第24話 光に包まれし闇の星
「っ!?シュテル……その姿は……!?」
「これも、俺の技の中の1つ。お前も見たのなら分かるだろ?俺のステータスプレートにはサモンズしか書かれていなかった。だから、これがなんなのか分からなかった。だが、フィナムの魔法を見て可能性を感じた。なんでも召喚出来るのではないかと。そして、それは成功した。俺はこうして影や闇とは真反対の光の存在を召喚し自分の体に憑依させることが出来た。離れてろ。初めてだから手加減はできない」
シュテルがそう言った瞬間シュテルの体が眩い光を放ち出す。そして、姿が消えた。
「っ!?」
フィナムはその事を理解できない。まるでその瞬間だけ時が止まったかのように頭に入ってくる情報がすくなる。
しかし、そんな中でも一つだけ分かることがあった。それは、男の体にいくつもの傷ができていることだ。しかし、シュテルの存在を認識出来ないせいで勝手に男が自滅しているようにしか見えない。
「……シュテル……!」
「どうかしたか?」
その時、突如シュテルが現れた。そして、その後ろには男がいる。どうやってここまで来たのか分からないが男は満身創痍でシュテルの後ろにいる。
「っ!?シュテル!後ろ!」
「後ろ?あぁこいつか……。もう死んでるよ」
シュテルがそう言うと、男の体が塵となって消え始めた。そして、シュテルがトンっと男の体を押すと、霧散した。
「っ!?」
「終わったよ。これで、全てね……」
「”ショックスティンガー”!」
シュテルがそう言った瞬間、ルビーが魔法を唱えた。そして、シュテルの胸に雷の大きな針が突き刺さる。その刹那、シュテルの体が後ろに吹き飛ばされた。
「っ!?ルビー!何をするんだ!?」
「これで良いんです……これで」
ルビーがそう言ってふわふわとシュテルの元へと飛んでいく。ルビーはシュテルの横まで来ると、ゆっくりと回復魔法をかけて行く。
「……シュテル様……これで良いんですよね?あの時の目、あれは私にこうしろってことだったんですよね?」
ルビーはそう言ってシュテルの体の上に乗る。そして、胸の上に乗り脈を図る。どうやらこの世界では心臓の鼓動さえも再現されているらしい。シュテルの胸からは心臓が脈打つ音が聞こえた。
「……良かった……!」
ルビーはそう言って涙を流す。そして、シュテルの顔の上までフラフラと飛んでいき唇の上に立った。
「良かったです……!生きてて!」
そう言って唇に口を当てようとした時、突如体が起き上がり後ろに転げ落ちた。
「ふわっ!?」
ルビーはそう言ってシュテルの太ももの上に落ちる。そして、お尻で着地したからお尻を強く打ったみたいで、
「シュテル様!やっと起きてくれましたぁ!」
ルビーはそう言ってシュテルの体に抱きつこうとして突進する。シュテルはそんなルビーを見ながら優しい顔で微笑んで言った。
「心配かけて悪かったな」
「もぅ!ほんとそうですよ!」
ルビーはそう言って怒る。シュテルはそんなルビーを見ながら楽しそうに微笑んだ。
「おい、シュテル。一体どういうことだ?」
「ん?あぁそうか、まだルビー以外は知らないよな。俺は影魔法を使うことが出来るのは知ってるだろ?だがな、俺が影魔法を使うと何故か心まで影に侵食されてしまうみたいなんだよ」
シュテルはまるで他人事のように説明する。そして、その説明に続けてルビーが言った。
「それでですね、シュテル様はその影に心を侵食されると、何故かすっごく冷たくなっちゃうんです。まるで、冷酷な犯罪者ですよ。それで、今回も例外じゃなくて、めっちゃ人格変わってたのですよ!」
ルビーはプンスカしながらそう言った。フィナムはその話を聞いてとてつもなくシュテルを心配する。
「それって……使って大丈夫なのか?」
「まぁ、普通はダメだよな。でも、これじゃなきゃ負けてた。だからこそこれを使う前にルビーに頼んだんだよ。何があっても俺を元に戻してくれって」
シュテルはそんなことを言う。しかし、フィナムの記憶が正しければ、シュテルがルビーに向かってそんなことを言うのを見たこともなければ聞いたこともない。
