38話_運命ノ行方
弥來が刃を右側へ水平に保ったまま接近、明日香との間合いを詰めようとする。もし仮に直撃すれば間違いなく即死なのは間違いない。
「くそッ...こうなりゃ奥の手だ、頼んだッ!!」
明日香は咄嗟にスカートのポケットから勾玉を投げるとそれから放たれた黒い毛の束が弥來を飲み込んで絡めては突き放したのだ。明日香の前へ姿を現したのは白いワンピースに身を包んだ女性、小春だった。彼女は振り返ると心配そうに明日香を見つめている。
「あ、明日香さん!?その怪我......。」
「あたしは大丈夫...それより...!!」
弥來が髪の束を斬り裂いて姿を現すと面を投げ捨て、明日香を睨み付けていた。
「あの娘、下手な小細工を...!!」
「良い面してんぜ?アンタ。...これでお互い顔が見えたんだ、最後までやり合おうぜ?」
「望む所ッ──!?」
弥來が刀を向けた時、1枚の形代が飛来しそれを彼女が受け取ると無言で頷く。そして刀を鞘へ収めては背を向けた。
「まさか逃げる気か?」
「......まさか。だが退屈しのぎにはなった、礼を言う。勝負はお前の勝ちで良い。」
「おい待てよ、話はまだ──ッ!?」
明日香が叫んだ時、弥來は姿を消す。
その場には割れた面だけが無造作に残されていて、
小春もあっという間に消えてしまった。
どうやら明日香本人の霊力が尽きてしまったらしい。
「後味の悪い話だよ...ったく。」
彼女はボロボロになりながら理人と朱里の元へフラフラと歩いて向かった。
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星蘭市内には黒い人型の塊達とそれ等に応戦する祓い師達の姿が相次ぐ一方で、路地裏に逃げ込んだ人影が有った。それは先程まで真優と戦っていた黄泉でフラフラと数歩だけ歩いては刀を置いてその場に座り込んだ。そしてその場に前屈みになると彼女の意識が一時的に覚醒し元の人格が顕となる。その両目からはポロポロと涙が零れ落ちた。
「どうして……どうして…お義母様があの場に……私はお義母様まで手に掛けようと……ッ…。」
実の母親の様に優しく接してくれた真優は早くに実の母親を亡くした黄泉にとってその存在はとても大きな物。
だが自分は彼女を殺すとその場で言い切り、刀を差し向けて襲い掛かったのは紛れもなく事実。目の前に落ちている割れたガラスにもう1人の自分が写った。
[もしかして後悔しているの?]
「してるわよ…。私は…知ってしまった……妹が…姉様が私を……何とかしようとしてる事……。」
[……何を今更。私に願ったのはお前自身、故にその願いを叶えているだけ。安心して…時期に私はお前になる、そしてこの手で全て終わらせる…お前の望む理想を全てこの手で叶えてあげるから。]
「そうか……なら、この場で死んでやる!!そうすれば…ッ!!」
身体を起こした黄泉はガラス片を手にして首筋を切ろうとしたが何かに阻まれてしまい、何度も試したが上手くは行かなかった。そしてガラス片を手放した時に手を切ってしまい血が滲む。だが、その傷口も直ぐに塞がってしまった。
[馬鹿な子…死ねる訳ないのに。いい加減諦めて私と1つになりましょう?そうすれば悲しい事も苦しい事も辛い事も忘れられる……それにお前はもう死神そのもの。受け入れるしかない…どう足掻いても意味は無いのだから。]
その声が聞こえなくなると黄泉はその場に立ち上がり、
刀を持つと首から掛けていた緋輝石のネックレスを右手で取り出して見ていた。
元々は何も無い単なる石だったのを弥來が市販のネックレスへ嵌め込んだのだ。そうした狙いには祓い師の身に付けている霊装と同じでこうして身に付けておけば常に力を発揮出来るという意味合いも込められていた。
「……お前は。」
通りを出て気配に気付いた彼女は直ぐ右側へ振り返る。黄泉へ銃口を向けていたのは灰色のスーツを着ていて、マッシュ寄りの髪型に対し黒色の前髪で左目を僅かに隠した男。名は氷川智之といって警察内にある超常現象捜査課という部署に所属している。
