5話_魅入ラレシ少女
「先ず最初に教えるのは銃術。基礎中な基礎だからしっかり頭に叩き込んでおく事!」
詩乃は人気の無い裏山に居た。学校の裏手にある場所で、詩乃が稀に利用する場所でもある。
彼女が教えているのは赤髪の少女、奏多明日香。
最近祓い師となったのだがまだまだ未熟。
朱里から話を聞いたのと予想外な所で自分の読みが的中した為、最初は躊躇ったが止むを得ず教える事になった。
「ジュージュツぅ?何だよそれ。柔道の事か?」
「違う、言ってしまえば射撃だよ。」
「そんなモノ無くてもバットで直接ぶん殴れば早いじゃんか。」
明日香がそう話すと詩乃は頭を抱えて溜め息をついた。その顔は呆れている。
「あのなぁ…キミは手当り次第、近寄って怪異や霊をバットで殴り続ける気か?」
「へ?ダメなのか?」
「ダメに決まってるだろ…取り憑いた状態の人間を何の判断もせずフルスイングで殴ったらその人もケガをするんだぞ?」
「でも、撃つのもどうかと思うけど?」
「ちっちっちっ…違うんだなぁ、これが。銃術に使用する弾の材料は火薬では無くて塩。取り憑いた状態の人間なら此奴で充分。怪異に対して使えば牽制の他に体組織を破壊出来るのさ。」
詩乃は
「マジの塩じゃん…こんなのあたしに出来んの?てか変身?無しで武器出せるのかよ……。」
「私の場合は数珠、コレを使ってる。キミにあげたそれは特殊なタイプでね。名付けて霊怪異退治用小型時計装着式01型さ!」
ニコッと詩乃が微笑んで見せる。明日香は、ふぅんと頷きながら左手を見ていた。
「話はそれだが、キミには銃術を会得してもらう。先ずは簡単な動作から…右手の人差し指を伸ばし、親指も同じ様に伸ばす。まぁ銃の形だね。」
「……こうか?」
明日香は言われた通りにやってみる。
不思議そうに自分の右手を見ていた。
「それで呪文を唱える。私の場合はツィオーネ、キミの場合は
「解った、
左手の時計のリューズを押し込むと明日香を光が包み込む。そして左右の手に黒い指ぬきグローブが現れた。コレは昨日の時点では無かった物。
「ん?何か増えてる?」
「そういうの好きそうだから、あの後借りた時にコッソリ弄っといたよ。ほらやってみて!」
明日香は頷くと詩乃から言われた通りに銃の形に指先を正面へ向ける。
「よーし…
明日香がそう叫ぶと右手にバチバチと何かが構成されていく。しかしそれは途中で止まってしまうと無論、その何かも消える。
「…おい、何だよ?故障か?」
「いや…そんなハズは無いと思うけど?んー?」
詩乃は近寄ると明日香の嵌めている時計をジロジロ見つめる。そして納得すると彼女の手を離した。
「構成されない原因が解った…霊力不足、それが原因だよ。」
「霊力ぅ?今度は力の話かよ……。」
「祓い師は皆、霊力をエネルギーに変換する事が出来る。それを利用してあらゆる存在と戦うのさ。例えば相手の持っている私物からその人の念を辿ったり…銃から別の武器を切り替えたり…障壁を作って防御なんて事も出来る。」
「へぇ、便利なんだな。その霊力ってのは。」
「まぁね、兎に角…今は軽い銃術を教えとこう。その名も…!」
詩乃はすっと指先を同じ様に銃の形を取ると彼女の指先にエネルギーが収束する。
「……
そう呟き、クイッと指先を上げた。
その瞬間青白い光が一直線に放たれると的として置いていた空き缶を光が貫通した。当たった箇所には大きな穴が空いている。
「…コレには大した霊力を使わない。だからマスターすればコレも1つの武器になる。」
明日香へやって見ろと目で促すと明日香は同じ構えを取た。再び同じ様に構えた時、遠くから声を掛けられる。声の主は理人だった。
「鈴村さん、明日香!日向さんが呼んでる!」
「…練習は此処までだな。この辺は自由に使って良いから、先程教えた術は必ず会得する事。」
「解ったよ…やってみる。」