「そんなこと言ってたのか……じゃあ、先に言ってくれよ」
「ん?何言ってんだよ。誰にも口では言ってないぞ」
「何?じゃあどうやったんだ?」
フィナムはシュテルの言葉を聞いてますます分からなくなる。そして、混乱する頭で必死に考えた。その時、ルビーが言う。
「目ですよ!目で私に訴えかけてきたんです!もぅ、まるで私が必ずやってくれるみたいな顔で見てきて……どうにもならなかったらどうするつもりだったんですか!?」
「そんなこと考えても答えは出ないだろ。それに、もう終わったことだ。成功したんだから生きてたことを嬉しく思おうぜ」
シュテルはルビーにそう言う。やはり、シュテルはどこか他人事のような感じがする。
「シュテル、君はルビーに自分の合図が伝わらなかったらどうしたんだ?」
「伝わらないことなんてないですよ。だって、完全に私に任せたって表情でしたからね。全てを私に捧げ信じているみたいな顔でしたよ。それに、凄く必死でしたから」
ルビーは少し怒りながらそう言う。
「……フッ、君達はお互いを信じ合っているんだな。そんな仲の良さが、2人を強め合っていくんだな。だが、もしシュテルの体力が少ない時はどうする?ルビーの攻撃で死ぬかもだぞ」
「大丈夫ですよ。私の攻撃はダメージがはいりませんから。基本的にナビゲートピクシーは友好的な人に危害を与えることはできません。そして、たとえご主人様……いわばシュテル様が敵対しても、ご主人様にはダメージが入りません」
ルビーはニコニコ笑顔でそう言う。フィナムはその言葉を聞いて納得する。
「……てか、そんなことよりお前ら早く気づけよ」
シュテルが突如そんなことを言った。
「気づくって何をだ?」
「周り見ろ」
シュテルがそう言うと、2人は周りを見る。そして、そこで理解した。何と元の世界に戻ってきていた。周りには何があったのか分からず見つめるだけの冒険者が何人もいる。
「みんな俺たちがボロボロなのを見て困惑してんだよ。なんせ、世界有数のトップランカーがそこまで疲弊する敵が現れたってことだからな」
「確かにな。……諸君!私は無事だ!何ともない!心配かけてすまない!」
フィナムは全員に言い聞かせるように言った。すると、冒険者達は少し考え何かを言い合った後に解散した。
「……これで大丈夫だな。とりあえず一旦家の中に戻ろう。話はそれからだ」
フィナムはそう言って家へと戻っていく。シュテルもゆっくりと立ち上がると家へと向かい始めた。ルビーはゆっくりとシュテルの胸ポケットの中に入る。
そして、全員家の中へと入った。そして、家の中に入るなりシュテルは言う。
「やはりな。トリガーはあの男とこの家だったな」
「なぜそう思う?」
「俺がこのゲームにログインした時、天井に魔力を感じた。俺は時空間魔法が使える。時空を変える呪印の判別は出来る。そして、男にも同じ印があった。恐らく男を殺しこの家を壊したことで戻ってこれたのだと思う」
シュテルがそう言うと、フィナムは少し考え家の中を見渡す。
「確かに私が帰ってきた時とは雰囲気が違うな。なるほど、だとしたらこれからも同じことをしてくる可能性があるということか。そもそも、あの男は何者なんだ?」
「俺に聞くな。まぁ、俺が洞窟に入った時に会ったやつとは違う人だな。まず魔法が違う。顔は仮面をつけていたから分からないが、体格が違う。もしかすると、ああいうのが世界中に拠点を持っているのかもしれないな」
「プレイヤーなのか?」
「だから俺に聞くな。まぁ、俺の憶測でしかないが、”元プレイヤー”の可能性は高いよ」
シュテルがそう言うと、その場には不穏な空気が流れ込んでくる。そして、2人はその時理解する。これから2人には想像を絶する絶望と、苦痛が襲うということを。そしてそれは、どれだけ頑張っても避けられることの無い未来なのだと。
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