「動くな。そんな物騒なモノ持って何処へ行く?まさか、こんな状態にも関わらず何処かへ遊びに行く気か?」
「…何故、生身の人間が此処に居る?街には連中が彷徨いている筈。本来ならとっくに魂を抜かれている頃だが…。」
「悪いがこういうのには慣れてるんでね…アレは一種の呪いの類だろう?一目見てヤバい存在だという事は解ったが、一体何処の誰がこんな馬鹿げた真似をした。何か知っているなら話して欲しい。」
「……話す必要も無ければ貴方が知る必要はない。」
「いや、必要有るね。俺はこの街の警官だ…知る義務も権利だって有る。」
「──五月蝿い、黙れッ!!」
黄泉は舌打ちし、刀を鞘引きし抜刀すると刃先を智之の方へ向けて睨み付けていた。だが彼は臆する事なく黄泉の方を睨んでいる。
「それがお前の返事か、成程…良く解ったよ。」
「私にはこれ以上関わらない方が良い、この先も長生きしたいのならね。」
黄泉は彼から後退るとその場から走り去ってしまう。
銃口を下ろした智之は僅かに溜め息をついた。
「……やれやれ、女に手を上げない主義もこうなると役立ずだな。此方氷川…引き続き市民の救助に尽力する。」
彼は無線で伝えるとその場から走り去った。
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日が沈んで夜を迎えると詩乃は1人、屋敷の裏手にある鍛錬場に立っていた。彼女の視線の先には丸い円形の的が置かれている他、人の形をした的や菱形の的等も置かれている。
「…そういや、何をしても姉さん達が常に先に行ってたんだっけ。私だけ常においてけぼり喰らって…上手く行かなくて…悔しい思いばかりして…今思い出せばその繰り返しだった。」
何も詩乃は最初から天才だった訳じゃない。
姉の円香が自分より才能が有り、新たに出来た黄泉という2人目の姉が戦闘面等の技術に優れている反面、詩乃には何も無かった。自分が何をしても姉2人には到底届かないという悔しさによる努力だけが彼女を成長させて来たのだ。
それからそっと左手を空へ向けては手の平を開いて夜空に浮かぶ月を掴もうとする様な動作を取りながら夜空を眺めていた。
「もしかしたら…私が黄泉みたいになっていたかもしれないのに。強くなりたくて、力が欲しくて、2人を超えたくて……その為だったら…きっとそうしていたかもしれない。」
努力しても届かないのなら、例え禁忌を犯してでも強くなりたいと願う事だって有るのかもしれない。
漫画やアニメだけの話かと思っていたが現実はそういう訳ではない。
常日頃から期待の眼差しで見られ、語られ、比較されれば誰だってそうなる可能性は有りうるだろう。
「…此処に居たのね。」
不意に後ろ声を掛けられ、振り返ると真優が近くに立っていた。
「母さん……怪我は?」
「大丈夫、何処も怪我はしてない。それより懐かしいな…昔、私も此処で恭介さんとよく特訓したっけ。」
「そうなの?」
「主に刀による戦い方とか立ち回りを彼に教えて貰った。私の実家…土宮家だと武術の鍛錬というよりは霊獣の使役の鍛錬が殆ど、だから物足りなくて。それに扱えれば戦闘時でも困らないから。」
真優は微笑むと少し前へ出て、遠くを見つめていた。
その彼女の背を見ながら話し掛ける。
「…あのさ、母さん……もし私が黄泉みたいに緋輝石を手にしてたら母さんはどうしてた?」
「詩乃は憶えていないでしょうけど…昔、有ったのよ?貴女が緋輝石に触ろうとしたのを止めた事が。」
「…え?」
「確か未だ詩乃が8歳の時だった。屋敷の中にある祭壇、そこに祀られていた緋輝石を部屋に忍び込んだ貴女が触ろうとして…それを私が止めた。今まで怒った事は殆ど無かったけど、その日初めて私は怒った。」
「……私も力が欲しかったから。私だけ何も無い…私だけ常に2人の背中しか見えなかったから…見返してやりたくて…今思えばそうだった気がする。」