詩乃が理人の方へ返事をすると明日香と共に掛けて行く。合理してから3人で図書準備室へと向かうのだった。
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3人が図書準備室へ戻ると朱里が詩乃へ1枚の紙を差し出して来た。それを詩乃が受け取り、内容を確認する。
「なになに…名前は姫村美鈴、16歳。クラスは1年D組…成程、下級生か。」
「彼女、かなり特殊な体質で何度も変な事に遭遇してるそうよ。前は家でポルターガイストに襲われ…その前は帰りに誰かに追い掛けられ…その他色々有る。因みに昨日は金縛りにあったらしいわ。」
朱里の前に詩乃が腰掛けると話し合いが始まった。
これは普段の光景なのだが、今回は理人と明日香も居る。珍しいパターンだ。
「ほぅ…つまり、怪異のオンパレードって事か。それで肝心の本人は? 」
「待ってるわ、空き教室で。」
詩乃は納得した様子を見せると立ち上がり、菓子受けから棒付きの飴を数本持ち出す。それを制服のポケットへ入れるとスタスタと歩いて出て行ってしまった。その様子を見た明日香は不思議そうな顔をしている。
「良いのか?私行かなくて。」
「大丈夫。それより術の練習したら?何が起こるか解らないし。」
朱里が首を傾げ、明日香は少し考えてから頷くと外へと出て行く。それに付き合うと言い残して理人もまた出て行った。一方の朱里は準備室から出ると、ある本を探しに図書室へ向かうのだった。
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詩乃は待ち合わせ場所である教室へ入る。
そこに居たのは黒髪のツインテールの少女。
傍から見れば西洋人形の様なイメージがあった。
「こんにちは、姫村さん。」
「あ…どうも、初めまして…
美鈴は立ち上がると頭を下げる。
詩乃も自己紹介を済ませると椅子へ腰掛けた。
「…話は私の友達から聞いている、不思議な事が周りで頻発しているそうじゃないか。」
「はい。…あの、私大丈夫ですよね?何か変な事に巻き込まれてたりはしませんよね!?」
やや突っ掛かり気味に詩乃へ問い詰めて来る。
それに対し、詩乃はポケットへ手を突っ込むと彼女の顔の前に飴を突き出した。
「味はオレンジ…で良かったかな?先ずは落ち着きなよ。で、いつからそんな事に?心当たりは?」
「えっと…正確には1ヵ月前からです。コレを家に帰る時に拾ってから……。」
美鈴は飴を受け取ると、制服の内側のポケットから
代わりに赤色の綺麗な石を取り出した。
その色はまるで血の様に赤い。蛍光灯に当たると反射していた。
「……これは?」
「私もよく解らないんですけど…宝石かなぁって思って。」
「赤い石…でも、落し物を勝手に拾って自分の物にするのは良くないぞ?」
ピッと指さすと詩乃は赤い石を指先で摘んで持った。大きさは大体、百円玉位。それを四方からジロジロ見てみるが特に可笑しい箇所は無い。
暫く観察してからそれを彼女の前へ置いた。
「ありがとう、これ自体には特に変な所は見当たらなかったよ。急で悪いが…キミの家に泊まらせて貰っても良いかい?」
「え?本当に急ですね…お母さんに許可取らないと…。」
「すまないね。頼めるかな?」
美鈴は頷き、立ち上がると廊下へ出て行く。
それから少し経ってから直ぐ戻って来た。
「えっと…良いそうです。」
「解った。それじゃあ行こうか姫村さん。その前に私の荷物だけ回収させて貰えるかな?」
美鈴と共に廊下を出ると詩乃は一旦、図書準備室へ
戻る為に歩き出した。それから美鈴を図書室に待たせると自分だけは準備室へ入る。
棚から箱を取り出し中から御札を、それから別の箱を開けると人型に切られた紙をそれぞれ取り出すとポケットの中へ入れた。
再び箱を定位置に戻すと美鈴と合流し鍵を掛けてから図書室を後にする。
