第25話 現実世界で……

「そう言えばだけど、なんで洞窟に入ったんだい?1人では危ないだろ」


「さっきも言っただろ?入る以外に道はなかった。あの時……俺が洞窟を見つけた時俺はその場から逃げようとした。すると、男が現れて俺に向かって攻撃をしてきた。その時は1回しか攻撃されなかったが、その後俺は洞窟から大体半径200メートル位の範囲で閉じ込められてな、逃げられなくなった」


「っ!?まさか、そんなことが出来るのか!?」


「分からない。だが、結界のようなもので閉じ込められた。破壊しようかとも思ったが、あの男と戦うより洞窟に入った方が安全と考えた」


 シュテルはそう言った。その言葉を受けてフィナムは言う。


「その考えは正しかったな。あの男、再生能力と透過能力を持っていた。まだなんの能力を持っているのか分からない」


「まだあるよ。ロケーション能力と転移能力、高速移動能力に剣術能力だ。おそらくあの感じだと魔法は使えない」


「っ!?確かに、この家に一瞬で入ってきたからな。転移能力はあるかもしれない。それに、高速移動能力……君のあの速さについて行ったのだからな。かなりの速さなはずだ」


「当たり前だ。あの技は八咫烏の光の力を使い、神速を超えた。その速さに付いていってたのだからな。正しく化け物だよ」


 シュテルはそう言って立ち上がると、キッチンに向かい紅茶を入れる。そして、その紅茶を持ってきて飲むと、疲れた声で言った。


「強くなろうと思ってはいたけどさ、こんな戦い続けてたらダメだよな。それに、あの技使ったあと魔法が全く使えん。どうしてだ?」


「ハハ……こんな戦いがダメなのは同感だな。あと、あの技を使うと強大な魔力で魔力回路が焼き付くんだよ。それで魔力が流せなくなって魔法が使えなくなるんだ」


「流せないのか?」


「流すことは出来るが、激痛がするはずだよ」


 シュテルはその言葉を聞いて少し考え込むと、ため息をひとつ着いて言った。


「じゃあ、今日はもうログアウトするかな。ここにいても何も出来ないし」


 シュテルはそう言って部屋に戻ろうとする。すると、フィナムは言った。


「そうだ、もしかしたら現実でも何か関係してるかもしれない。そっちでも調べてくれないか?」


「了解」


 そして、シュテルは自室へと戻りベッドに横たわる。


「……はぁ、”ログアウト”」


 そして、シュテルの意識が現実へと引き戻された。


「……リアルか……」


 シュテルは目を覚まして直ぐにゴーグルを外す。そして、少し体を起こすともう一度ベッドに横たわる。時間が深夜1時と言うだけあって、かなりの眠気に襲われた。だから、魁斗は直ぐに深い眠りについた。


 それから5時間後……魁斗は目を覚ました。そして、時計を見てゆっくりと学校へ行く準備を始める。そのためにまずリビングはと向かった。


 すると、あることに気がつく。リビングに誰かいるのだ。魁斗はその動く人影を見て立ち止まる。なんせ、その人影の正体に気がついたからだ。影の大きさ、そして体つきから理解した。


「……なんでいるんだろうな」


 魁斗はそう呟いてリビングへと入る。そして、その人影を無視して朝ごはんの準備をし、そして学校へ行く準備をする。しかし、その人影は話しかけてきた。


「あらおはよう。朝早いのね。朝ごはん美味しかったわ」


「あっそ、良かったね」


「ほらもう、そうやって私につんつんしちゃって、あのゲーム始めたんでしょ?美優から聞いたわよ」


「……始めたよ」


「ほらやっぱり!それなら学校なんか行かずに一緒にゲームやりましょうよ!始めるタイミングが遅くても、私達が手助けするから一緒のパーティを組みましょ!」


「……いや、俺はもうパーティ組んでるからいいよ」


「え〜、そんなこと言わずにさ〜、そのパーティメンバーとは別れて私達と……」


「止めてくれないかな!そういうの!俺から仲間と友達を奪わないでくれないかな!なぁ、母さん!」


 魁斗はそう叫んでバッグを持ち学校へと向かった。今話している間に全て準備を終わらせたのだ。


 母はそんな魁斗を見ながら少し心配をする。そして、ちょっとだけ罪悪感に飲まれながら自室へと戻っていく。


 今魁斗と話していたのは、既に言ってあるが魁斗の母だ。そして、家族がこのゲームにはまりこんだ原因を作ったのも母だ。あの日母がこのゲームを買わなければこんなことにはならなかった。


 しかし、母はそんなことは思っていない。だからこそこうして子供に料理を作らせゲームにのめり込んでいる。ましてや、息子の顔など覚えてはいまい。魁斗がシュテルとして母に出会おうともその正体が自分の息子だとバレることは無い。


 魁斗は朝から嫌な気分になりながら学校へ向かった。


 魁斗が学校に着くと、教室へと向かった。そして、いつも通り教室へと入る。そこにはいつもと同じ真面目くんだけが椅子に座っていた。


「……ねぇ、君はあのゲームをやってるのかい?」


 魁斗が教室に入るなり、その真面目くんが話しかけてきた。


「なんでそんなことを聞く?」


「少し気になったからだよ。僕の家族は皆あのゲームをやっている。いつも、どんな時でもあのゲームをやっている。それは他の皆も同じだ。世界中そうなっている。もう、リアルにいる人の方が少ない。だが、君はまだこっちの世界にいるし、まだこうして学校に来ている。授業をする訳でもない学校へと来ている。君はなぜ学校に来る?あのゲームをやらないのか?」


 真面目くんはそう聞いてきた。魁斗はその問いに対し、かなり深く考える。そして、言った。


「やってるよ。やってるけど、想像だけの世界に求めるものは少ないから。現実という俺達が生きていくべき世界から目を逸らした人達に、何も期待をしてないから。俺は、こうしてリアルで生きていく。この答えで満足か?」


「……あぁ、満足だよ。どうやら君は、強い意志を持っているらしい。僕はあのゲームをあまりしたことが無いが、少し調べさせてもらったんだ。『ダークサイドゲーム』……君はこの言葉を聞いたことがあるかい?」


「……どうしてそんなことを聞く?」


「僕はね、今のこの世界について疑問を持っているんだ。なんでこの世界はたった一つのゲームにあそこまで狂わされたのか?現実世界における学校や商業施設、娯楽施設の需要は無くなった。なぜたった一つのゲームにそこまでの影響力があったのか?僕はね、ずっとになってたんだよ。そして、調べていくうちにある都市伝説のようなサイトを見つけてね。そこに『ダークサイドゲーム』という言葉が書かれていた。ま、君が知らないなら用はないよ。聞かなかったことにしておいてくれ」


「……いや、知ってるよ。ダークサイドゲームを」


 魁斗はそう言った。そして、続けてこういう。


「俺は、全ての物事……いや、全ての存在には表と裏があると思っている。表から見ればただのイケメンでも、裏から見ればメイクしているだけかもしれない。表では優しい人でも、裏では誰かを殺しているかもしれない。表では楽しいことでも、裏では恐怖のことかもしれない。そう、どんなものにでも表と裏がある。それは、あのゲームだって例外じゃない」


 魁斗はそう言って真面目くんの顔を見た。そして、強い信念を持って言う。


「あのゲームの裏の顔、それがダークサイドゲームだ。君に、ダークサイドゲームをどうにかする覚悟はあるのか?あるのなら、どんな事でも話してやるよ」


 魁斗はそう言った。その場には、重苦しい空気が流れ込み2人を包み込んだ。

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