第30話 全力では無い戦い
「逃げずに来て偉いわ」
シュテルが入場するなりミウがそう言った。どうやらミウは先に来ていたようだ。なんという速さだろう。さっきまではシュテルの部屋にいたのに。
「……まぁ、さっき会ってるから分かってたと思ってたけど……」
シュテルは自然とそんな言葉が漏れる。もしかしたら煽りに聞こえたかもしれないが、シュテルはそうは思っていない。本当に自然とそう口にしたのだ。
「フンッ!良いわよ!なんとでも言って!でも、すぐにそんな減らず口を叩けなくさせてあげるわ!」
ミウはそんなことを言ってそっぽを向いた。そして、審判に言う。
「早く始めなさい」
「わ、分かりました!ではでは!これより、あの三帝王の1人であるミウ様と、ダークホースかはたまたただの無謀か!?謎の男、シュテル!2人の戦いを始めます!それでは……
その刹那、ミウの姿が消えた。その場にいた者のほとんどがその姿を捉えることが出来なかっただろう。なんと、ミウはたった一瞬……瞬きすらも出来ないくらいの一瞬でシュテルとの距離を詰め攻撃してきた。
シュテルはその攻撃を見て一瞬避けるような素振りを見せる。しかし、全く焦っているような様子を見せることなく立ち止まった。そして、ミウはそれを見て剣を抜き切り裂く。すると、シュテルは何も防ぐことなく右肩から左脇腹にかけて切り裂かれてしまった。
「「「っ!?」」」
会場の人は皆その様子を見て言葉を失った。なんせ、シュテルが何もせずに切られたからだ。その様子はまるで、何も出来ずに開幕早々やられた人みたいだ。
だが、そんなのでミウは止まらなかった。確実に勝利したと分かるくらいまで攻撃を繰り出す。そして、シュテルはその攻撃を全て食らった。
会場の人達はその何も出来ずに飛ばされ動かなくなるシュテルを見て呆気に取られる。そして、1人が言った。
「んだよ!弱ぇじゃねぇか!」
その言葉はトリガーとなりその会場にいた人のほとんどが暴言を吐きまくる。中には物を投げる人もいた。ミウはそんな会場のことは全く気にせずシュテルの姿を見る。そして、一瞬で全てを理解した。そして、何とか集中して耳を澄ます。しかし、会場にいる人達の声で音が全く聞き取れない。
「1つ教えてやる。こういうPvPでは自分の状況を常に把握し戦力差を理解した方が強いんだよ」
シュテルのそんな声と共に、強烈なパンチがミウの腹部に炸裂した。さらに、ミウの顔にも強烈なパンチが御見舞される。そのせいでミウはかなり遠くまで飛ばされてしまった。
「キャッ!」
ミウはすぐに立ち上がって頬をさする。
「はぁ……はぁ……」
既に荒い呼吸を上げているミウは、目を細くしてシュテルを睨んだ。
「睨んだところで何も変わらない。ちゃんと状況を把握するべきだよ」
シュテルはミウにそう言う。しかし、ミウはシュテルが今何をしたのか理解ができない。体を全力で切り刻んだはずが、何故か無傷で背後に立っていたのだ。どんな技を使ったのかすらも分からない。
「フッ、今俺が何をしたのかも分からないようだな。だが、教える訳には行かない。これは戦いなんだから」
シュテルはそう言って走り出した。そして、ミウとの距離を詰めていく。しかし、ミウはすぐに距離を置いて手を前に突き出し唱える。
「”オーバーフレイム”」
すると、ミウの手のひらから灼熱の炎が放たれた。
「どんな技を使ったかは知らないけど、広範囲で大火力の魔法で焼き尽くせば小細工もできないでしょ!」
ミウは魔法を放ちながらそう叫ぶ。そして、その大火力の魔法は躊躇なくシュテルを襲う。
「まぁ、そう来るよな。”
シュテルはそう言って地面に手を付き地面に錬金術をかける。すると、地面は連載され巨大な壁ができた。その壁はシュテルを灼熱の炎から守る。
「っ!?」
ミウはその姿を見て再び言葉を失う。
「そんな驚かなくて良いよ」
「そう言われたって……初めてよ。こんなに私の技が通用しない人は。でも、まだウォーミングアップにもなってないわ」
ミウはそう言うと再び剣を構える。そして、またもやミウの姿が消えた。そして、シュテルの背後に姿を現す。
「……」
しかし、シュテルはその光景を目にして少し戸惑った。なんせ、ミウが3人いるのだから。恐らく高速移動しているから残像を残して分身しているのだろう。ミウはその分身で相手を惑わし攻撃しているのだ。
しかし、シュテルは全く慌てない。その分身一つ一つをよく見て対処する。攻撃は全てよけ、少し危ない攻撃は蹴って弾く。そうして全ての攻撃を防いだ。
「クッ……!なんでこんなに当たらないのよ……!」
「さぁな。もっと正確に狙ったらどうだ?」
「っ!?生意気ね!」
ミウはそう言って1度距離を置くと、再び魔法を唱える。
「”ライジングブレード”!」