「あの…先輩は何者なんですか?大津先生が身の回りで困った事が有れば鈴村先輩に話せばいいって仰ってたので。」
「あー、それは話せば長くなるかな。相談事は今回みたいな例なら私が引き受ける。それ以外の相談は大津先生がやってくれるよ。」
詩乃は歩きながら棒付きの飴を取り出し、その包みを取ると口に咥えて舐めていた。
もう日が暮れており、辺りはすっかり真っ暗だ。
2人が歩いているとガタガタと奥から音が響く。
音がするのは理科室からだ。2人が今居るのは5階で図書室のあるフロアの下、つまり4階。
そこに理科室や化学実験室が有る。
「せ、先輩ッ!?」
「……大丈夫、怖かったら私の手を握ってて。」
詩乃は右手を右足の太腿にある青色のポーチへ宛てがう。
普段は制服の左ポケットに飴、右ポケットに式神と御札を入れているのだが緊急事態に備えてこのポーチにも同じ様に仕込んでいるのだ。
すると音の主がぬっと廊下へ顔を出す。それは白骨化した骨。つまり骨格標本だった。カタカタと鳴らしながら廊下へ全身ごと出て来ると此方と目が合う。
両目は真っ黒く落ち窪んでいるのが離れていても解った。
「理科室の動く骨格標本か…ベタな奴だな。さっさと退治させて貰うッ!!」
詩乃はポーチの蓋を開き、中から数枚の人型の紙を取り出すとそれを放った。宙へ舞ったそれは勢い良く骨格標本目掛けて飛んで行く。左足と右腕、それから頭部へ命中するとバラバラと音を立てて崩れた。所詮は骨、衝撃を加えればこの通りだ。
「…まだ居るッ!!」
骨格標本の次に出て来たのは半分人間、半分筋組織の人体模型。
それは理科室を飛び出すと2人の方へ走って来た。
美鈴は直視してしまい悲鳴を上げる。
「ひぃいッ!!?」
「直ぐ済ませるから目を閉じてて!この…ッ!!」
飛び上がった人体模型は詩乃へ拳を繰り出し、ストレートパンチを放つ。詩乃は美鈴を横へ突き放すと拳を右へ避ける。立て続けに繰り出された左手のパンチも、右足による蹴りも巧みに受け流して見せた。
「人体模型の癖に、動きは俊敏だな…っと!」
詩乃はニヤリと笑い、後ろへ飛び退く。距離を詰めようと再び走って来た人体模型に対し今度は御札を3枚取り出し、それを同じ要領で投げ付けると御札が貼り付き、バチバチと凄まじい電流を放った。そのままどさりと人体模型は両膝から前のめりに崩れ落ちる姿勢で倒れてしまった。
「……不用意なお触り厳禁。今度こそ大丈夫だよ。」
美鈴へ近寄ると彼女の手を握り締め、再び歩き出す。既に目の前で怪異が起きた事からやはり何かしらを呼び寄せるのは間違いない。
それを確信しつつ4階から3階と下って行くと何も起きず、2階から1階へ辿り着く。玄関にて靴を履き替えて外へ出ると校門を抜けて美鈴の家へと向かう。
「…その石は何処で拾ったんだ?」
「この先の通りです。確か…そこの路地を曲がった所に。」
2人は住宅街のある通りを歩きながら話していた。
美鈴が指をさした方向へ進むと詩乃は足を止める。
石を拾った場所はごく普通の一軒家の前。
「此処だな。しかし凄く嫌な気配がする…誰かに見られている様な……。」
美鈴の方をチラッと見るが本人は不思議そうな顔をしている。詩乃は自分達の後ろを振り向く。だが何も無く、有るのは一定距離に置かれた電柱と街灯だけ。後は左右に住宅街のブロック塀が有る位だ。
「気の所為…か。行こう、姫村さん。」
再び歩き出すと約15分程で美鈴の家に着いた。
彼女の家は何処にでも有る一軒家で2階建てで1階にリビングと両親の部屋、2階が彼女と弟の部屋が有る。詩乃と美鈴は玄関で靴を脱ぐと彼女に案内され、部屋へ通された。
室内は整頓されており、白く綺麗な壁紙と勉強机の他に女の子らしく、ぬいぐるみが幾つか棚に置かれている。
床の上に詩乃が腰掛け、荷物を置くと美鈴は四角いテーブルを用意し目の前に置いた。
