11話_呪印(シルシ)ト傀儡(クグツ)
嘗て全ては1つだった。
悪霊、怪異、そして妖。それ等を祓う為に時の陰陽師らが作ったのが祓い師と呼ばれる存在である。
そして鈴村と呼ばれる流派は古くから悪意のある存在を祓い、人の世を守って来た。
そして人に害を成さない存在であれば彼等を許し、祓わない事とした。
しかし鈴村という流派の中で1つの考えを持つ者が居た。
それは悪霊、怪異、妖の存在を良しとせず消滅させる事が本来の祓い師の役目なのではないかと唱える者が現れた事。
それが神に代わり全てを裁く者、神代である。
神代家当主は鈴村家当主と真っ向から対立する姿勢を見せると鈴村本家から分家し個別で独自の流派を築いていく事になる。
決定的な対立となったのは鈴村家の人間が特例怪異の元となってしまった人間を救済するのに対し、神代は特殊な武器を用いてその人間を斬るという前代未聞のやり方で対処するという物。
その人間を咎人(トガビト)と呼び、一方的に邪険に扱う形で3つの対象と同じ扱いで裁く。
それはまさに裁く者という自分達の名に相応しかった。
以来、鈴村と神代は現代にまで渡って対立を繰り広げている。それは両親、子供、そしてまた次の世代の子供…という風に繋がっていった。
鈴村詩乃、そして神代涼華もまた互いに違う家の人間として産まれ、祓い師としての実力を身に付けて物事の処理に当たっている。
お互いに和解する日は来るのだろうか?
それは未だ誰にも解らない事なのである。
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カラスが鳴いている、カァカァと。
どれだけ走ったのだろう?
どれだけ逃げて来たのだろう?
スニーカーは泥だらけ、右足の膝は擦りむいている事から動かす度に痛みが走る。
さっきは枝に掠って左腕を切ってしまった。
傷口から血がつうっと滴って来る。
立ち止まると薄茶色の髪の毛を靡かせながら片手で汗を拭ったが途端に激痛が走る。
「いッ…!?まただ…また手が…ッッ!」
その右手には黒い花のマークが記されている。
それが薄く成る度に胸が苦しくなり、呼吸が難しくなる。間違い無く不味いのは確か。
私は助かるのだろうか?私はどうなってしまうのだろうか?
ー シルシを刻まれた者は何があろうと死ぬ。ー
その言葉だけが脳裏を掠める。
いつの間にか私は村の駅へ来ていた。だが逃げられるのだろうか?草むらを出ると3人の同い歳と思われる女の子2人と男の子と出会す。
此方を見ると驚いた顔をしていた。その瞬間、私の意識は途切れてしまった。
遡る事、数時間前。
詩乃は普段と変わらず学校の図書準備室に居た。
目の前に居るのは大津円香、詩乃の姉。
そして理人と明日香。朱里と志穂は席を外していた。
「…うちの生徒が失踪?何でまた。」
「保護者の話によれば居なくなったのは3人。2年生の神山静香、笹木和也、桐谷百華。土日祝日を利用して静香さんの実家のある村へ向かってから行方不明になった…足取りが掴めたのはこの街の駅で最後。」
円香は写真を取り出すと見せる。
長い黒髪の青目が静香
短髪の黒目が和也
茶髪の髪を結んだのが百華
居なくなったのはこの3人だった。詩乃はそれを見ながら不思議そうに考えている。
「……村で人が居なくなるなんて有り得るのか?事件や事故、そういう話とかは?」
「無いわよ…そこで詩乃と2人にそこへ散策へ行って貰いたいの。旅費と交通費は私が出すから、お願い出来る?」
すると明日香が口を挟んで来た。
「センセ、何であたしらなの?」