「闇雲に力を欲しても何の為の物なのか理解して扱わなければそれは唯の力でしかない…そうでなければ私達のしている事は人々へ害を齎す怪異と何も変わらないの。」
「それは…私だって解ってるよ。あれだけ何度も言われたから嫌でも憶えてる。」
「解ってるなら良いけど。それに詩乃は何も持ってない訳じゃない、貴女には優しさが有る。強さなんて二の次で良い…本当に強いのは誰かを本気で助けたいという思い。黄泉の件だって貴女が誰よりもあの子を助けたいって本気で思ってるからケガをしてまで無茶をする。
だから、どんな事が有っても優しさだけは絶対に捨てないで。それが詩乃の本当の強さになるから。」
真優は詩乃へそう話すと微笑み掛ける。
そして近寄って来ると何故か彼女の頭を撫でて来た。
「か、母さん…何してんの?」
「また背が伸びたな…って思って。そろそろ夕飯にしましょう、お腹空いたでしょう?それに貴女にもまだやるべき事が残ってる。」
「…ありがとう、母さん。何か色々とスッキリしたよ。」
詩乃は頷くと真優と共に屋敷の方へと戻って行った。
それから約1時間程2人だけで夕飯を済ませた後、急に部屋の外が慌ただしくなると詩乃は様子を見に廊下へ出る。すると今度は外から悲鳴が聞こえて来た為、急いで玄関で靴を履いてから戸を開いて外へと出て悲鳴の聞こえた方へ向かう。
「これは…ッ…!?」
詩乃の視界へ飛び込んで来たのは倒れている鈴村家の祓い師達、各々が何かに投げ飛ばされたか或いは殴られたかしたのか定かではないが重傷を負っているのは間違いなかった。そして人の気配を感じた詩乃が塀の上を見上げると薙刀を持った紫色の着物を着た同い歳の少女が佇んで居るのを見付け、声を掛ける。
「答えろ、これはお前がやったのか!?」
「漸く会えましたね……鈴村の祓い師。探しましたよ、学び舎に向かっても居りませんでした故…些か探すのに苦労しました。」
「生憎だが、探される様な真似をした覚えは無いぞ?」
「いいえ……貴女を探していたのは簡単な事、貴女を含む鈴村の血筋を滅亡させに参りました。」
そっと薙刀の刃先が詩乃へ向けられ、その直後に少女の左右に黒い人型が姿を現す。それは街で見たそれとは違い、顔には白い正方形の布に対し黒い大きな丸が付けられている。それが1人、2人、3人、4人、5人と周囲を囲う様に次々に増え始めたのだ。
「これは……式神か…!!」
「ご名答。この街へ溢れている者共は…貴女が以前、破壊し封印した呪術の箱を私の父が再生させ新たに呪いを込めて仕上げた物から生まれし存在。彼等は生ある者全てを消す為に動き回る。」
「つまりコトリバコ……成程、そう考えれば街で起こっている異変全てに説明が着く。悪いがそう簡単に消される訳にはいかない!!」
詩乃は祓い師が落とした抜き身の刀を拾い上げると式神達が臨戦態勢へ移行する。しかし、少女は左手を水平に差し出して制止させると彼女は塀から降りて詩乃の近くまで歩いて来て立ち止まった。
「……我が名は東雲、貴様ら鈴村家に滅ぼされた一族の末裔。」
「東雲……!?」
彼女がそう話したが詩乃には何を言われているのか解らぬまま。そして話は更に続いていく。
「その顔、やはり我等を知らぬと見た。それも当然と言えば当然の事…恐らく都合の悪い事実は全て隠し、今日まで過ごして来たのでしょう?」
「……何が言いたい。」
「…羨ましいものですね、本当に……反吐が出る!!」
突如、詩乃へ襲い掛かって来ると薙刀を頭上や右横から何度も振り翳し彼女を攻め始める。対する詩乃はそれを躱しつつ刃で弾きながら彼女から後退し身構えた。
「つまり私達へ復讐する為…この大規模な災いを引き起こした……。成程、良く解ったよ…だが何故関係の無い人々を巻き込んだ!!狙うのは私達だけで充分だろう!?」
「この災いは貴様らへの罰……安心なさい、鈴村が滅んだ後は我々…東雲がその立場を貰い……人々を良き方向へと導くッ!!我が名は東雲弥來…東雲家の末裔なり!!」
