても…状況が悪かったとしても……逆転は出来るって事!!」


そして4人は学校を死守する為の戦いへ望んでいった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

雨が降る中、詩乃が教会へ訪れるとまるで誰かを迎え入れるかの様に大きな門は開いていた。

そこを抜けて真っ直ぐ歩いて行くと不気味な黒い色をした箱が天井の明かりに照らされた状態で祭壇の上に置かれていた。その背後には聖母を象ったステンドグラスが有る。


「あれか……!召喚ツィオーネ!!」


詩乃は恭介から貰った赤い石の付いた数珠を左手首へ装着、そして銃を呼び出すと右手に持ち替えるとスライドカバーを引いてセーフティを外してから照準を合わせる。マガジンは予めセットされている事からいつでも発砲は可能だ。箱を撃とうとした時、別の気配を感じて左側へ照準をズラした。カツンカツンという靴音と共に箱の前へ現れたのは黄泉で詩乃を見て小さく笑った。


「……よく此処が解ったわね。」



「…先生が霊視してくれた、それで解ったんだ。」



「そう…悪いけどあの箱は壊させない。私達の邪魔をするのなら貴女を此処で殺すわ。」



「箱を壊し…全てを元通りにして、黄泉を祓って連れて帰る。それが今の私のやるべき事だ。」


詩乃が左手首を見せ付けると赤い石がギラリと輝いた。


「だから殺生石を身に付けた…緋輝石と同等の力を用いて私に対抗する為に。けど良いのかしら?下手をすれば貴女も死ぬわよ?」



「……承知の上だ。」



「そう。なら…殺し合いましょうか。お互い何方かが倒れ、獲物を手放すその時まで……!!」


黄泉は左手に持つ赤い鞘から右手で柄を握ると鯉口を切る様にそれを引き抜いて刃先を向ける。対する詩乃もまた銃を消して黒い鞘の刀を呼び出し、同じ動作から刃を引き抜くと黄泉の方を真っ直ぐ見つめていた。


「いくぞ…黄泉ぃッ!!」



「来い…鈴村の祓い師ッ!!」


お互い鞘を手放した直後、詩乃は黄泉へ向けて斬り掛かると柄に左手を添えてその刃を真っ向から振り下ろす。

それを黄泉が自身の刃で受けて弾き返すと今度は彼女から仕掛けていった。刃を横一閃に右へ、左へと攻めながら詩乃との立場を入れ替えて攻撃を放っていく。


「どうした、腰が引けているぞ!!その程度でこの私が殺せると思っているのか!?」



「ぐぅうッ…!!だぁあああッ!!」


振り下ろされた一撃に対し、詩乃は自身の刀の刃で受け止めては弾き飛ばすと後退し距離を取った。



召喚強化ツィオーネ・レクトス!!」


左手を離して詠唱すると赤い光がバチバチと放たれてはその手にサブマシンガンが握られた。

それはVz61、スコーピオンと呼ばれる物。それを素早く黄泉へ向けて照準を合わせると引き金を引いた。

凄まじい銃声と共に弾丸がばら撒かれる。


「強化術を祓具へ使ったか…だがッ!!」


黄泉は弾丸を次々と躱し、ある程度距離を詰めて地面を左足で蹴って飛び上がると詩乃の胸元へ目掛けて右足で蹴りを打ち込んだ。喰らった詩乃はふらついて後退、再び銃口を向けようとした時には既に黄泉は彼女の間合いを詰めて不気味に笑ったその直後、刃を右斜め上から振り下ろして来る。


「ッ……!?」


詩乃は咄嗟に右手に持つ刀を水平に翳し防御、黄泉の刃を受け止めてはギリギリと競り合っていた。

黄泉から振り払った直後に詩乃が再び彼女へ向けて至近距離で発砲、放たれた弾丸が彼女へ目掛けて飛んで来る。


「──速度強化レクトス・アクセルッ!!」


黄泉が強化したのは刀ではなく自らの肉体。

紙一重で弾丸を全て躱した末に詩乃の手にしていたサブマシンガンを左斜め下から逆袈裟斬りにより銃身を斬り落とすと直後に刺突の体制へ移行し刃を放った。


「くぅッ──!!」


詩乃は右へ飛び退いて一撃を躱すとお互い離れた位置で見つめ合っていた。周囲には斬られた銃の残骸が落ちていて、左手に持っていた残り半分の部品を詩乃が捨てる。


「…強化術を会得したのは驚いたわ。でも、次は確実に仕留めてみせる。さぁ早く立ちなさい……。」



黄泉の紫色の瞳が赤く染まり、白い歯を見せて笑った。


「緋輝石の力を完全に引き出す気か……!!」


ゆっくりとその場に立ち上がると詩乃は刀を握る右手へ力を込め、打開策を探っていた。長椅子が多いこの場所で戦うには不利と感じ取ったからだ。逃げるとするなら外だが何とかして黄泉から距離を取らねばならない。