「多分、詩乃だけじゃムリな気がして…。それに彼女達の向かった先、N村は現代社会と孤立した村って言われてるの。観光スポットとして大きな滝とか湖が有る名所だけど…彼処には何かある。そんな気がするのよね。」
円香はそれ以上口にしなかった。
その後、3人は一旦帰ってから荷物を纏めて学校前へ再び集合する。そして円香の手配したレンタカーで駅へ向かい、着いてから3人だけが切符を買って電車へと乗り込む。約1時間半掛けてN村のある駅へと辿り着いた。ホームへ降り、詩乃が電車の時刻を確認すると次の電車は無い事が判明する。つまり電車は翌朝の始発となってしまった。
「次の電車は…無しか。」
詩乃と明日香、理人は駅の外へ出る。
視線を感じたのか明日香が身構え、草むらを睨んでいた。
「待てッ!何か居る…!」
明日香が左手の装置を構えようとした時。
草むらから出て来たのは1人の少女、それは写真に写っていた1人だった。
「明日香ッ、人だ!怪異じゃない!」
「え!?あ…おいッ!?」
倒れそうになった少女を明日香が支えた。
彼女は酷く衰弱していた。そして話は冒頭へと戻る。3人が最初に出会った少女こそ失踪した百華だったのだ。
「酷く弱っているな…怪我もしている…ん?」
詩乃は彼女の右手を見ると手の甲に何かが記されているのに気付く。黒い花の様な印が刻まれており、既に1枚の花弁が無くなっていた。
「これは……?」
「鈴村さん、どうしよう?」
理人が詩乃へ問い掛けて来る。
「…どうするも何も、先ずは寝かせてあげよう。彼女が起きたら水と食べ物をあげて様子を見ようか。」
駅の中にあるベンチへ彼女を寝かせ、理人と明日香に見ている様に伝える。詩乃は1人で外を見ていた。
「黒い花の印…あの酷く衰弱した様子……やはり何か有る。2人とも、彼女を頼む。私は外を見て来るよ。」
「おいマジで行くのか!?」
明日香が止めようと駆け寄って来る。
だが詩乃はいつもの口調でそれを流した。
「…明日香、ヤバくなったらその紙で式神を作って飛ばして欲しい。私の元に必ず届くから心配するな。」
詩乃はカバンから懐中電灯や様々な御札をポーチへしまうと外へと繰り出すのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
辺りは鬱蒼と生い茂る木々の中を抜けて村を目指す。ゆっくりと進んで行くと空気が冷んやりと冷たくなって来た。約15分歩いて村の方へ辿り着くと立ち止まった。
「村……にしては静かすぎる。何なんだ?」
人の気すら無い村の中を進む。
小屋の中にも民家の中にも誰も居ない。
カツンと足に何か当たると詩乃はそれを見つめる。
それは血の着いた包丁だった。
「物騒な物が落ちてる上、オマケにヤバそうなのが有る…。人の死体か…明日香が見たら卒倒してるよ。」
包丁を拾った直ぐ左側を見ると何かに頭を潰された人の死体が横たわっている。そこにはハエやカラスが集っていた。恐らくこの包丁の持ち主だろう。
顔の辺りから目玉や脳みそが出てしまっている。
「…気分が悪くなる、先を急ごう。」
詩乃は歩みを進めると中年の男性へ遭遇する。彼女は駆け寄ると声を掛けた。
「あの!この辺で女の子と男の子見掛けませんでしたか?私と同い歳位の子なのですが。」
普通に聞くと男性は振り向く。その目は何処か正気が感じられなかった。
「お前…余所者か?」
「え?まぁ…そうですけど?」
ヒュンッと何かが目の前に突き出される。
それは包丁だった。
「…お前も、祭を穢しに来たのか?そうか…お前も祭を…祭を穢しに…ッ!!」
「人の話を聞け!私は人を探しに来ただけだッ!!」
「知らんもんは知らん!!」