薙刀を右手で一回転させると再び詩乃へ牙を剥く。
お互いに刃を交錯させた末、今度は真正面から衝突し鍔迫り合いへ持ち込んだ。ギリギリという音を立てながら刀の刃、薙刀の刃が擦れ合う。そして弥來は再び話し出した。
「その太刀筋と動き……成程、黄泉姉様の動きと同じか。ですが、いい加減諦めたらどうです?黄泉姉様は貴女の元へはもう戻らない、そして二度と帰らない……その事実を受け入れろッ!!」
「五月蝿いッ、黄泉は私の姉さんだ!!お前の……お前達のモノなんかじゃない!!」
「その黄泉姉様が…貴女の事を心底恨んでいたとしても?」
「ッ…!?」
「憎しみ、妬み、恨み、嫉妬…それはこの世で人間が生きている限り絶対に捨てられぬ感情。当然ながら私も貴女も持っている……それに黄泉姉様も。話は黄泉姉様から全て伺っております…何れ貴女は黄泉姉様をも超え、更に上の姉様すらも超えるかもしれないと。」
弥來が自ら切り払い、詩乃から離れると刃を再び差し向けて来る。
「……そこに何も有りはしないと本当に言い切れますか?でなければ…禁忌の力に自ら手など染めぬ筈、嘗ての同胞達に対し手を掛けたりはしない筈…そうでしょう?」
「ッ……。」
詩乃の動きが止まり、俯いてしまった。
彼女の事…黄泉の事をあまり深く考えた事は無かったからだ。常に黄泉は何かあれば「大丈夫」、「何でもない」という言葉を多用していた。彼女が仲間を殺したあの日も同じ事を口にしていた様な気がする。
「私は…ずっと……知らない間に……黄泉姉さんに…負担を掛けていたんだ……。本当は…私や円香姉さんと居るのは…嫌で……1人にして欲しいのに…私が甘えて…縋ったりして……私との稽古も…討滅の務めも…何もかも…本当は…全て嫌だった……私は姉さんの事を…何も理解してあげられなかった……。」
刀を落としてしまうと同時にブツブツと彼女はこれ迄の事を全て振り返りながら呟いていた。黄泉の笑顔の裏にはきっと様々な感情が有ったのかもしれない、何処で間違ったのかと思っても今更思い出す事など出来はしない。
「あの時…私が……お姉ちゃんになってだなんて…勝手な事言って、立場を押し付けていなければ……黄泉姉さんは…ッ…黄泉姉さんは…ッ……。」
「そう、これは全て貴女のせい。黄泉姉様がああなったのも……全て。それにしても鈴村という血筋は強欲だ……例え如何なる手段であろうとも、何もかも手に入れようとする。浅桜という一族もまた鈴村の悪影響を受けたと聞いているが……定かではない。懺悔の序でに私が貴女を直々に屠って差し上げましょう…貴女の死を持ってこの災いを終焉させる……どうです、悪くはないでしょう?」
「私が死ねば……全て…終わる……?」
「ええ、約束しましょう?……但し、今ある全てを東雲家に託す事を前提としますが。それに出来る事ならこれ以上の血は見たく有りませんから……。」
詩乃が顔を上げた時、弥來は微笑んでいた。
一言だけ「解った。」と言えば全て終わるのだ。
あの薙刀で刺されるか或いは首を斬られて。
というのも詩乃自身、人の事を深く理解するのは好きではない…何故ならその人の心の奥底が見えてしまいそうだからだ。
どれ程優しい人でも何かを隠している気がする…だから例え同世代の相手でも関わりたくないと自分から突き放していた。
繋がりを求めてはいけなかった。
黄泉という姉を本当の意味で助けられなかった自分が居るから。
関わるべきではなかった。
他者との触れ合いで自身の過去の事を忘れてしまうから。
常に1人で居るべきだった。
初めて助けた相手である朱里を突き放す筈だった。
でも、それが出来なかった…彼女も自分と同じ孤独だったから。
それに理人達とも本来なら出会うべきではなかった。
学校や学校外で起きている不可思議な出来事や事件を知るべきではなく、全て自分自身で解決しこれ以上広めない事……それが専決な筈だった。でも話してしまった…理解してくれる人が欲しかったから。
