第23話 影と闇と光

 シュテルは剣を鞘に収めてこちらに向かってくるフィナムを見て言葉を失った。さすがはトップランカーとでも言うべきだろうか?あれだけの威力の技をシュテルはまだ見た事がない。


「とんでもない一撃だったな」


「そうだろ?これがトップランカーの力だよ。ちなみに、この技は三帝王の全員が出来るよ」


「ハハ……聞きたくなかった」


 2人はそんな会話をして笑う。


「さて、これからどうするかい?私達はここから出る算段が無い。シュテルは何か分かるかい?」


「……そうだな……この空間って洞窟に入った時と似てるんだよな。もしかしたら、この空間自体が俺達のうちの誰かが想像し作り出した世界なのかもしれない」


「じょあ、そのうちの一人が思考を止めればこの空間から出られるのかい?」


「そこはわかんねぇな。洞窟には決まって出口があった。もしかするとこの空間にも出口があるのかもしれない。それか、空間に干渉するタイプの魔法でこの空間自体を歪めてしまえば、この空間を維持することが出来なくなり必然的に向こうの世界に引き戻される可能性がある」


 シュテルはフィナムにそう言った。そして、周りを見渡し出口がないかを探す。しかし、見つからない。


「出口は無い。だとしたら、やはり俺ら、もしくは俺ら以外の誰かがこの空間を作っている。そいつを探し出さなければならない」


「難しいな。どこにいるかも分からないとなったら、闇雲に探しても無駄だろう」


 2人はそれからも色々と話し合うが、良い考えは浮かばない。ましてや、この空間の正体さえも分からない。


「とりあえず、怪しい場所から探すか」


 フィナムがそう言って歩き出した。その瞬間にそれは起こった。


「死ねよ!」


 突如、そんな声と共に男が起き上がりフィナムに刃を向け襲いかかった。


 フィナムは男の姿を見てすぐに逃げようとする。しかし、さっきの技の反動で体が全く動く気配がない。そのせいで逃げられない。


 男はまだ治りきっていない体でフィナムを殺そうとした。男の体は上半身はまだ別れたままだ。その様子はまるでホラーゲームのようだった。


 しかし、そんなことを気にしている暇などない。男はその剣に禍々しいオーラを纏わせフィナムを殺そうとする。


 その刹那、シュテルがフィナムの前に出た。そして、持っているはずのない剣でその攻撃を防ぐ。


「っ!?シュテル!?その剣……」


「クッ……!」


 シュテルは必死に男の攻撃に耐える。そして、何とか蹴りを繰り出し男を遠くに蹴り飛ばす。そして、シュテルは剣を1度消して体制を整える。


「シュテル!その剣は一体なんなんだ!?」


「これだよ」


 シュテルはそう言って手袋の手の甲の部分に描かれててある魔法陣を見せる。フィナムはそれを見て気づいた。


「っ!?武器召喚の陣……!てことは、さっきの魔法は錬金術の魔法陣だな。シュテル、君、洞窟に入っただろ?」


 フィナムはシュテルに怒りのオーラを放ちながら問いかける。シュテルはその問いに対し少し頷き答えた。


「分け合ってな。そうせざるを得なかった」


「っ!?洞窟は危険なんだぞ!」


「分かっている。だからこそ、俺は強くなった。そして、これからも強くなる。……話は後でする。今は目の前の敵を倒すのが先だ。離れてろ」


 シュテルはそう言って剣を召喚し右手に持つ。そして、謎の男が飛んで行った方向を見つめる。


「あ、ルビーも頼む。ルビー、危ないから離れてろ」


 シュテルはそう言うとルビーを服の内ポケットから出てもらった。そして、フィナムの元まで向かわせる。


「シュテル様……気をつけてくださいね」


 ルビーは心配そうな目で見つめながら、心配した声でそう言ってきた。シュテルはその言葉を聞いて目を閉じると、先程より何倍も強い殺気を放つ。


 その刹那、突如シュテルの目の前から強い衝撃波が発生した。そして、そこからはさっきとは比べ物にならないくらい魔力を暴走させる謎の男が現れる。それはまるで、モンスターの様だった。


「殺す……コロス……コロス!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!」


 男はそう言って両目を血走らせ血の涙を流す。歯は力強く噛み締め歯茎から血を流す。まさにゾンビかモンスターのお手本とでも言いたいくらいだ。


「化け物に成り果てたか……弱者のすることだな。意識を乗っ取られ、殺人衝動に狩られている。愚かな。本当の強者とは、自分を制したものだ」


 シュテルはそう言って剣を自分の前に横にして持つ。そして、右手で鞘、左手で刃を持ち自分の魔力を全身に満遍なく行き渡らせる。さらには、体だけではなく剣にまで魔力を流す。


