19話_着物ノ少女
事の発端は放課後の教室で降霊術を行った事から。
彼岸花4本…赤い蝋燭……それを使って呼んでしまった。恨みを持つ相手を殺して欲しいと。
そうしたら本当に死んでしまった…そして次の標的は蒼依達5人。彼女の名は椿、美人という反面恐ろしい位にその残虐性を兼ね備えていた。
そして今…夜の校舎内を蒼依、そして六花が走る。
特に六花は椿により刺されてしまった。
残る3人は生きているのか…それすら解らない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈「これで大丈夫…!」
「ありがと…助かったよ…蒼依。」
蒼依と六花の2人が逃げ込んだのは家庭科室。
蒼依の持っていたハンカチと家庭科室の奥に有った布で六花の傷口を何とか止血し止めた。
だが未だ油断は出来ない。
「…六花、結愛達…大丈夫かな?」
「多分…何とか逃げてるよ、きっと。」
2人は何とか平静を装って話をする。
問題なのはこれからどうするか…。
此処に居れば椿はまたやって来るだろう。
「あのさ蒼依…、やっぱり結愛達…探そう?」
「どうする…の?」
「…包丁…そうだ!包丁持って行こう!向こうが刀なら私達は包丁…!それと何か盾になりそうな奴…。」
六花は家庭科室にある金属製の戸棚の中に有った包丁を見付け、取り出そうとする。しかし鍵が掛かっていて取り出せない。ガタガタと彼女が何度も戸棚を揺らすがやはり無意味だ。
「あーもうッ、何で開かないの!?」
「諦めて他を当たろう?ね?」
蒼依は彼女を諭すと六花は無言で頷き、2人は再び廊下へ出る。気味の悪い位に夜の学校は静まり返っている…廊下はひんやりと冷え切った空気で満ちていた。上履きの音と電気の消えている廊下が余計に恐怖を掻き立ててしまう。
2人が向かったのは2年生の端のクラス…ドアを開くと奥の机が動いた気がする。
恐る恐る近寄るとそこに雪菜が蹲っていた。
蒼依がしゃがんで見ると声を出す。
「雪菜!?」
「蒼依…六花…!?良かった…無事だったんだ……!」
声を掛けられた彼女は立ち上がり、2人へ抱き着く。彼女の手が震えている…余程怖かったのだろう。しかし残る2人…結愛と綾音の居場所が解らない。
「早く探そう…結愛達を…!」
蒼依が声にした途端、途端に背筋がゾワッとした。
あの感覚だ…あの嫌な感覚…そして…次は…
「ふふふ……見ぃー付けた♪また増えて3人……。」
「ひぃッ!?」
思わず雪菜が声を漏らす。蒼依が振り返ると背中を押され、前へ出た。自分の意志じゃない…誰が?
