第22話 謎の男

 謎の男は何も言わずにただ攻撃を仕掛けてくるだけだ。2人はその攻撃を全力で躱す。そんなことを何度も続ける。


「おい!街の中でこんな戦闘してい良いのか!?」


「普通はダメだ!だが、今回は仕方がない!それに、周りを見てみろ!」


 シュテルはフィナムの言葉を受け周りを確認する。すると、人が誰もいないことに気がついた。


 そして、シュテルは今起こっていることについて気がつく。


「なるほどな!別の世界、もしくは別の空間に連れてこられたか!だからアイツは僕の家に侵入することが出来たし、こうして街の中で暴れることができるんだ!」


「なるほどな。だったら先ず、この空間から出る必要があるわけか……」


 シュテルはそう呟いて周りを見渡した。ここにはこの空間から逃げられそうなものは無い。だが、遮蔽物は多いため男の攻撃が当たって即死という訳では無さそうだ。


 シュテルはそれを理解すると、右手を地につき魔力を流す。すると、たまたまつけていた手袋の魔法陣が輝きを放ち始める。


 そして、本の数秒でシュテルの足元が隆起し、四角い物体となって男に向かって伸びて行った。


 男はその攻撃を避けることなく粉砕する。たった1回のパンチでその四角い物体は粉々になってしまった。


 しかし、シュテルの目的はそこじゃない。破壊されることなど初めから分かっていた。だから、この攻撃は単なる盲ませに過ぎない。


 シュテルは地面を錬成し剣を作り出す。そして、その剣を構えて走り出した。


「待て!シュテル!まだ敵の情報が分かっていない!無闇に突っ込むのは良くないぞ!」


「分かっている!だが、後手に回れば死を待つことになる!情報を引き出しながらなおかつアイツにダメージを蓄積させる!」


 シュテルはそう言って男に向かって剣を振り下ろした。しかし、男は全く防ぐような素振りを見せない。それどころか、シュテルを見ることさえもしなかった。


 だから、シュテルは確信する。この男はヤバいと。関わってはいけない存在なのだと。しかし、シュテルは男に向かって剣を振り下ろす。


 そして、シュテルのその剣は男に当たることは無かった。何故か切った感触が全くしなかった。シュテルは驚き前を見ると、男がシュテルの目を見つめている。


 その時初めてシュテルは知った。このソードアンドマジックと呼ばれるゲームには攻撃をすり抜ける能力の持ち主がいることを。


「っ!?」


 そして、男はどこからか剣を取り出すと、シュテルに向かって刃を向け、首元目掛けて突き刺そうとしてきた。しかし、シュテルは刺される直前に別のマーキングへと移る。そうすることで攻撃を全て避ける。


 そして、一旦男から離れる。


「すり抜けるって……そんな能力者がいるのかよ」


「いや、聞いたことないぞ。私は何年もこのゲームに囚われていたが、すり抜けなんて能力は見たことない」


 フィナムはそう言って男を見つめる。シュテルはその言葉を聞いて目を細めると、周りを確認した。


「……なぁ、ルビー、お前の中にすり抜けって言う魔法はインプットされているのか?」


「どういう事ですか?」


「確か、ナビゲートピクシーって相手のある程度の情報をプレイヤーに伝えることも出来ただろ?その中にすり抜けを使う人は入っているのか?」


「い、いえ、入ってないです。そもそも、すり抜けっていう技があること自体知りませんでしたし」


「やはりそうか……じゃあ、アイツは向こう側の人間と考えて良いみたいだな」


 シュテルはそう言って足元を見る。そこにはシュテルのマーキングがしてある。このマーキングはシュテルが冒険に行く前にしたやつだ。そして、この別空間にもそのマーキングがあり、かつシュテルの魔力を帯びている。