「……何を考えているか知らないが、これで終わりだッ!!」


黄泉が駆け出し、詩乃を追い込むべく刃を振り下ろさんとして来る。その最中に彼女は叫んだ。


「今だ!分身アルターッ!!」


刃が振り下ろされた直後に詩乃がもう1人現れるとそれが斬り裂かれ、本物の詩乃は反時計回りに黄泉から遠ざかると今度は形代を利用し煙幕を展開する。

白煙に包まれるとその中を詩乃は駆け抜けて付近のガラス窓へ体当りして外へと飛び出した。


「はぁッ…はぁッ……!」



「げほッ、げほッ…!くッ…目眩しなど!!」


黄泉が煙から逃れる為に外へ出て来た直後、不意討ちに近い形で詩乃が彼女へ仕掛けたが読まれていたらしく

彼女に軽々とあしらわれては地面へ転んでしまった。


「私相手にそんな手が通じると思ってるの?だとしたら嘗められたモノね……。」



「これも全て黄泉に勝つ為だ……!!」



「へぇ…そうッ──!!」


黄泉が駆け出すと起き上がった直後の詩乃へ飛び掛ったと思えばそのまま膝蹴りを腹部へ繰り出してから押し倒し、馬乗りの状態から彼女の左肩へ自身が左手に持つ破損した銃の部品を思い切り突き刺したのだ。あまりの激痛に血が滲み、詩乃は泣き叫んだ。着ていた白いワイシャツが血で赤く染っていく。唯一の獲物である八咫烏は彼女から離れた位置へ転がっていた。


「っぐぁあああああぁッ──!?」



「あははッ、随分と可愛い声出すのね。流石にこれは予想していなかったでしょう?次はその喉を掻っ切ってあげる…ッ!!」


逆手持ちにした部品を黄泉が振り上げると詩乃が左手を突き出してそれを阻止した。


「さっさと死ねば楽になれるというのに。何故、躊躇うの?」



「き…決まってる……私が死ねば…死んだら……全てが台無しに…なるからだッ!!」



「台無しか……そんなにこの女を救いたいのか?お前もつくづく馬鹿な奴だ、恐らく今頃はお前の仲間達も魂を抜かれている筈…無駄な事は諦めたらッ──!?」


直後に詩乃が身体を起こし、黄泉へ頭突きを喰らわせると更に追い討ちで彼女の左頬を力一杯殴り飛ばした。

そして立ち上がると詩乃は銃を今度は右手に呼び出しては黄泉へその銃口を差し向ける。殺生石の効果を用いている事から詩乃の周囲ではバチバチと赤い光が走っていた。


「おのれ…ッ…!!」



「……私はアンタを祓い、助け出す!その為に此処に来たんだ!!」


左手を振り払うと結界が2人を飲み込む形で展開され、周囲を隔離した。立ち上がった黄泉は血を吐き捨てて刀を握り締める一方、詩乃は左手へ約30cmのコンバットナイフを呼び出してそれを逆手持ちし構えてみせた。


「恐らくチャンスは一度だけ…此処からは賭けになる……。」


詩乃が撃ちながら接近し黄泉へ襲い掛かり、一方の黄泉は刀を用いて弾を斬り落としたかと思えば反撃して仕掛けるとその刃を頭上から掲げて真っ向斬りの要領から振り下ろす。詩乃はそれを逆手持ちしたコンバットナイフで一度受け止めてから跳ね上げ、黄泉の右足太腿を素早く射抜いて振り払ったのだ。足を撃たれた黄泉は赤い血を垂らしながら顔を上げて詩乃の方を睨み付ける。


「ぐッ……よ、よくもぉッ…!!」



「だぁあああぁッ!!」


擦れ違い、距離を取った末にナイフを捨てると八咫烏を左手で拾って刃を黄泉へ差し向ける。そして詩乃は銃をポケットへしまってから駆け出すと真正面から黄泉と再びぶつかり合ったのだ。