 その時、シュテルの魔力が黒く染った。そして、心も黒く染まり始める。


「あぁ……シュテル様がまたあの技を……」


「どうしたんだい?あの技が何か悪いのか?」


「はい……。シュテル様はあの技を洞窟で使われました。そして、心を影で染められてしまったみたいで、いつものシュテル様と全く違う人格になってしまったのです……!」


「っ!?じゃあ、もしかしたらシュテルが暴走してしまうということか!?」


「はい!だから……!だからあの技は使って欲しくなかったんです!」


 ルビーはそう言ってフィナムの手のひらの上で泣く。フィナムはルビーのその言葉を聞いてさらにシュテルのことが心配になってしまった。


「シュテル……君はどこまで無茶をするんだ……!」


「シュテル様……!もう逃げて良いのに……!」


 2人がそう言っていると、シュテルが口を開く。


「逃げられない時もある」


「っ!?そ、それはどういう事ですか?」


「そのままの意味さ。この時俺が逃げてしまえば、もしかしたら次に会う仲間は居ないかもしれない。もし、ここで逃げてしまえばルビーやフィナムのような仲間は隣にいないかもしれない。ここで逃げてしまえば、俺自身の心は強さを求めず、弱さを求めだしてしまうかもしれない。俺はそんなの嫌だ。だったら、逃げずに戦うしかないよな?そして、何があっても負ける訳には行かない。仲間のためにわ大切な人のために、そして、そんな人たちの隣に立つために、死ぬ訳には行かない!だからこそ俺はこうして戦うんだ!」


 シュテルはそう言って男に向けて駆け出した。そして、その剣を振り下ろし攻撃を仕掛ける。


「っ!?」


 しかし、男はシュテルの攻撃をはじき返す。そして、ぐにゃぐにゃとした動きでシュテルに向かって攻撃をしてくる。


 その刹那、男の持つ剣の刃から青い斬撃が放たれた。その斬撃は一瞬にしてシュテルの後ろにある建物を破壊する。そして、その斬撃はフィナム達がいる場所まで到達してしまう。フィナムは重たい体で何とかその場から離れその技を回避した。


 シュテルはその斬撃を見て即座に逃げた。錬金術を使い錬成し自分のいる場所の高さをあげることによってその攻撃を躱した。


 そして、そのまま剣を構え男に攻撃をする。最初は右から剣を振り払う。しかし、それは弾かれる。即座に次の攻撃を繰り出す。左、上、下、全方位から連続で切り込む。しかし、男はその全てを弾く。


 その場には連続して甲高い音が鳴り響いた。そして、2人の戦いの余波なのか、風邪のようなものが発生する。フィナムはその風を感じて拳を強く握りしめた。


「クソッ……!私がこんな時に何も出来ないなんて……!」


 フィナムはそう言って自分を責める。しかし、その時ルビーは言った。


「違います!フィナム様は何も出来ないなんてことはありません!今こうして私とフィナム様がいることで、シュテル様は強くなるのです!」


「それはどういうことだい?」


「シュテル様は恐らく心の中では失うものが無いと思っているから危険なことが出来るのです。ですが、こうして私達という守るべき存在が出来た時、シュテル様は強くなられるのです!私はそう信じています!」


 ルビーはそう言った。傍から聞いたらただの責任逃れに聞こえるかもしれない。だが、それでもそう思うと気が楽になる。


「そうだな。そう考えておく方が良いよな」


 フィナムはそう言ってシュテルを見つめた。シュテルは超高速な戦いを行っている。神速に近い剣さばきで男とやり合っている。フィナムはそんなシュテルを見つめながらこう思う。


「……俺より強いよな」


 そう小さく呟いて更に続けて言う。


「シュテル!出来るんだろ!出し惜しみなんかしてて勝てる相手では無いぞ!」


 フィナムはそう言った。その言葉を聞いたシュテルは少しだけ雰囲気を暗くさせて言った。


「何だ……気づいてたのか?」


「当たり前だ。ステータスプレートを覗かせてもらったからな」


「そうか、それなら隠す必要も無いよな。前に1度だけ見てよく分からないから無視してたんだけどさ、完全に忘れてたよ。こっちも本気を出す」


 シュテルはそう言って1度男から離れる。そして、大量の魔力を放った。


「陽の光があれば、必ず影が存在する。そして、無数の影が集まりやがては闇となる……」


 シュテルは突然そんなことを言い出す。その言葉を聞いた瞬間男は嫌な雰囲気を感じとった。


「……?」


「俺は影の覇者だ。影を扱うことには長けている。そして、影と闇は一心同体。闇もまた同様だ。そして、闇と光は表裏一体。光の量で全てが変わる。”召喚サモンズ八咫烏ヤタガラス閃光状態シャイニングモード”」


 シュテルは魔法を唱える。そして、姿を変えた。体は光り輝き、背中には4つの羽が生えている。その姿はまるで、鳥のようでありながら天使の様だった。

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