第26話 現実の協力者

 魁斗の言葉を受けた真面目くんは魁斗の目を真っ直ぐ見つめる。その目には強い信念と、暗い怨念がこもっていた。そして、魁斗はそこで理解する。この真面目くんにも何かあるのだと。


「分かった。俺が知ってる全てを教えてやろう」


「いや、今じゃなくていい。今日は1時限目で帰ろう。どうせその後自習だ。そこで話してくれ」


 真面目くんがそう言うと、魁斗は頷いた。


「良いよ。真面目くんがそう言うならそうしてやるよ」


 魁斗はそういう。その時、突然真面目くんが怒り出した。


「おい!真面目くんって言うな!僕の名前は真海しんかい面影おもかげだ!」


「え?お前の名前って真面目じゃなかったのか?全員そう言ってたから知らなかったんだけど」


「……最初の自己紹介で名前を言っただろ?」


「いや、お前は最初の自己紹介の日に休んでいるはずだろ?」


「……悪い」


 2人はそんな会話をして椅子に着席をする。そして、無言で黒板を見た。その場にはさっきとは違った意味で重たい空気が流れ込んできた。


「……とりあえず、今日の帰りに僕の家に来てくれ」


「分かった」


 2人がそういうと、先生が扉を開けて入ってくる。


「ちわーっす……て、今日もお前ら2人だけか……。ったく、全員ゲームばっかして何が楽しいんかね?お前らはやらないのか?」


「僕はやりませんよ。嫌いですから」


「俺はやってますよ。ただ、他の人とはやる目的は違いますけど」


「どういうことだ?」


「言えませんね。それは」


「先生、それは干渉したらいけない領域ですよ」


 2人は微笑みながらそんなことを言う。その言葉を聞いて先生は不思議そうな顔をする。しかし、先生は生徒の気を配ることができる人だ。これ以上聞いてくることは無かった。


 そして、先生はホームルームを初めてその流れで授業を開始する。


「え〜でな、斜方投射の公式がこうでな、水平投射の公式がこうだ。この公式はな、1年生で習った等加速度直線運動の公式と考え方は同じだ。だから、この公式でこの問題は解ける」


 先生はそう言って物理の公式を見せてきた。そして、テキストに載っている問題を解いていく。その時、先生が突然話しかけてきた。


「なぁ、お前達はこんな話聞いたことあるか?都市伝説みたいになってんだけどさ、例のあのゲームで今奇妙な事件が起きてるらしいんだよ。なんでも、ログアウトが出来なくなるとか何とか。ホント怖いよな。お前らなんか知ってるか?」


「知らないですね。そんな話は聞いたことがありません」


「俺もないですね。俺は少しやってたんですけど、聞いてないですね」


「そうか……俺は嫁さんがあのゲームやってるから心配なんだよな。もし今度何かあったら教えてくれよ」


 先生はそんなことを言う。その時、面影が先生に問いかけた。


「先生はなぜあのゲームをやらないのですか?」


「……なんでだろうな。最初嫁さんに教えて貰って誘われたんだけどな、どうしても嫌な気がしてやる気が起きないんだよ。でも、もし嫁さんに何かあったら直ぐにやると思うけどな」


 先生はそう言って笑う。2人はその言葉を聞いて少し微笑んだ。そして、面影はあのゲームに対しての嫌悪感を、そして魁斗はあのゲームに対してではなく、自分に対して責任の重さを教えこんだ。


「……?どうしたんだ?2人とも。それに、特に魁斗。お前、何か嫌なことでもあったのか?」


 先生は魁斗の顔を見てそんなことを聞いてくる。それに対し魁斗は言った。


「責任を感じただけですよ」


「責任?なんだか分かんないが、何かあったら直ぐに相談しろよ」


「……えぇ、分かってますよ。先生も、奥様のことで何かあったら直ぐに言ってください」


「ん?お、あ、あぁ、分かった」


 先生は魁斗の言葉を聞いて少し戸惑いながらそう答える。その時、授業が終わるチャイムがなった。そして、そこで授業が終了する。


「お前らは今日も残るのか?」


「いえ、帰ります。少し野暮用が出来たので」


「そうか、魁斗、お前もか?」


「そうですね。俺もやるべきことは沢山あるので、帰ります」


 2人はそう言って荷物をまとめカバンを持つ。そして、2人で昇降口まで向かい、そのまま帰宅する。先生はそんな2人を職員室に戻りながら見送った。


 魁斗と面影は同じ方向を進む。なんせ、魁斗は今面影の家に向かっているのだから。だが、それ以上に最もらしい理由がある。


「着いたよ。ここが僕の家だ」


 そんなことを考えていると、面影がそう言って立ち止まった。そして、面影の向く方向を見ると、周りの家と余り変わらない家がそこにある。魁斗はその家の中にお邪魔させて貰った。