「狭いですけど…大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、私の事は気にしなくて良いよ。普段どおりの生活をしてくれれば良い。」
「解りました、何か取ってきますね。」
美鈴は頷くと詩乃を残して部屋を出た。
詩乃は立ち上がると室内を見回し、怪しい箇所が無いか調べ始める。
机の引き出し、それから本棚、収納ケースの中。
更にはポスターの裏側。だがこれといって変な箇所は無い。
「…何も無しか。そうなると手の打ちようが無い。」
ふと窓から外を見てみる。彼女の部屋からは家の通りが僅かに見えるが、何か違和感を覚えた。
目を凝らすと家の前に誰か居るのが解る。
シルエット迄は解らないが細長く、白っぽい服を着ている様にも思えた。それはスーッと詩乃から見て右側の通りへ歩いて行った。
「……何だ?今の。」
「お待たせしました。先輩、お夕飯食べませんか?お母さんが是非って。」
「あぁ、ご馳走になろうかな。すまないね。」
戻って来た美鈴に呼ばれ、詩乃は1階へ。
リビングへ来るとテーブルには様々な料理が並べられている。自分より歳下の男の子が1人と美鈴本人。それから彼女の母親を入れて3人。
どうやら彼女の父親は残業で帰りが遅くなるらしく、先に食事を取る事となった。
詩乃は自分の事を美鈴の母から聞かれると何処にでも居る普通の先輩だと誤魔化して食事を続けていた。
それが終わると今度は再び美鈴の部屋へと戻る。
詩乃は床へ腰掛けると背中からベットの端へ寄り掛かった。
「それで…何か解りましたか?」
「いや、まだ何も。あ、そうそう…この辺にご近所さんとかは居るかい?」
「確か右隣は空き家で…左側は確かおじいちゃんとおばあちゃんが2人で住んでます。…何故それを?」
「…成程ね。ちょっと気になっただけさ。」
詩乃は立ち上がると美鈴へまた石を見せて欲しいと頼む。彼女もベットから身体を起こすと机の前へ行き、先程の赤い石を詩乃の手の平へ載せた。
「…少し借りるよ。あとカーテンは閉めといてね。」
詩乃は手を振ると石を持ったまま部屋の外へ。それから家の玄関へ来ると外へと出た。
スタスタと歩いて通りへ出るとあの気配が再び強まる。まるで氷の様に冷たい視線と殺気が背中へ向けられていた。
「……お探しの物はコレかい?」
詩乃は途中で立ち止まると振り向いた。
そこに居たのは白い服装に黒い髪の女。肌は色白で髪は腹部辺りまで伸ばしているのが解る。
大体年齢は20代位だろうか?容姿から判断出来るのはそれぐらい。靴は普通のスニーカーだった。
「返すよ、この石。元々は貴女が落とした石…それを彼処の家の子が拾った。それで返して欲しくて様々な怪現象を何度も引き起こした…そうだろう?一時的では有るが貴女はあの子に魅入ってしまい、彼女を幾度か危険に晒した……これは祓い師として見過ごす事は出来ない。」
詩乃はポケットから赤い石を取り出す。
ゆっくりと歩いて女性の前へ来ると石を差し出した。
「…この石から感じたのは強い想い。元々、この石はお母様の形見のブレスレットに付いていた物で何らかの弾みでそこから取れてしまった。私は貴女自信の事をこれ以上探ったりする気は無い。これを返すから大人しく成仏して欲しい。大丈夫…向こうは穏やかで心安らぐ場所だよ。」
詩乃は石を渡し、両手を合わせるとブツブツと何かを唱えた。すると白い服装の女性は詩乃の前から姿を消した。一安心かと思っていた矢先、鈴の音と共に1人の巫女服の様な物を纏った少女が詩乃から離れた位置に立っていた。
白髪に赤目。じっと詩乃を見つめている。
少女はゆっくりと口を開いた。
「お前…祓い師か。」
「……そうだと言ったらどうする?」
「…あの子は特異体質、お前が祓っても何れまたあの子を別の怪異が襲うだろう。引き寄せているのは…あの子自身なのだから。」