振り返ると六花の右手が突き出ていた。
「……ごめんね、蒼依。」
「何で……り…六花…!?」
振り向くと六花が俯いて唇を噛み締めていた。
「逃げよう、雪菜…早く!」
「でもッ!蒼依ちゃんが…!」
「ッ…良いから…行くよ!!蒼依が…蒼依がやろうって…そう言ったんだ…私達は…悪くない…そうだよ、私達は…何も悪くない…悪いのは蒼依じゃん…!だから責任……取ってもらおうよ…ね?」
六花が雪菜の手を引いて蒼依の左横をすり抜けて教室から逃げてしまう。見捨てられた…?いや、裏切られた…?その考えが脳裏をずっと過ぎる。
「違う…私じゃない…!!私は…私は!!」
「…あーあ…行っちゃったね?薄情なお友達…♪でも安心して良いよ…貴女の次はあの子達…それから残りの子も…みんな……殺してあげる…♪」
怖い…兎に角、怖い。
刀の刃先がゆっくりと蒼依へ向けられる。
ドクンドクンと心臓が痛いぐらいに脈打つ。
呼吸も荒くなり、全身から冷や汗が出る様な感覚が襲って来た。
「あ…あぁ……あぁぁ…ッ…!!」
恐怖で足が竦む…
逃げなきゃ、此処から逃げなきゃと自分に言い聞かせる。しかし足が中々動いてくれない…それでも逃げなければ…待つのは……死。
ゆっくりと彼女の前から後退り、方向を変えて
六花達と同じ方向へ逃げようと試みる。しかし机の椅子に足をぶつけてしまい、ふらつく。
「…いい加減死んでくれないかな…ッ!」
「ッッ…!!?」
刀が目の前で振られると蒼依の制服が右斜めに斬れた。少し仰け反った事で深くまで当たらなかったが刃先が右肩に当たった事から痛みが走る。
それは指を切った時の痛みとは違い、鈍い痛みだった。
「痛ぁッ…!?」
「外しちゃった……貴女、運が良いね…?でも次は外さないよ…?」
「う…ッ…来ないで…来ないでよぉ…ッ!!」
血が右手まで伝って滴ると指先を赤く染めていく。
無理矢理、机を押して進路を遮ると後退って逃げる。教室のドアへと走って来た時にバン!!という鈍い音が響くとそのすぐ近くに刀の鞘が落ちていた。どうやら投げつけて来たらしい。
「…逃げないで…ねぇ……私と遊ぼう?遊ぼうよ?」
椿の声がする…彼女はいつの間にか自分の後ろに居たのだ。それでも何とか逃げようとする…そしてドアを開けた時、背中に鋭い痛みが走るのもお構い無しに蒼依は廊下へ飛び出すと一目散に走って逃げた。
「何処なの…六花…結愛…雪菜……綾音ぇ…ッ!!居るなら…返事してよぉッ…!!」
自分だけが悪いのか?
自分だけのせいなのか?
そもそも、話の根源は雪菜が[[rb:村田 > あいつ]]にセクハラされたから仕返ししたいねという私情から来た筈。
それを聞いた綾音が酷い目に遭わせてやりたいと言い、結愛がそれに乗り、六花が何か無いかと自分へ聞いて来た。オカルトとかそういうの好きだから詳しいんじゃないかという彼女の発言からだ。
そして見付けて来たのがツバキサマ…
絶対に出て来るなんて事は有り得ない…
だって、だって、だって、だって…あんなのはただの都市伝説でしかない…やろうと言ったのは誰だ?
用意したのは誰だ?…悪いのは…本当に悪いのは……誰だ?そんな考えがずっと蒼依の脳裏を支配していた。死にたくないという恐怖…疑心暗鬼…。
「はぁッ…はぁッッ…はぁ…はぁ…ッ…!」
立ち止まり、振り返ると椿の姿は消えていた。
そして途端に背中に痛みが走る。どうやらあの時に斬られてしまったらしい…。下着の背中の紐も切れて違和感が有る上に右肩も痛い…。
ハンカチは無い…止血する事も出来ない。
鞄は自分達の教室に有る筈…でも鞄が有るのは今走って来た方向にある教室…戻れば殺されるし、階段を上がって逆へ向かって行けば鉢合わせる可能性だってある。
「ぐすッ…もう…こんなの…嫌だぁッ…嫌だぁ…ッ!」
お腹も空いた…今日の夕飯は確か自分の好きなハンバーグだった。