いきなり包丁が振り翳されると詩乃はそれを避けた。だが一般人相手に術は使えない。
「ッ…止むを得ない!」
詩乃は彼の横をすり抜けて走る。
後ろでは男が叫んでいるが、気にはしてられない。
何とか逃げ延びると辿り着いたのは村の中程、つまり商店街の有る辺りだった。
「はぁ…はぁ…、少しは運動しとくんだった…!」
詩乃は立ち止まり、息を整えると再び歩き出す。
商店街も不気味な程に静まり返っていた。
先程から気になるのは何かが軒先からぶら下がっているという事。1軒の店の近くへ立ち寄るとそれは有った。
「これは……人形か?」
ぶら下がっていたのは黒い髪をだらんと垂らした日本人形そのもの。着物を着せられているが割りと古く、カビの様な湿気た匂いがする。
「何故人形がこんな所に?それも1つじゃない、何個もぶら下がっている……。」
ふと視線を他へ向けるとどの店の軒先にも人形がぶら下げられていた。もう朽ちてしまい顔が割れてる物やボロボロになった物も有る。
しかし、気味が悪い事には変わりない。商店街を歩いて行くがどこもかしこもシャッターが降りている。稀に窓ガラスが割られていたり、シャッターが大きく凹んでいたりと何かが居るのは間違い無い。
今度は再び住宅街へ来るがやはり人は居ない。
軒先にぶら下がっているのは日本人形、カラスが居るから薄気味悪さがより際立つ。
詩乃が歩いていると1人の女の子が公園でボールを持っている。
自分より歳下なのは解った為、近寄って声を掛けてみる事にした。
「キミ、此処の村の子かい?」
「お姉ちゃん……誰?」
「怪しい人じゃないよ。私は友達を探しているんだ…この写真の子、見なかったかい? 」
スッとポケットから2枚の写真を取り出す。
だが少女は首を横へ振った。
「そうか…ありがとう。お父さんとお母さんは?」
「…居ないよ。 死んじゃった。」
「ッ…そうか、ごめんな変な詮索をして…。」
「…傀儡サマに殺されたの。傀儡サマはね、綺麗な女の人が好きなの。男の人は食べちゃうんだ…女の人は傀儡サマの生贄として捧げられるの…でも今年は生贄が逃げたから傀儡サマはとても怒ってる。だからお姉ちゃんも食べられないようにね……?」
ニィッと少女が微笑むとその手にはボールではなく、いつの間にか日本人形が握られていた。詩乃は臆する事無く聞き返す。
「……生贄ってどういう事だ?」
「この村へ来た人は…皆、傀儡サマの食料と生贄になるの……そろそろ日が沈むよ。もう村の人がお姉ちゃんや他の人達を探し始めてる頃じゃないかな?ふふッ…!」
少女は詩乃の前から姿を消してしまった。
それと同時にカーンカーンと金属を叩く音が響く。
「居たぞッ!!」
「逃がすな、捕まえろッッ!!」
男達の叫び声がすると、此方を指さしている。
1人、2人と男の数がどんどん増えて行く。
手には鉈や出刃包丁、それから畑を耕すクワを持つ者も居る。
「ちぃッ…どうなってるんだ、この村は!!」
詩乃は再び走り出す。走っていると腕を惹かれて草むらへ連れ込まれてしまう。振り向くと、しーっと囁かれ、詩乃は黙った。すると四方から何個も赤い点が浮かび上がって来た。よく見るとそれは松明の灯り。地面を歩く音と共にザッザッザッと靴が砂利と擦れる音が響く。草むらの前を通り過ぎると詩乃が振り向いた。
「…助かった、ありがとう。キミは…?」
「……此方へ。詳しい話は後にしましょう。」
詩乃が出会ったのは1人の少女。
自分より大人びている雰囲気が有る。彼女の後へ続いて歩いて行くと辿り着いたのは小さな神社。
建物の中へ連れられると詩乃は一息ついた。