「ッ……嘗めるな!!鈴村詩乃ッ!!」


黄泉が彼女の刃を弾き返し、身体を左へ捻ると右へ一文字を描く様に一閃を繰り出したが詩乃はそれを受け止めていた。


『詩乃、幾ら相手の一撃が強くても刀を手放したらダメ。絶対離さないって位強く握りなさい?何がっても絶対に。』


黄泉が過去に詩乃へ教えた事の1つ。


『そうやって何度も攻めるのも良いけど、自分の身を第一に考えて動く事。予期せぬ反撃で死ぬかもしれない…だから常に状況を把握し最善の策を考えてから攻める事。それと相打ちなんて絶対ダメ、私が絶対許さないから。』


これもまた詩乃へ教えた事だった。

殺生石が再び赤く輝くと詩乃は一旦後退し身構えてから再び駆け出すと黄泉と刃を交えて渡り合っていく。そして3度目の好機が詩乃へと訪れた。その隙を見逃さずに詩乃は仕掛け、身体を右へ捻るとその刃を思い切り右横から振り翳して黄泉の手から刀を弾き飛ばしたのだ。


「なッ──!?」



「終わりだ…これでッ!!」


そして詩乃は八咫烏の刃先から中程に掛けて黄泉の腹部へ思い切り突き刺した。


「ッ…ぁ…!?」



「黄泉…辛いだろうけど耐えてッ……!!」


力を込めてありったけの霊力を八咫烏へ注ぎ込むと同時にその刃を引き抜く。黄泉が倒れた直後に背後から現れたのは詩乃を嘲笑う様に見つめている白髪の女性、

その容姿は黄泉と酷似していた。その女性が傍らに落ちている刀を拾い上げて襲い掛かると詩乃は擦れ違い様に刀身が赤く輝いている刃で彼女の右腕を斬り裂いたのだ。


「ッ──!?き、貴様ぁッ……!!」



「…お前は黄泉の中にある憎悪や負の部分を具現化したモノ。これ以上お前の好きにはさせない。緋輝石ごと砕く……!!」



「小娘風情が…我を嘗めるなぁああぁッ!!」


詩乃が刃先を差し向けた直後、相手が迫り来る前に自分から駆けて行くと相手の身体を擦れ違い様に斬り裂く。

そして断末魔に近い悲鳴を上げて消え去ってしまった。

同時にパキンッという何かが割れた音と共に緋輝石が粉々に砕け散った。


「……終わった。後は箱を…壊すだけだ。」


彼女はフラフラと教会の中へ入って行き、祭壇に置かれていた黒い箱の近くへ来ると八咫烏を地面に突き刺す。そして銃をスカートの左ポケットから取り出してその銃口を向けた。


「東雲…これでお前達の野望はこれで潰える。その罪の代償は何れ払う事になるだろう……。」


数回程、引き金を引いて箱を的確に射抜くとそれが粉々に砕け散ってしまった。祭壇からは箱の中身であろう赤黒い液体と肉片らしき物がボタボタと滴り落ちている。

背を向けて八咫烏を引き抜くとドアの入り口付近に翁の面を付けた和装の人物が立っていた。詩乃は躊躇いもなく八咫烏の刃先を相手へ向けると相手は威厳の有る低い声で話し始めた。


「カカカッ…そうか、お前が今の鈴村の祓い師か。」



「…お前は誰だ。」



「今回の災厄を齎した者。そう言えば話が早かろう?」



「……つまりお前も東雲の人間か。お前達の目的は鈴村一族への復讐…そして箱の力で祓い師全てを根絶やしにする事。全てお前の所に居る子が喋ってくれたよ。」



「だが、全て阻止されてしもうた…流石は護国の為に命を掛ける一族の者共……覚悟が決まっておる。どの祓い師達も皆、肝が据わっておったわい。」



「この世に現れる怪異や悪霊達から人々を守るのが鈴村一族の役目…私を含めた祓い師達はその為に存在している。この街に住む一般人をも巻き込んだ今回の件、私達は黙って見過ごす程ヤワじゃない。」



「なら…我ら東雲は貴様ら鈴村と死力を尽くし渡り合うまでよ。貴様らが今居る地位、それは全て我ら東雲の力により成り立っている事を忘れるでないぞ小娘。それともう黄泉は不要となった…勝った褒美として貴様にくれてやろう。」