見たいテレビ番組もあった。
その話を明日みんなでしようと思った…でも、全て消えて無くなった。そう…たった一つの儀式のせいで。ボロボロと涙が零れて来る。
お化け屋敷とか怖い物には終わりが有る…だが、今のこの事態に終わりは来ない。
もし終わりが来るとしたら…それは……
-死-
それしかない。
俯いていると前から肩を叩かれる。
思わず飛び退くと目を擦って前方を見つめた。
「……蒼依?」
「綾音…?綾音ぇッ!」
泣きながら蒼依は彼女へと抱き着く。
そして2人はその足で用務員室へと向かった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
同じ頃。
詩乃は理人の家で話を聞き、蒼依の部屋に居た。
念の為に詩乃は涼華にも声を掛けていたのだ。
理人と涼華は詩乃の後ろでパソコンを操作する彼女を見ていた。
「……パソコンの検索履歴に気になるのが見つかったよ。」
「気になるモノ?」
理人が聞き返す。
そして詩乃が話を始めた。
「特殊降霊術特集…その中にツバキサマというモノが有った。まさかとは思うが…コレをやりに行った可能性は?」
「ツバキサマって…何?」
理人が首を傾げると代わりに涼華が話し始めた。
「……古くから伝わる伝承の1つ。理不尽な理由から遊郭に売り飛ばされた少女、椿が怒り狂って店に訪れた侍を刀で切り刻んで殺した…それも店の客以外にも全員だ。そしていつしか彼女は人斬り椿と呼ばれ…恐れられた。」
補足する様に詩乃も加わると話が進む。
「他の侍達が病に倒れたり…殺されたりとあまりにも不幸な祟りが続く事から侍達は彼女の怒りを鎮める為に石碑を立てた。そうしたら途端にパタリと止んだそうだ。」
「待ってよ、その椿って子は…どうなったの?」
理人の問い掛けに涼風と詩乃が顔を合わせると
涼華が話し出す。
「……不明だ。」
「不明…!?」
「彼女は死んだのか…それとも生きているのか…解らないという事だ。古い伝承にも彼女の生死に纏わる事は記載されていない。そしていつしか…斬るという言葉を悪いモノを断ち切ると変えて今日まで一部の信仰者らの合間では崇められて来たという事。」
「…そして一部の間違った噂が浸透し、殺したい相手の名を告げて呼べば椿が殺してくれるなんてホラ話が出来たって訳さ。」
理人は2人の話に言葉を失っていた。
そしてゆっくり口を開く。
「…じゃあ…蒼依は……?」
「椿を呼び出しに行った…かもしれないね。彼岸花4本と赤い蝋燭…そしてこの呪文……降霊術のパターンでは良くある事だ。」
「そんな流暢に言わないでよ!!妹が、蒼依が…死ぬかもしれないんだぞ!?」
「櫻井君、気持ちは解るから落ち着け!…涼華は街中を頼む。何かあれば式神を飛ばして連絡して欲しい。私と櫻井君は彼女の通う学校へ行ってみる……廃墟、それから怪しい所全てを探して回るしかない…!」
「…解った。見付けたら椿を斬って構わないのか?」
「今は人命を最優先に…それと蒼依って子の特徴はこの写真だけだ、コレを頼りに探そう。」
詩乃が写真立ての中にあった家族4人の映った写真を涼華へ見せる。そして彼女だけが窓から飛び出すと闇夜に消えた。
「私達も行こう…櫻井君。懐中電灯…それから身を守れそうなモノを何か持って行こう。私は八咫烏が有るから多少は何とかなる。」
「明日香とか日向さんは呼ばないの?」
「…これは…2人の手に負える案件じゃない。本当に人が死ぬかもしれないんだ…!」
珍しく詩乃も焦っていた。
普段の彼女が見せるあのラフな雰囲気では無い。
そして支度を終えた2人は蒼依の通う中学校へと向かうのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃、綾音と蒼依は用務員室に身を潜めていた。