「……どうしますか?鈴村詩乃。早々のご決断を。」
「ッ……私は……。」
詩乃が口を開こうとした時、パァンッ!!とい大きなな乾いた音と共に塀の上に居た式神が1人倒れて落ちた。
何が起きたのか解らぬまま膠着していると続いてまた1人、また1人と倒れていく。すると詩乃の背後から石を踏み締める音と共に焦げた匂いが漂って来た。キンッと足元には薬莢が落下する。
「……人様の家に土足で入り込み、挙げ句に偉そうに復讐を説くのか。心底変わっているな…東雲というのは。」
詩乃が振り返るとそこに居たのは黒寄りの灰色をしたワイシャツに黒いズボンを身に付けている恭介本人。
その右手には銃が握られ、左手の人差し指と中指の間には火の付いたタバコが1本挟まっていた。
「父さん……どうして此処に!?」
「…出来たよ詩乃。少々手間は取ってしまったが、形にはなった筈だ。」
彼が優しく微笑み掛けると詩乃へ小さな箱を投げて渡すと受け取った彼女は頷いた。一方の弥來は恭介を見て舌打ちすると彼を睨んでいた。
「何奴…ッ!?」
「…鈴村恭介、退魔師さ。」
「何方でも良い…貴様も纏めて──!?」
その瞬間、銃声と共にまた別の式神が1人倒れて落ちた。それは弥來の居る直ぐ右側にある場所に生えている木の上から。その上、リロードした瞬間も早くて見えていない。気が付いた時には恭介が右腕を上げていたのだ。
「…そこからの不意討ちで僕の娘を屠るつもりだったんだろうが、そうはいかない。ヒトを守る事も退魔師の務め1つだからね…今の詩乃はヒトだ。」
彼が右手に握っているのはトンプソンコンテンダーと呼ばれる木製のグリップが付いた大型の銃、黒く細長い14インチの銃身が何よりも特徴的だった。リロードする場合はトリガー・ガードを用いて銃身の末端を起こした後に手動で弾丸の装填を行う事を必要とする。
「…それと先程の演説に1つだけ付け足しておくよ。彼女…黄泉は居なくなる前に詩乃や円香と居て幸せだと話していた。毎日が楽しい、出来るならこの先も2人と一緒に居たいと。」
「何を…ッ!!」
「…そして東雲一族が鈴村一族に恨みを抱いているのは僕も知っている。だが、お前達の勢力を拡大させる訳にはいかない……それは光があれば闇があるのと同じ。何故なら東雲は影で己の力を用いた人々の支配を目論んでいたからだ。得体の知れぬ存在を使役し、そして従わぬのなら排除する…その道理を許さない為に滅ぼした。それが東雲家と鈴村家の対立における僕なりの解釈の結果だよ。」
「聞いていれば戯言ばかり…!!構うな、この男を殺せ!!それが済めば今度は此処に居る者共全員始末してくれる……さぁ、やれッ!!」
弥來が式神達へ叫ぶと臨戦態勢へ移行する。
「…詩乃、黄泉を追え。」
「でも…ッ!!」
「…行くんだ。それに元凶となる箱さえ壊せばこの馬鹿げた災厄は全て終わるだろう。東雲の人間なら、間違いなく強い者…黄泉を箱の護衛に付ける筈だ。」
「箱の場所なんてまだ──ッ!?」
詩乃へ向かって来た式神を恭介が素早く撃ち落とし、続いて襲って来た2人目が繰り出して来た拳を左手で払い除けては右足で回し蹴りを放って突き放すと背後から頭部を射抜いて撃退した。
「…喜晴さんが霊視で見付けた。箱が有るのは此処から離れた場所にある星蘭教会…その中だそうだ。黄泉を助けて、2人で帰って来るんだ……良いね?」
「解った…死なないでね、父さん……。」
「…あぁ、お前もな。」
詩乃は箱を握り締め、来た道を引き返すと門を抜けて街中へと向かって駆け出して行く。
外は街灯こそ点いているものの人の気配が無く静まり返っていた。石造りの階段を降りて行く背後では常に銃声が聞こえて来る。振り返らずに階段を全て下るとそのまま彼女は教会の方へと走って行った。
全ての災厄を自らの手で終わらせる為に、そして姉の黄泉を何としてでも取り返す為に。
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