「あぁ、有り難く受け取っておくよ……次に会った時がお前達の本当の最後だ。」


詩乃が言い放つと翁の面を付けた男は消えてしまった。

そして彼女は八咫烏を下ろし、落ちていた鞘を拾ってその刀身を納刀の作法を行った末に収めると黄泉の刀の鞘を拾ってから彼女の元へ。離れに落ちていた刀を拾って

鞘へ収めると黄泉を何とか背負いながら帰路へ着いた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

全てが収束したのは翌日の朝。

誰もが生きているという事に実感を覚える反面、裏で発生していた東雲一族の災禍師との戦いで命を落とした鈴村家の祓い師達の方が多かった。

この街、そしてこの国を守る為に彼等は尽力したとして鈴村家により手厚く供養がなされた。

そして詩乃達が通う北見高等学校は校舎の損壊や教室の損壊が見受けられた為、完全に直るまでの間は休校措置が取られる事が決まった。

人々と怪異・悪霊達が密接な関係にある事を改めて思い知らされた一連の事件は東雲一族による災害として断定されたがニュースや新聞で公の元に晒される事はなく、その事実を知っているのは極々限られた人間達のみである。


それから更に1週間が経過した後。黄泉に関する一連の処遇が会議で決められる事となった。

鈴村家筆頭であり詩乃と円香の祖母に当たる当主、鈴村イヨは此度の事件に関して全てを黄泉1人の責任とするのではなく重役達が勝手に課した責務が彼女を狂気へ駆り立てた事も要因の一つであると判断。そして利光を含む重役達が密かに会議を行っていた事も明らかにされた為、彼等には黄泉との接触を金輪際禁じられた他に当主の許可無しに会合を開く事を禁じられた。

そして黄泉本人の扱いに関しては恭介の判断により恭介と円香の目が届く監視下の元で過ごす事、1年は祓い師としての力を用いる事を禁ずるという条件の元で再び鈴村という苗字を使う事を許された。

この判断をイヨが下したのは黄泉自身が此処以外の行き場を無くしている事と同時に2人の姉妹による説得が有った事には他ならない。


そしてこれまで敵対関係であった神代一族とは

別日に設けた会合の末、お互いに今回の様な予期せぬ災いが起きた場合は協力するという事が決まった。

神代もまた鈴村同様に護国の為に動いている存在であり、何よりも涼華と詩乃という一族の垣根を超えた2人の事を両者が認めた事で出された決断でもあった。

2人の関係に関しては今後とも継続して構わないという結論に至った事からそのままとなっている。


そして事件発生から2ヶ月が経過した後、漸く街には普段と変わらない日常が戻って来た。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「……それじゃ、学校に行って来る。明日もまた会いに来るね黄泉お姉ちゃん。」


制服姿の詩乃は病院のベットに横たわって眠っている黄泉へと話し掛けて立ち去った。あの事件の日以来、彼女はずっとこうして眠っている。心拍数等を表す心電図がベッドの傍に置かれ、呼吸器を付けている姿はまるで眠り姫の様で目を覚ます事はなかった。病院の外へ出ると朱里が立っていて、彼女と合流すると共に歩き出した。


「今日もお見舞い?」



「うん、あの日から始めた毎日の日課。いつ起きるか解らないし…何か気になっちゃってさ。」



「ふぅん...珍しく三日坊主じゃないのね?詩乃にしてはちょっと意外かも。」



「う、五月蝿いなぁ!私だって頑張れば続けられるんだぞ!?そりゃあ...気乗りしない時も有るけど…...。」


クスクスと朱里が笑っているのを見た詩乃もまた僅かにだが微笑んだ。


「そう言えば今日から普通に授業受けるんでしょ?櫻井君達と混ざって。」



「...そうだよ。姉さんには務めが有るからって断ったのにさぁ、心機一転で一緒に頑張ろうとか変に気合い入れちゃってて無理だった。」



「じゃあ詩乃の人間嫌いは治りそう?」



「寧ろ悪化するかもな...出来る事なら関わりたくないし。とは言っても関わらないと生きて行けないのが人間の性だもんなぁ。」



「でも詩乃が変わった所は見てみたいかな。」



「よしてくれ…そういうの私のガラじゃない。ってかやばッ、もうこんな時間だ!走るぞ朱里!!」


付近のビルに有ったデジタル時計を確認した詩乃は朱里と共に学校へ向かって走って行った。


街は普段と同じ光景が帰って来たがそれでも事件の詳細を知る者は数限られているのは事実。

この街…いや、この国は怪異や悪霊とは密接な関係にある。人々へ危害を加える存在だけでなく彼等の力を用いて悪事を働こうとする人間も少なからず存在していて

祓い師は常に彼等にも目を光らせて監視している。

全てはヒトがヒトとしての一線を越えてしまわぬ様にする為、そして何より悲劇を生み出さない様にする為だ。


そして鈴村家の祓い師である鈴村詩乃の戦いはまだ始まったばかり…この先も彼女は数多の怪異・悪霊達と対峙していくのだろう。


-人々を悪しき存在達から守り抜く為、そして鈴村家の理想を実現させる為に。-



(完)

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