「……キミは神社の子なのか?」
「まぁ…そんな所です。申し遅れました、私は麗(れい)と言います。此処の神社の主です。」
「私は鈴村詩乃…、祓い師だ。この村は何なんだ?異様な雰囲気がする上に皆正気では無いが…。」
麗は奥の方へ進むと詩乃を広間へと通した。
そしてその真ん中へ来ると立ち止まる。
「……傀儡様。この村に伝わる古い神様であり、皆さんそれを信仰しているのです。」
「傀儡様…?」
「ええ…この神社に祀られているのが傀儡様。そして傀儡様は他の神と違い、生きた人間の命を欲するのです…毎年16歳〜18歳の少女が生贄として選ばれて喰らわれる。それを我々は魂喰いと呼び、これを行う事で無病息災、家内安全が約束されるのです。」
「……成程、それでもし仮に生贄が居なかったら?」
その問い掛けに対し、麗は詩乃を見ながら呟く。
「祟りが起きます…傀儡様の祟りは最も恐れられ、村に凶作や疫病を撒き散らすと言われています。生贄に選ばれた少女は光栄です…選ばれなければ……。」
「選ばれなければ……?」
「…腸(はらわた)や臓器を生きたまま抉り出され、晒された挙げ句に野に住む獣の餌にされてしまう。ですが基本、傀儡様は好き嫌い致しません…村の娘もそうですが、外部から訪れた娘もまた傀儡様の糧となる…生贄が逃げれば村の人間が総出で追い掛けて来る……つまりこの村からは誰1人逃げられないのです。」
麗は詩乃へそう話した。そして向き直ると赤い瞳は詩乃の方をじっと見つめる。
「貴女も…生贄の1人ですよ。詩乃さん?それとお仲間の方の1人も女性でしたよね?」
「…ッ!!」
詩乃が構えると後退る。その瞬間、麗が指を鳴らすとパタンパタンと音を立てて全ての扉が閉まってしまう。
「何れ村人が此処へ来ます…貴女はもう袋のネズミ。逃げられませんよ?」
「私を助けたのは此処へ誘い込む為か…ッ!!」
「ええ…、騙してごめんなさい。でもこの村には必要なのです……傀儡様とそれから生贄となる少女が。」
「ふざけるな…
詩乃は普段と同じやり方で詠唱し銃を呼び出そうとするのだが発動しない。何度試してもそれは同じだ。
「バカな、術が使えないだと!?」
「祓い師や名だたる陰陽師ですら破れぬ術…それを使っておりますので…どうか諦めて下さい?そして生贄となって下さいな……。」
麗が指先を向けると途端に詩乃の身体が硬直し動かなくなってしまう。クイッと彼女が手を動かすと詩乃の腕が勝手に動き出した。
「お前…私に何をした…ッッ!!?」
「動かないで下さいね?動くと…腕がへし折れてしまいますから。」
麗は筆で詩乃の右手の甲をなぞると黒い花の印を刻み付ける。それは駅で保護した少女の手にも付いていたのと同じ。
「ッ…これは……!?」
「
麗は詩乃を連れ、神社の外へ連れ出す。
そこにあったのは倉庫。その中へ詩乃を放り込むと術を解いて扉を閉める。
「いッッ…どうするつもりだッ…おい!!開けろ! 」
詩乃はバンバンと扉を内側から叩くが意味が無い。
足音が遠ざかるのを最後に静かに静まり返ってしまった。
「しくじったな…おっとと、何だ?」
ふと何かに躓きそうになり、懐中電灯で足元や辺りを照らしてみる。浮かび上がったのは頭蓋骨、それから人の骨。見て解るのはどれも自分と同じ人間だという事。その多くが衣類を身に付けたまま。
「うぇッッ…死体の次は骨か…死体と夜を共にするのは気味が悪くて嫌だなぁ……。」
奥へ進むと死体に混ざって裸の少女が横たわっていた。下着類も含め全てが剥ぎ取られており、生まれたままの姿そのものだった。
詩乃は近くへ寄るとしゃがんで彼女を揺さぶる。