白髪の少女が詩乃を指さした。
詩乃は唇を少し噛み締める。
「ご忠告どうも…それでお話は終わりか?ならさっさと帰った方が良い。それがキミの為……ッ!?」
するといきなり目の前に現れた少女は詩乃へ鎌を振り下ろした。詩乃も咄嗟に刀を呼び出すとそれを防いで互いに睨み合う。
「おいッ…これは何の真似だ!?」
「…祓い師は不要、特異体質となれば話が違う。あの子は私が斬る。あれは私の獲物だッ!!」
「何が獲物だ…取り憑かれた人間を動物みたいにッッ!!」
振り払うと互いに離れて睨み合う。そうしていると2人を囲む様に黒い影が何体も姿を現す。
呻き声を上げながら、詩乃の後ろと少女の後ろを塞ぐ形で立っていた。
「…ほら、あの子に惹かれてやって来た。余程あの子を我がモノにしたいらしい。」
「一時休戦だ…同業なら同業らしく務めを果たせッ!!」
詩乃は右手に刀、左手に御札を持つと身構えた。
少女は長い鎌を回して下部を地面へ置くとシャンッと鈴の音が鳴り響いた。
「彼女…姫村美鈴は私が祓う。だからお前の出る幕は無いッ!!」
「ふん……後悔しても知らないぞ?何れは取り憑かれて殺されるのが彼女の運命…それに変わりは無いッ!!」
互いに走り出すと詩乃は空中へ飛び上がると札を投げ付ける。そして勾玉を取り出し大きく叫んだ
「神楽ッ!!」
呼び出された神楽は札へ何かを放つ。それは紫色に発光し、群がる影の中に命中すると大きく燃え上がった。
一方の白髪の少女は鎌を目の前へ突き出すと何かを唱える。そして鎌を右上から左下へ目掛け斜めに斬り裂き、左から横一線で斬り裂くとたった2回の攻撃で複数居た黒い影は消滅してしまった。
そしてお互いに影を全て消し去った後に再び向き直る。
「…これで邪魔者は消えた。今度こそッ!!」
「不味いッ…!!」
詩乃が振り向いた時、少女の持つ鎌が大きく振り下ろされる。
だがそれを神楽が左右の手の爪で防いで詩乃を庇った。
仮に反応が遅れれば自分の身体が裂けていただろう。振り払うと詩乃の方へ振り返った。
「…無事か?小娘。」
「すまない、助かった…!!」
「なッ…お前、怪異を封印しているのか!?成程…やはりお前が鈴村家の…ッッ!!」
少女が距離を取ると神楽が反撃し爪を伸ばし攻撃する。だがそれを鎌で器用に弾き、街灯の上へ着地すると白髪の少女は姿を消した。
「……何者なんだ、あの子は。服装も見た事が無い。」
「さてな…妾も知らぬ。」
神楽はぽつりと呟いて姿を消すと再び勾玉へと戻った。詩乃も美鈴の家へ戻るとベットの上でウトウトしていた彼女を横に寝かせる。
「……明日は2人で朝風呂だな、お休み。」
美鈴は小さくお休みなさいと呟くと眠りに着いた。
彼女が寝静まった事を確認し、詩乃は鞄から道具を取り出してテーブルの上で何かを作り始めた。そしてそれを約1時間半で完成させると彼女も眠りに着いたのだった。
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「ふぁあ……おはよ…。」
翌朝、詩乃は欠伸をしながら図書準備室へ来た。
既にいつものメンバーがそこに集まっている。
「おはよう…どうしたの、凄い眠そうだけど?」
朱里が心配そうに見つめて来ると詩乃は冷蔵庫からエナジードリンクを取りだして来た。
「んー…おはよう。すまないが寝不足気味なんだ、ちょっと色々有って……ふぁあ。解らないから泊まり込みで原因調査したら思わぬ所に原因が見つかって、寝たのが明け方3時……。」
「それはお疲れ様…。」
朱里は苦笑いしているのを他所に詩乃はエナジードリンクの蓋を開けて飲み始めた。
「なぁ、昨日お前らが話してた奴の怪異だったかユーレイは祓えたのか?」
「……正確に言えば祓えた。でも、無理だったよ。彼女の体質はそういう類を呼び寄せ易い性質らしくてね。幾ら祓ってもまた取り憑かれてしまう。そうなると