ズキズキと背中が痛む事から綾音に診てもらう事にしたのだ。
「蒼依…やっぱり背中から血が出てるよ…。」
「ッ…やっぱり斬られたんだ…あの時に。」
「六花と雪菜は?…結愛も見当たらないし。」
蒼依は六花の名前が出ると唇を噛み締めた。
もう全員の精神状態は真面とは言えない。
「…知らないよ、私のせいにして…逃げた奴の事なんか!!」
「お、落ち着きなって!…何があったの?」
「私が…やったって…私が全部悪いんだって…私のせいにして…椿の前に突き飛ばして…それで自分達だけ逃げ出したんだ…!アイツに…村田に仕返ししたいって言ったのは六花なのに!!」
「蒼依……。」
「綾音もそう思ってるんでしょう…本当は私が全部悪いって!!」
「誰もそんな事言ってないじゃん!!落ち着きなって、蒼依!悪いのは私達全員…蒼依1人のせいじゃないってば!!」
「ッ…嘘ばっかり…!!そんなの綺麗事だよ!!」
蒼依は疑心暗鬼に陥っていた。
そうは言うがどうせ綾音も裏切る…。
人間、他人より自分の方が可愛いのだ。
裏切る時はあっさり裏切るに決まっている。
「…喧嘩したら余計疲れる…もう止めよう?これ以上言い争っても仕方ないんだから。」
「ッッ…ごめん……。」
綾音は冷静だった。興奮気味の蒼依を抱き締めると彼女を落ち着かせようとする。
すると何かが割れる音が突然したと思うと2人は直ぐに離れた。音がしたのは廊下、ゆっくりと蒼依がドアを開けて暗い廊下を見つめる。だが何も解らない。
「…蒼依、どう?」
「ダメ、暗くて解らない…。取り敢えず私は結愛を探しに行って来るけど…綾音はどうする?」
「私も行く…その方が良いでしょ?」
「うん……。」
2人は用務員室を後にし歩いて向かう。ガラスが割れた様な音がしたのは用務員室から出た先に有る廊下。1年生のクラスが有る方で進んで行くと真ん中のクラスの教卓に有る花瓶が砕け散っている。
花と水が床に散らばり、破片が転がっていた。
六花と雪菜、綾音には出会った…だが結愛だけは会えていないのだ。もう殺されてしまったのかもしれない…その最悪な予感だけが脳裏を掠める。
「結愛…?何処なの…結愛?」
1年生の教室は全部で5クラス。
1-Aから1-Eまで存在していて、2人は最後のクラスであるE組の前のD組へ足を踏み入れた。
ガタンという物音が聞こえると思わず2人は身体を震わせてしまう。音がしたのは奥のロッカー…ゆっくりと近寄って恐る恐る蒼依はドアを開けた。
「止めてッ!殺さないで!!良い子にするから!お願いッ!!殺さないでぇッ!!」
「結愛…?結愛!!」
「へ…?蒼依…と綾音!?」
殺されたかと思った彼女は生きていた。
蒼依へ飛び付くと彼女は半泣きで再会を喜んでいた。後は六花と雪菜と合流すれば良い…そう思って
3人が教室を出ると蒼依は2人へある事を持ち掛けて来た。
「…ごめん、私…トイレ行きたい…!」
「トイレ?…そこのトイレは工事中か。そうなると2階?」
綾音がE組の先にあるトイレを見つけて確認しに行くが女子トイレは使えないらしい。
「…うん。直ぐ戻るから…!」
蒼依は2人に見送られ、そそくさと2階へ続く階段を駆け上がった。だが、それは突然訪れる。
渡り廊下の先…そこに黒い着物の少女が立っていたのだ。そして振り返った時に彼女と目が合ってしまう。直感が逃げろと囁くが向こうの方が早く、此方を見つけて追い掛けて来たのだ。
「ッ…!!」
蒼依は階段を駆け下り、一目散に1階へ来る。待っていた2人に形相を変えて叫んだ。
「2人とも逃げて!!早く!!」
蒼依の声と共に2人が逃げ出す。
そして気配を感じて振り返ると蒼依の方へ刺突が繰り出され、腹部に突然鋭い痛みが走った。
「え…?」
下へ視線を向けると何かが蒼依の腹部へ突き刺さっていた。いや…見た事が有る…これは刀だ…誰の?