そう唱えた瞬間、ミウの剣に雷が落ちた。そして、雷をまとった剣が出来上がる。シュテルはそれを見てこの戦いで初めて剣を抜いた。
「少しは本気を出す気になったか?」
「フン!あなたにはこのくらいが丁度いいわ!」
ミウはそう言ってその剣を振りかぶる。そして、一気に振り下ろした。
「”ライジングウェーブ”」
その刹那、シュテルに向けて雷の波が放たれる。そしてそれは、シュテルを容赦なく襲う。
シュテルはそれを見て少し悩むが、すぐに距離を置いてバッグに手を突っ込む。そして、銅を取りだした。
「何する気?」
「まぁ、これが一番だよな」
シュテルはそう言って錬金術を発動しその銅の形を変える。そして、その銅を使い避雷針を作り出した。シュテルはその避雷針を地面に突き刺す。すると、シュテルに向かってきていた雷が全てその銅に吸収された。
「っ!?嘘!?」
「あーあ、残念。本気出さないからだよ」
「あなた……言うわね。でも、あんたなんかに本気出す必要は……っ!?」
その刹那、シュテルの姿が消える。そして、ミウの目の前に現れた。ミウはその事に驚き戸惑う。そのせいで筋肉が硬直し動かなくなる。
「誰かに言われなかったのか?本気を出さないと負けるって」
シュテルはそう言ってミウの腹を殴る。
「うぉぇ……!?」
腹を殴られたミウが変な声を出してよろめいた。その隙にシュテルはミウの顔や腕、胸、腹、足、ほとんどのところを殴ったり蹴ったりする。
右ストレートからの肘打ち、そして、流れるように回し蹴りを繰り出し、蹴り飛ばされ倒れているミウの腹に上からかかと落としを食らわせる。
こんな連撃を何度も何度も繰り出す。しかし、ミウの体力は思ったより多いし、ミウの防御力は思ったより高く、中々削れない。……というより、シュテルはわざと削らない。なんせ、見たいものはミウの本気だから。
「ほらほらー!本気出さないと負けるよ!お前ご手を抜くんだったら俺も手を抜くよ!」
シュテルはそう言って何度も攻撃を繰り出す。このゲームでは痛みこそないものの、その他の感覚はある。それに、殴られれば跡がつく。ミウは何度も蹴られ殴られながら反撃しようとする。しかし、出来ない。
「お前、相手がビギナーだから手を抜いてんの!?それとも煽ってんの!?なぁ、こっちだって本気出しづらいんだよ!お前みたいに、本気を出しとけば勝てたっていう言い訳がつかないからさ!」
シュテルはそう言って右のストレートをミウの腹に向けて伸ばした。しかし、ミウはそれを避ける。しかし、シュテルはそこから側転をした。そして、その回転を利用してミウの頭にかかと落としを決める。
「っ!?クッ……!」
「どう?地面に這い蹲る気は?お前、相手が俺だから手を抜いてんだろ?なぁ、相手が兄貴だったら手を抜いたのか?」
シュテルはミウの髪の毛を鷲掴みにして持ち上げると、そう聞いた。すると、ミウは驚いたような顔をする。
「……やっぱりな。だったら俺も辞めてやる。俺は、シュテルとして戦おうと思ったが、どうやらそれではお前は本気を出さないらしい。さぁ、ミウよ!全ての物事の深淵に目を向けろ!負けたくないならこの俺を……兄貴である俺を倒してみろ」
「っ!?嘘……!?お兄……ちゃん!?」
「あぁ、そうだ。さぁ、戦おう。来いよ。俺はシュテルとしてではなく、お前の兄としてお前を全力で潰す」
シュテルはそう言ってミウを話すと、少し距離を取って構えた。ミウは最初は衝撃を受けていたが、相手がシュテルではなく魁斗だと分かった途端、殺気に満ちた顔でシュテルに襲いかかってきた。
「嘘よ!ふざけないでよ!そんな嘘をつくなんて、絶対に殺してやるわよ!」
「アハハハハハ!そうだ!その意気だ!だが俺は嘘をついてない!この強さを見ればわかるだろ!俺はお前より強い!何をしてもな!」
シュテルはそう言って向かってきたミウにカウンターを食らわす。
「ウォェ……!」
カウンターで腹部を蹴られたミウは2、3回バウンドして壁にぶつかり止まる。
「ゲホッ……!ゲホッ……!」
「ミウ。俺は言ったはずだ。全力で俺を倒しに来いと。俺は最初負けてやるつもりだったが、お前が全力で来ると分かって負ける気はしなくなった。お前も全力でこい」
シュテルはそう言って構える。ミウはそんなシュテルを涙目で見ながら立ち上がると、殺気に満ちた目でシュテルを睨む。そして言った。
「そう……じゃあ本気でやるわ。後悔しても知らないわよ」
ミウはそう言って武器を2つ取り出す。そして、唱えた。
「”
その時、ミウの体がヴァルキリーのような華やかで美しい美少女になった。そして、さっきまでとオーラが変わった。
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