缶から口を離すと詩乃は一息ついてから更に話し出した。
「だから、彼女には御守りを持たせた。私特製のね。」
「鈴村さん特製の御守り?」
理人が首を傾げていると詩乃は鞄から赤い御守りを取り出して机の上へ置く。御守りには悪霊退散と書かれていた。
「…御守りって勝手に作って良いの?」
「それなら心配無い、私の家は由緒正しい家系だからね!」
右手の親指をグッと立てて彼女は微笑んだ。
「ええ!?鈴村さん家って神社なの!?」
「神社…というかそういう家系なのさ。変わってるけど。」
そんな話をしているといきなりドアが開けられる。
入って来たのは黒い髪を肩辺り迄に切り揃えた女の子だった。
「へ?理人…どうして此処に?それに…鈴村さんと奏多さん…日向さんも居る……!」
彼女は驚いた顔で詩乃達を見ていた。
そして詩乃、朱里、明日香の3人の視線は理人の方へ向けられる。
詩乃はニコニコしながら呟いた。
「約束、破ったな…櫻井君……?」
「ち、違う!僕じゃないって!!何で美穂が此処に居るんだよ!?」
理人が必死に弁解を続けていると美穂は話を切り出して来た。
「理人、最近隠れて何してるんだろうって思って…それで跡付けてきたら此処に……ごめんッ、こんな事するのは違うと思ってたんだけど…やっぱり気になっちゃって……。」
両手を合わせて美穂が謝るものの、朱里と詩乃の視線は理人へ向けられたまま。するとツカツカと前に来ると明日香は美穂と張り合った。
「本当だよ全く!それにさっきから聞いてりゃ理人、理人って!此奴を名前で呼んで良いのはあたしだけだッ!」
「はぁ!?いきなり何よ、ピアスして髪まで真っ赤に染めちゃって…どう見ても校則違反じゃない!!ねぇ理人ッ!こんな子と一緒に居るの止めなよ!!理人もそのうちおかしくなるから!」
美穂は明日香を指さして理人を見ていた。
「言わせておけば好き勝手言いやがって…!此奴はあたしのカレシだ!文句あっか、優等生ッ!!」
「え……ねぇ、何でいつの間にそんな関係になってんの!?少し位私に相談してくれても良いじゃない!」
まさにこの場は修羅場。
何も悪い事をしていない筈の理人が疑われている。
理人が口を挟もうにもその隙間は無い。
見兼ねた詩乃が止めに入って来た。
「はい、ストップストップ!お母さんみたいな言い分する人と彼女っぽい不良の喧嘩はそこまで!全く…跡を付けられて此処を特定されるとは……感心するよ、志島さん。」
「鈴村さんは理人とどんな関係なの?説明して!」
今度は詩乃の方へ詰め寄ると詩乃はポケットから普段と同じく棒付きの飴を取り出して彼女の前へ差し出した。
「先ずはお近付きの印。ハッカはお好きかな?」
「食べられるけど…それより、此処で何を?」
美穂は飴を受け取ると包みを外して舐め始める。
「おサボり同好会だよ。訳あって此処に居る…櫻井君に色々教えて貰ってるのさ、勉強とかね。」
ふふんと鼻を鳴らすと机の上にあったエナジードリンクの缶を手に取ると1口飲んだ。だが美穂の疑いは晴れない。ぐるりと理人の方を向くとじーっと彼を見つめていた。
「……本当に?」
「ほ、ほ、本当!本当だってば!!」
何度もコクコク頷くと漸く納得したのか美穂は平静を取り戻した。
「じゃあ私も一緒に教えてあげる、理人だけじゃ大変そうだし。それなら良いでしょ?日向さんッ!」
振り向いた美穂は朱里の方へ微笑みかける。
いきなり話し掛けられた事から朱里は少し驚いていた。
「え?わ、私は…サボってる訳じゃ無いし……2人が良いなら良いんじゃないかしら?ねぇ?」
ニコッと彼女が微笑むと詩乃や明日香の顔が引き攣った。新たな仲間(?)として志島美穂が加わる事になったのだった。
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