椿のだ。その椿の刀が自分に突き刺さっている。
ボタボタと血が足元へ滴り落ちる。刀が引き抜かれた途端に力が抜けて床へ失禁してしまい、その場に倒れてしまった。
「……やっと1人目。長かったなぁ…それじゃ…お休み……ふふふッ!」
椿は倒れている蒼依を見て笑っている。
蒼依は激痛で声が出せない上に血が止まらない。
このままでは死ぬ…いや、死ぬ事は決まった。
お腹を刺されれば死ぬのは知っているから。
薄れ行く意識の中…椿の背中が遠のいて行くのが解る。次は結愛達を狙いに行ったのだろう…自分は此処で死ぬ……。眠気も強くなって来た…このまま寝てしまえば楽になれる。蒼依はそう思って目を閉じようとした。少し経ってから誰かが手を掴んで呼び掛けて来る。
「…い…大丈夫…か!?…ぬな…しっか…ろッ!!」
それは女性の声、薄ら目を開けると茶髪の女性が必死に呼び掛けている。彼女は此方の手を握りながら
傷口へ触れて何かをしていた。するとぼんやりだが意識が戻り、彼女の事を見つめていた。
「…目が覚めたかい?遅くなってしまった…。」
「誰…ですか?」
「鈴村詩乃…キミのお兄さんの友達さ。傷口は塞いだが未だ完全じゃない…此処に居るんだよ?良いね?」
詩乃は立ち上がると黒い鞘の刀を手に取り、蒼依の前から立ち去った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
詩乃は廊下を抜けた先の通りを進み、体育館へ来る。その真ん中に黒い着物を着た少女が立っていた。
「……お前が椿か?」
「…貴女は誰?どうやって来たの?」
詩乃はポケットから札を数枚取り出して見せびらかす。すると椿は、ふぅんと得意気に納得した。
「誰も私を殺せない…誰も私を消せない…残念だったね。」
「知ってるよ…お前を呼び出したのは彼女達で間違いないんだな?」
「そうだよ…人を殺して欲しいって言うから叶えてあげた。私はそうやって色んな人間達から頼まれて来た…アイツが憎い、アイツが嫌い…アイツなんて消えてしまえばいい…その度に多くの人が死んだ。」
「…都合の良い曲解をした現代人がお前の存在を歪めたんだな…。お前が殺したのは自分の事を遊郭へ売った侍と客…そして嘲笑った連中達だけ…。本当はこれ以上誰かを殺す気は無かった…違うか?」
「貴女には私の気持ちなんか解らない…。」
「そうだな…だが一般人に危害を加えた以上、見過ごせない。」
詩乃は刀の柄へ手を掛けると引き抜こうとする。
そして青白い刀身を露わにするとそれを彼女へ向けた。
「私を斬るの?…悪いのは私じゃないのに?」
「…斬るんじゃない…お前を封印する…ッ!!」
詩乃が走り出し、椿へ向けて刀を振り翳す。
だが待ってという声と共にその刃が首筋でピタリと止まった。振り返ると蒼依が理人に背負われて2人の方を見ていたのだ。
「さっきの子…確かに刺したのに…。」
椿は蒼依を見つめる。すると彼女は歩いて椿の方へと近寄り、詩乃の横で立ち止まる。詩乃は刀を退けて後退した。
「ごめんなさい…貴女に…人殺しをさせてしまって……。」
「…嫌いなヒトが消えたのに謝るの?寧ろ幸せでしょう?」
「話は…私のお兄ちゃんから聞いた。貴女は人殺しを好きでやった訳じゃない…貴女は…自分を守る為にやった…そうでしょう?」
「……。」
椿は目を逸らす。蒼依は更に話し続けた。
「私…貴女の事何も知らなかった…。ずっと辛かったんだよね…?死んでも身勝手な理由で呼び出されて…人を殺す様に仕向けられて…。本当にごめんなさい…謝っても謝り切れない……。」
蒼依は彼女の前で頭を下げた。
椿は口を開くと話始める。