「おい、大丈夫か?おいッ!!」
「誰…?嫌だッ、死にたくないッ!!ごめんなさいッ、ごめんなさいッ!!ちゃんと言う事聞きますから!良い子にしますから!!止めて下さいッ!!」
少女は途端に取り乱すと詩乃は少し強引だが彼女を落ち着かせた。
「落ち着け!大丈夫…私は怪しい者じゃないよ。キミも生贄とか何とか言われて閉じ込められたのか?」
「私は…違います…私は孕巫女です…。」
「孕巫女…?」
詩乃は首を傾げると少女は小さく頷いた。
「…祭の中に有るのです、生贄とは別で村の少女の純潔を奪う儀式が。選ばれた者が傀儡様へ処女の血を捧げるんです…その後はひたすらに男達に慰め物にされる。祭の終わる晩までずっとずっと……そして誰の子かも解らない子を産まされるのです。私は幸いにも純潔を奪われただけですのでそこから先はまだ何も……。」
少女が語ると詩乃は彼女を抱き締める。
背中を摩りながら様子を見ていた。
「…怖かったろう、痛かったろう。大丈夫だ…この程度なら私でも治せる。それと服を着た方が良い。何か有った時に困るだろうしね。」
詩乃は学生服を1枚脱ぐと彼女へ羽織らせる。
そして少女の下腹部へ手を翳すと一瞬だがそこが光った。
「…これで治療は終わったよ。キミの名前は?」
「千代と言います…
「千代…か、私は詩乃。今は此処から逃げる方法を探さないとな…何か知ってるかい?」
「……私も何度か試したのですがダメでした。このままだと私達2人は…!」
千代が俯くと詩乃は彼女を抱き寄せた。
だが、時間が無いのは間違いない。
自分の右手に刻まれた刻印がいつ切れるのかすら検討がつかないからだ。そして保護対象の3人もこの騒ぎに巻き込まれたのだと詩乃は半信半疑だがそう思っていた。
「…式神を投げて明日香に知らせるか。ちょっと失礼。」
腕乃はポーチから人型の紙を取り出すと窓へ向けて投げ付ける。格子の隙間をそれが通り抜けると何処かへ行ってしまった。
「あの…詩乃さんは何者なのですか?」
「…ヘマやらかした祓い師だ。オマケに変な印も付けられてる…これが全て消えたら発狂して死ぬ。傀儡様はどうやら死体でも食うなら構わないらしい。」
千代は詩乃の手をギュッと握り締めて懇願して来た。
「お願いしますッッ…傀儡様を…封じて下さいッ…!あんなのが有るから…皆おかしくなるんですッ!!」
「…本物を見た事が無いから解らないが、努力はする。それと探さなければならない人が居るからそう簡単にはこの村から離れられない。」
写真を取り出すと懐中電灯で照らして彼女へ見せる。すると片方の子を指さして呟いた。
「静香…様!?」
「知っているのか!?彼女を!」
千代はこくりと頷いた。
そしてこう続ける。
「明日の晩、彼女は傀儡様の生贄として…食べられます。此処の神社の当主である麗様の妹…!」
「なッ…!?実の妹を生贄にする気なのか!?正気じゃないッ!! 」
「麗様は…傀儡様を心の底から信仰している方。だから躊躇いも無いのでしょう。身内を生贄に捧げる事は最も神聖な事とされていますので。」
千代は目を逸らしながら呟いた。
詩乃もまた歯を食いしばってその話を聞いていた。
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「…理人、外が騒がしくねぇか?」
「確かに…もう鈴村さんが出て行ってから1時間以上経つけど大丈夫かな?」
「やられたとか…まさかな。」
一方その頃、理人と明日香は駅の中で待機していた。百華を連れて此処からは動けないからだ。
とは言え始発を待つのには時間が有り過ぎる。
すると1枚の人型の紙が入って来た。
