第31話 解放される力
シュテルはその姿を目にしてニヤリと笑う。その笑みはどこか、楽しそうでありながら、何かに恐れていた。
「あなたが悪いのよ。私を本気で怒らせたから。この戦いが終わったら全てを聞くわ。容赦はしないから」
ミウはそう言ってシュテルに襲いかかった。
それを見ていたフィナムは言葉を失った、なんせ、フィナムさえも滅多に見ないミウの本気だからだ。そして、滅多に出ないからこそフィナムはシュテルの負けを確信する。それほどまでに強いのだ。
「……ここまでか……!」
「いえ!まだ負けてませんよ!」
フィナムが呟いた時、隣からそんな声が聞こえる。見ると、そこにはルビーがいた。そして、その隣にディープダークが座る。
「ディープ……どこに行ってたんだ?」
「いや、普通に寝坊ですよ」
「寝坊?珍しいね。そういえば、昨日シュテルとどこか行ってたよね?」
「え、ど、ど、どこにも行ってませんよ!」
フィナムの言葉を聞いてルビーが慌ててそう言う。そんなルビーにディープダークが言った。
「何慌ててんだよ。別に出かけただけだろ」
「そ、そうですね!アハハ……」
ルビーはそう言って笑う。フィナムはそんなルビーを見て何か隠してるなと思いながら、それを隠すのが下手すぎるルビーに軽く恐怖を覚えた。
しかし、フィナムも深入りはしない。どうせ聞いたところで教えてはくれないから。
「でも、なんでまだ負けてないと思うんだい?さすがの僕もこうなってしまえばミウに勝てない。サモンズを使っても数秒持てばいい方だぞ」
「そうかもしれないですね。でも、そうじゃないかもしれないですよ。勝ち負けは今こうして見えてるもので決まるわけじゃないですよ。強さの本質を理解し、もっと深淵に目を凝らせば、見えないものも見えるはずです」
ディープダークはそう言った。そして、シュテルの姿を見る。シュテルは強化されたミウを見てニヤリと笑っていた。
「……何が楽しいの?あなた、頭おかしいんじゃない?」
「ま、そうかもね。ただ、俺は
シュテルはそう言った。すると、ミウは無言で剣を振りかぶる。その剣は灼熱の炎がまとわりつき、溶岩がまとわりついているかのようになっていた。
「何でもよ!」
ミウはそう言って剣を勢いよく振り下ろす。すると、剣から灼熱の溶岩と高電圧の稲妻が放たれた。その2つはまるでシュテルを殺すためだけに作られたかのようにシュテルを襲う。
しかし、シュテルはその攻撃が放たれた瞬間に針を飛ばしていた。当然その針にはマーキングが着いた紙が付いている。シュテルはそのマーキングに素早く飛んだ。そうすることで攻撃を避けることが出来る。
「っ!?避けた!?」
ミウを含め、その場の誰もがそんな反応をした。そして、その中で一番驚いていたのはフィナムだ。なんせ、フィナムはあの攻撃を避け切れる自信が無いから。
「一体シュテルは何者なんだ……!?」
「僕も初めて知った時は驚きましたよ。しかも、そんな人がこのゲームを全然やらずに学校に来て真面目に勉強してるんですから」
「どういうことだい?」
「多分フィナムさんは知らないと思いますけど、シュテルは他のゲームで世界レベルのプレイヤーですよ。僕が知ってる中で言えば、建築をするゲームでは世界大会で5位、PvPは世界1位ですからね。しかも、ほとんどのゲームで世界1位から5位以内に入ってますよ。シュテルはゲームセンスが凄いんですよ」
「っ!?嘘だろ!?でも、シュテルはゲームが得意という訳では無いって言ってたぞ!」
「彼基準でですよ。よくいるじゃないですか。頭いいやつのテストの点数が馬鹿なヤツからしたらいい点なのに悪いって言うやつ。それですよ。ただ、シュテルの場合は天然だから悪意はないんですよ。テストの点だって、いつも僕より1点上ですからね」
「すごいわかりやすい例えだね……」
フィナムはディープダークの話を聞いて苦笑いをする。そして、シュテルの姿を見た。確かにシュテルはこんな危機的な状況にもかかわらず、冷静でかつ周りの状況を把握できている。
「確かに、トップランカーと言われても信じれそうだ」
「ま、このゲームが上手いかは知らないですけどね。ただ、シュテル自信が世界大会のインタビューで言ってたんですけど、戦うの好きらしいですね。だから、シュテルは
フィナムはその言葉を聞いて言葉を失う。そして、半分呆れる。今の話を聞いていたら、おそらくミウをこの状態にさせることなく倒せたのだろう。だが、この状態にミウはなった。おそらくシュテルが戦いたすぎてわざとこの状態にさせたのだろう。
「……はぁ、全く、何を考えているのやら」
「さぁ、分かりませんね。多分見えてる景色とかも違うんだと思いますよ。……いや、もしかしたら何も見えてないかもしれないですね。この戦いも遊びのようなもので、目隠しをして戦ってるとかかもしれません。因みにですけど、シュテルはeスポーツも優勝してますよ。あと、目隠し状態でもサバゲー出来るらしいですし、ゲーム内ではスコープ無しで2キロ先位までの距離ならヘッドショットを簡単に出来るって言ってましたよ」
「あ、それは嘘だね。それが出来たら化け物だもん」