「…そうよ…私は…人を殺したくなんて…なかった!!でも…そうなってしまった…そう…なってしまった…。それだけは今もずっと変わらない…私は人殺しのカミサマなんかじゃない…私は唯の人なの!私は普通に…生きたかった……それだけなの…。」
彼女がそう訴えると詩乃は刀を納めると今度は透明な勾玉を取り出して蒼依へ手渡した。
「…コレが有れば自由に生きられる、もう苦しまなくて良い…。怪異と人間の共存、それが私の望む道だからね。それにこれからどうするかは2人で決めると良い…。」
詩乃は理人の方へ戻るとその行く末を見守る事にした。そして少し経つと勾玉が光り輝き、一連の騒動は幕を閉じて終わりを告げたのだった。
負傷した六花、蒼依は病院に行く事になったのは言うまでもない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして数日後。
六花と蒼依は昨日の事を話し合う為に2人だけで屋上に居た。雪菜達はそのまま残して来たのだ。
「…蒼依…?この前は…その…ごめん…。私、どうかしてた…村田を殺したいとか懲らしめたいとか言ったのは私なのに…。」
「私も止めれば良かった…ごめんね、六花?もうオカルト趣味は辞めるよ…だって危ないもん。」
「…辞めなくて良いよ。折角見付けたんでしょ?自分の趣味。なら続けなよ、危ない事以外は付き合うから!」
「そ、そうだけどさぁ…読書とかにすれば良かったかも……。」
2人が話していると屋上のドアが開いて振り返る。
すると突然彼女は飛び退いて後退ってしまった。
「な、な、何で此処に居るの!?この間の子じゃん!!?」
六花が指さした先に居たのは椿、しかも自分達と同じ学制服を着ていたのだ。髪も何故かヘアピンが左横に付いている。
「あ、蒼依…怖くないの!?」
「え?大丈夫だよ、もう危害は加えたりしないから。」
椿の方を見ると彼女は頷いた。
「…私の名前は櫻井椿…今は蒼依の妹って事にしてるの。だから貴女達とは下の学年になる。」
「あんた達、いつの間にそんな関係に……。」
「…それに怪異と人間は分かり合えるかもしれないって詩乃さんが言ってた。だからこうしてるの…ほら、手だって繋げるし。」
蒼依は椿と手を繋ぐと微笑んで見せた。
六花は未だ受け入れられていない様にも見える。
すると突然ピッと椿が六花を指さすと彼女を見ながら話し出した。
「…それと、金輪際…降霊術の実践は禁止。それから危ない類のモノも全て。廃墟探索とかは私同伴なら許可する…蒼依とは既に約束したから。」
「うッ…急にそんな事言うの?」
「…貴女達5人を許すならそれ位しないと。此方は呼び出された側ですから?」
椿は得意気に見つめる。少し上目遣いで六花を見ていると彼女は小さく頷いた。それを見た椿は頷くと解れば宜しいと伝える。
「……それに現代の生活も悪くないわね。私の時代には楽しい事なんて殆ど無かったから。ねぇ蒼依…クレープって…何?私のクラスの子達が何か話してたけど。」
「気になるなら放課後に皆で食べに行く?美味しいよ、きっと気に入ると思う!」
蒼依は微笑むと椿の手を握り締めた。
ある意味、これも1つの解決策だったのかもしれない。
あの時、椿は確かに蒼依の手により封印されたが明確な死というモノが不明であった事から当時の肉体をそのまま保てているだけなのだと詩乃が彼女へ話している。
あの日、彼女が両親と兄からこっぴどく叱られたのは言うまでも無い。それでも蒼依は嬉しかった…。
自分が生きているという事を実感し、人間では無いが新たな友達が出来た事が何よりも。
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