「お?アイツの式神か…ん?何か書いてる。」
明日香が拾うと裏面には
逃げろと書かれていた。
「アイツ…逃げろだなんて……。」
「明日香、外!!」
そう理人が叫ぶと明日香は外を見た。
すると左右の草むらから赤い点が幾つもライトの様に点き始める。人らしき姿を確認すると彼らは何かをブツブツ呟きながら辺りを探し回っていた。
「おいおい…ヤバいんじゃねぇの?」
明日香がギリっと歯を食いしばった時。
「来る…アイツが…アイツが来る…ッ!!」
意識が戻った百華はガタガタと震えていた。
そしてサイレンの様な金切り音が鳴り響く。
すぐ傍の時計を見ると時刻は夜の19:00、時報かと思われたが違った。明日香は百華へ駆け寄ると何があったかを聞き出そうとする。しかし怖がっているだけでこれ以上は話せそうにない。
「よしよし…もう大丈夫…怖かったな。ほら、水飲んで落ち着きなよ。」
そう言って明日香が隣へ腰掛け、彼女の背中を撫でながらペットボトルを差し出した。受け取ると百華は水を飲む。そして話を始めた。
「化け物が…村の人が私達を探してる…私はアイツらに殺される…静香…ごめんね、助けられなくて…ごめんね…ッ!」
「静香…あの写真の子か!?」
明日香が聞き返すと理人が小さく頷いた。
つまりこの村は想像を超えたヤバい村という事は確かだった。化け物、生贄という単語が出て来る時点で充分解り切っているが。
「明日香、一先ず奥の部屋に行こう。何が有るか解らない。」
「あぁ、そうだな…歩けそうか?」
明日香が百華へ肩を貸してやり、駅の奥にある部屋へ向かう。今日は此処で一夜を明かすしか無い。
3人は部屋へ入ると荷物を置いて座り込んだ。
「鈴村さん……大丈夫かな…。」
理人は外を見ながら呟いた。
松明の灯りが動いているのをただ遠目にしか見る事が出来なかった。下手に動けば何があるか解らない、その恐怖を身を持って味わっていた。
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「…祓い師の女を手に入れました。後は明日の晩、お召し上がりください…我が妹も貴女様に差し上げますので……。」
麗はとある場所に居た。それは神社から離れた場所にある洞窟の中。その周囲はゴツゴツした岩が何個も転がっている。その奥にある祠へ向けて彼女は話しかけていたのだ。
「祭の最初の晩…村を訪れた3人の中で1人の若い男が無惨に死に…、そして若い女は印を刻まれたが逃げた…そして静香は大人しく待っている。貴女様が腹を立てているのは存じ上げております…外部の人間がこの村へ立ち入った事、祭の儀式を邪魔した事も本来なら許されぬ事…明日が祭の最後の晩です。必ず捕らえて貴女様に捧げると約束致しましょう……傀儡様。」
麗は両手を合わさて頭を下げる。
そして洞窟から出ると村人達が10人ばかり外に集まっていた。
「…何としても余所者達を探しなさい!傀儡様は我々に猶予をくださっている!!その事を忘れてはならない…!祭を穢した者達を、祭を穢そうとする輩共を許すなッ!!1人残らず捕らえて供物としてささげるのだ!!男は殺せ!女は生贄として捧げよ!!」
麗が鼓舞すると村人は叫んだ。
人里離れ、現代社会と孤立したこの村に松明の灯りと太鼓を鳴らす音だけが村中に響き渡った。
詩乃へ刻まれた刻印が消えるのは明日の晩
百華へ刻まれた刻印が消えるのは明日の夕方。
祓い師としての最大の危機が詩乃へと襲い掛かっていた。
(続く)
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