「お邪魔します」


 魁斗がそう言って家の中に入ると、面影は自分の部屋まで魁斗を案内する。そして、魁斗は面影の部屋に入った。部屋に入ってまず最初に目に飛び込んできたのは、ARゴーグルだった。魁斗はそのゴーグルを見て、直ぐに自分のものと似たところがあると理解する。そんなことを思っていると、面影が話しかけてきた。


「黒星くん。君はさっき、ダークサイドゲーム着いて知っていると言ったね?詳しく聞かせていただけないかな?」


「良いけど……その前に少し家にあるものを取りに戻って良いかな?多分そうした方が話が早く進みそうだ」


「ダメだね。君の家からどれだけ離れているか分からない。時間は有限なんだ。直ぐに話が聞きたい」


「どれだけ離れてるかって……俺の家この家の斜め前だぞ」


 魁斗は半分呆れながら言った。そう、魁斗が面影と一緒の方向に歩く最もらしい理由というのは、魁斗の家は面影の家の斜め前なのだ。


「……嘘は良くないぞ」


「はぁ、嘘をつく必要があるのか?表札に黒星って書いてあるだろ?」


 魁斗がそう言うと、双眼鏡を使い魁斗の家の表札を確認する。そして、表札に黒星と書いてあることが分かり、言ってきた。


「悪かったな。なにか取りに行くなら早く行ってきてくれ」


「分かった。少し待っててくれ」


 魁斗はそう言って1度家から出る。そして、自分の家へと戻り自分の部屋へと向かった。魁斗は自室へと戻ると机の上にあるARゴーグルを手に取る。そして、VRゴーグルも手に取り再び面影の家へと向かった。


 魁斗が面影の家へと入ると、面影が再び玄関の前で待っていた。そして、もう一度面影に連れられ部屋へと向かう。そして、部屋の中に入るなり魁斗はARゴーグルを取りだし言った。


「このARゴーグル、貰って良いか?俺が作っていたやつとほとんど同じだ。おそらく、この2つを合わせれば完成する」


「別に良いよ。僕も、完成までのパーツが足りなくて困ってたからね。でも、それを完成させてどうするつもりだい?僕の目的とは違うんだろ?」


「俺のゲームの中にいるナビゲートピクシーをこっちの世界に連れてくる。そしたら、向こうとこっちの情報を容易くてにいれられるだろ?」


「なるほどな。さすが僕よりいつも1点だけテストの点が高いだけはある」


「いやあれ、俺が満点でお前がその1点下だからだろ。てか、その話は後にしようぜ。今はこのゴーグルを完成させることが先決だ」


「僕と君の技術と頭があればすぐに出来るさ」


 面影はフラグみたいなことを言う。しかし、魁斗も面影もそのフラグをへし折るのは得意だ。そう思いながらゴーグルを作成し、わずか10分で完成させた。


「よし、これで完成した。起動しよう」


 魁斗はそう言って右目に装着し起動する。このARゴーグルは両目ではなく片目に装着するタイプだから、小さくコンパクトに出来た。それ故に、片目は現実世界なのだ。


「……よし、起動はできる。あとは、このVRゴーグルのデータをこっちとも共有すれば良い」


「それはもう完了した」


「良くやった。よし、これでルビーをこっちの世界に連れてこれる」


 魁斗がそう言って色々といじくると、ルビーが魁斗の肩の上に現れた。


「っ!?あれ!?ここはどこですか!?」


「ルビー、落ち着け」


「シュテル様!?あれ!?いつもと服装が違う!?」


「当たり前だろ。ここはリアルの世界だ」


「っ!?」


「面影、そっちも見えてるか?」


 魁斗がそう言った。すると、面影もARゴーグルを装着する。このゴーグルは、魁斗も面影も元々大きい1つのサイズのものを2つにしてるから、余ったもう片方だ。


「あぁ、見えている。じゃあ、君が知っていることを教えてくれ」


 面影はそういった。魁斗はその言葉を聞いてゆっくりと話し始めた。

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