 マーキングは基本的に描くだけではなんの効力も持たない。シュテルの魔力が少しでも帯びていた場合にのみ発動することが出来る。


 そして、シュテルはこのマーキングを何度も使用している。さらに言うなら、シュテルはここが別空間だと気づく前にも使用している。


 そこから考えられることはいくつかある。それは、この家の周りが丸ごと転移したか、もしくは魔力さえも模倣したかだ。


 そして、この2つが出来るということは、かなりの実力者ということになる。たとえどちらかしか出来なかったとしても、それだけの魔力を持っていることになる。


「魔力を模倣してるのか……それとも、俺らを含めこの周り全体を転移させたのか……」


「どちらにせよ相手が強者であることは変わりない」


 シュテルの言葉に合わせてフィナムが言ってきた。どうやらフィナムもシュテルと同じ見解になったらしい。


 2人は武器を構えて男を見る。


「相手がすりぬける能力を持っている。だったら、魔力切れを狙うしかないな」


 シュテルはそう言ってこんを投げると、地面に手を付き錬金術を発動する。すると、地面が隆起し男を推し潰そうとした。


 どんどん地面は大きくなり男を挟んでいく。普通の人ならここで押しつぶされて終わりだ。シュテルはそんな思いで押し潰していく。


 そして、シュテルは男を押しつぶすことに成功した。


「っ!?」


「またすり抜けたか」


「いや、すり抜けられてない。感触は十分にあった」


 シュテルは驚きながらそんなことを言う。そして、2人はそ押し潰した岩を見た。


「何故だ?何故これはすり抜けなかった?」


 そんなことを問いかけるが、その答えが帰ってくることは無い。そこに残るのはただ、分からないという答えだけ。


「っ!?シュテル!気をつけろ!」


 フィナムが突如そう言って剣を構えた。シュテルはその言葉を耳にしてすぐに剣を作り出し構える。


 そして、その数秒後にその岩は破壊され中から無傷の男が出てきた。


「これでもダメか……」


「どうする?私の星魔法を使うか?」


「使った方がいいかもしれないな。だが、近づきすぎるのはマズイだろ?」


「あぁ。そうなんだ。使うタイミングを間違えば死ぬ」


 フィナムもシュテルも2人とも同じことを考える。そこで、シュテルは提案した。


「なら、フィナムの最強の技を叩き込んで欲しい。俺が隙を作る」


「出来るのか?」


「確証は無いがな」


 シュテルはそう言って自分の心臓がある場所の上に手を乗せて集中する。すると、心臓から魔力が流れてくる感覚を覚えた。そして、その魔力は黒い何かを帯びていて、心臓から飛び出し身体にまとわりついていく。


 フィナムはそれを見て言葉を失った。なんせ、その様子は闇の魔法に近いものがあったから。


 しかし、シュテルはそんなことを気にせず魔力を右腕に溜めていく。そして、遂にその魔力は右腕と右目、右の脇腹あたりまで黒く染めあげた。


「”影魔法かげまほう影の鎧シャドウレジスタンス”だよ」


 シュテルはそう言ってその黒く染った右腕で剣を握った。


「シュテル、大丈夫なのか?」


「あぁ、問題ない。それと、隙を作るから叩き込めよ」


 シュテルはさっきとは全く違った雰囲気で、かつ口調も声も態度も全て変わってそう言った。そして、さっきのシュテルからは考えられないほどの殺気を放ち、男に向かって駆け出した。


 それでも男は動こうとしない。表情1つ変えずにシュテルを見つめる。シュテルはその影をこんにまとわりつかけて振り下ろした。


 さらに、そこから凄まじい勢いで何度も斬撃を繰り出す。その攻撃は男だけではなく男の周りの地面や建物さえも破壊してしまった。


 しかし、あるところで男が攻撃を避けた。どうやら限界が来たらしい。シュテルはその動作を確認すると、間髪入れずに蹴りを叩き込む。そして、首元を切り裂いた。


 完全に首を切り落とすことは出来なかったが、かなりのダメージを与えたらしい。男が少し怯む。


 そして、その瞬間にフィナムは動き出した。全身を星のように青い光で輝かせ、周りにいくつもの星のようなものを浮かばせている。


 フィナムはそれを剣に纏わせると一瞬でその場を高速移動する。男はその速さに全くついていけてないようで、当たりをキョロキョロするだけだった。


 そして、そこでフィナムの技が炸裂する。


「”召喚サモンズステラ流星剣メテオパルチザン”」


 その瞬間、男の体とその後ろの空間が切り裂かれた。そして、とてつもない衝撃と爆風がその場を襲う。その一撃を食らった男は右肩から左脇腹にかけて深い傷を負った。


 しかし、フィナムの攻撃はそこで終わらなかった。さらに、フィナムが切り裂いた空間の裂け目から謎のモンスターのようなものが現れる。それは、神々しい光を放ちながら巨大な剣を構えていた。


 そして、そのモンスターのようなものは剣を振り下ろす。すると、男の体は縦に真っ二つに切り裂かれた。そして、その場にさっきとは比べ物にならないほどの衝撃が走る。


 シュテルは思わず影を縦のような形にして自分の前に作りだした。なんせ、そうでもしなければその衝撃で殺されかねないからだ。


 そして、その衝撃は何分間か続き収まっていく。さっきまでモンスターのようなものがいた場所を見ると、そこにあった裂け目は無くなっていた。そして、そこにいた男もいなくなっていれば、そこの周りにあった建物すらも無くなっていた。


「これで終わりかな?」


 フィナムはそう言って剣を鞘に収めた。

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