「はい。嘘です。2キロ先じゃなくて3キロ先です」
「……化け物を通り越して、もう悪魔だね」
フィナムはシュテルの話を聞いて軽く恐怖を覚えた。そして、そこまで調べたディープダークにも鳥肌が立った。
「でも、このゲームはこれまでのゲームとは違う。それに、今のところミウの方が完全に優勢だ。シュテルはどうやって勝つつもりなんだ?」
フィナムはそう呟く。
「……ま、どこまで考えてるかは知らないですが、作戦は知ってますよ。とりあえず見ておいてください」
ディープダークはそう言ってシュテルを指さした。フィナムらその指の先を見る。しかし、特に何かしてるという訳でもない。
「何したの?」
「こっちみて笑ってたので指さしただけです」
「……」
フィナムはさらに呆れてしまった。そして、そんな呆れた表情でシュテルを見る。すると、シュテルは楽しそうに笑っていた。
(頑張れよ……シュテル)
フィナムは頭の中でそう念じた。
シュテルはミウの攻撃を見て少し考える。そして、右手を壁に触れさせ錬金術を発動する。
「っ!?させないわよ!」
ミウはそう言ってシュテルに向かって走り出そうとした。しかし、その時に錬金術によって自分の足が固められていたことを知る。そして、そのせいで一瞬だけ思考が止まる。そして、下を向いた。
「上を向いた方がいいぞ」
シュテルはそう言って魔力を流す。すると、地面が錬成され長方形の形に隆起しミウの顎にアッパーを食らわす。ミウはその勢いで体が宙に浮く。そして、ひっくり返るように後ろに倒れた。その時に持っていた武器を全て落としてしまう。
それを見たシュテルはミウの頭に向けてかかと落としをする。しかし、それはギリギリで避けられた。そして、シュテルに向かって近接戦闘をする。
右ストレート、左のアッパー、右足、左足、攻撃できる全てのことを利用したが攻撃が当たらない。
「あぁもう!ウザったいわね!」
ミウはそう言うと、地面を殴り付け地面を溶岩のように変えてしまった。
「ハハッ!面白いね」
シュテルはそう呟くと、ミウの背後を取りに行く。しかし、中々取れない。ミウは向かってくるシュテルから常に距離を取り、攻撃を全て防いだ。
「クッ……!なんでこっちの攻撃が当たらないの……!?」
「何でだろうな。もしかしたら、お前がまだ本気じゃないからかもしれないよ」
シュテルは悪魔のような笑みを浮かべてそう言う。すると、ミウはドキッとしたような顔をしてシュテルを見た。
「図星だな。まだ本気を出してないか……お前、尾の事舐めてるだろ?俺みたいなやつは手を抜いても勝てるって、自分の力を過信してたんだろ?だからいつも兄に負けるんだよ。心の奥底では手を抜いていても勝てるって思ってるから。そして、手を抜いているからこそ負けた後嫌な気持ちだけが残る。あの時本気を出していればって言う後悔だけが残る。そうだろ?」
シュテルは戦いながらミウにそういった。ミウはその言葉を聞いて少しだけ動揺してしまい体が硬直する。
その隙にシュテルはミウの体を蹴り飛ばした。
「キャッ!」
ミウは蹴り飛ばされ壁に背中を強く打つ。そして、立ち上がろうとすると、目の前にシュテルがいることに気がついた。
「っ!?」
「もう終わりだね。どうやら俺は手を抜いてもお前に勝てたようだ。俺の得意な魔法もたった1回しか使わなかったしね。新しい技とか作ったり、新しい武器を手に入れたり、備えはしたけど無駄だったみたいだ。これが、三帝王の実力って思うと反吐が出るよ。勝負にずっと手を抜いて、本気を出せって言葉も無視して、人としてどうかと思うよ」
「う……!そ、そんなに言わなくても……」
「いいや言うね。だって、この勝負を仕掛けたのお前だよ?だったら当然俺は本気で戦いに来るよ。でも、お前は手を抜いた。分からなくもないよ。俺がビギナーだから。でも、お前は本気で潰すといいながら手を抜くし、今こうしてやられそうになっても手を抜く。だからだな。どうやらお前はこのゲームでも2番なようだな」
「っ!?」
シュテルのその言葉はミウの胸に深く突き刺さった。シュテルはそんな表情をするミウを見て、少し距離を置き言った。
「チャンスをやる。ここで諦めて降参するか、諦めず本気を出して戦うか……。どうする?ビギナーにチャンスを貰って恥ずかしいかもしれないが、選んでいいよ。弱虫の腰抜けちゃん」
シュテルがそういった時、遂にミウが立ち上がった。そして、プルプル震えながら言ってくる。
「分かったわよ……。本気を出してあげるわ。私も怖くてずっと使って無かったけど、どうなっても知らないわよ」
「安心しろ。俺はまだ力の1割も出していない」
シュテルがそういった時、ミウが剣を拾いに歩き始める。そして、剣を拾うと胸の前に置いて呪文を唱えた。
「”……開け。我が心に刻まれし力の源よ。
その刹那、ミウの体が赤い光に包まれた。そして、灼熱の炎に囲まれていく。その炎の中から現れたのは、とてつもない魔力を暴走させるミウだった。
ダークサイドゲーム 五三竜 @Komiryu5353
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