第21話 スローライフからの急襲

 それから魁斗は少しの間美優の頭を撫でて、不安という呪縛から解き放った。美優は心を縛っていた不安が解けたのか、おもむろに立ち上がると、魁斗に言う。


「自信がついた!また頑張ろうと思う!」


「そうか、それなら良かった」


 美優は魁斗にそう言って自分の部屋に向かい始める。さかし、魁斗はそんな美優を止めた。


「待て待て、風呂は入らないのか?」


「え?あ、忘れてた。普段入らないからすっかり忘れてたよ」


 美優はニコニコ笑顔でそんなことを言う。そのせいで魁斗は思わず顔を顰めてしまった。


「あ、そんな顔しないで。シャワーは浴びてるから」


 美優は魁斗のそんな顔を見て慌ててそう言う。しかし、魁斗的には全く信じられなかった。


 魁斗はそんな美優を見て少しため息を着くとソファから立ち上がり風呂場へと向かう。


「どうする?一緒に入るか?」


 魁斗はそう聞いた。すると、美優は一瞬頬を赤らめると、モジモジしながら魁斗を見つめる。そして、恥ずかしそうに言ってきた。


「入りたい」


 魁斗はその言葉を聞いて優しく微笑むと、2人で風呂場へと向かう。そして、一緒に風呂に入ることにした。


 2人は風呂場に着くと服を脱ぎ始める。最初美優がタオルを巻いたまま風呂に入ろうとしていたから魁斗はそれを止める。そう言うところは厳しい魁斗なのだ。


 美優はまだ風呂にもはいつまでないのに顔を真っ赤にしながらその綺麗な素肌を見せる。魁斗はそれを見た瞬間に2つ思った。


(……なんで恥ずかしがってんだろ?兄弟だろ?それに、ゲームではあんなに露出度の高い服着てるのに……)


 と思う。そして、もう1つ思ったことはついつい口に出してしまった。


「全く同じなんだよな」


「え?何が?」


「リアルとバーチャルでの俺達の身長も、背格好も、肌の色も質感も、全てが全くおなじなんだよな。まるで俺達の体がバーチャル世界に囚われてるみたいだ」


 魁斗はそんなことを言いながら美優の柔らかい肌を触る。すると、美優はさらに顔を赤く染めながら俯く。しかし、魁斗のある一言に疑問を持ち聞いた。


「あれ?お兄ちゃんってあっちの世界で私に会ったことあるの?」


 魁斗はその一言を聞いて少し驚いた。


「え?あ、まさか気づいてなかったのか?」


「え?何が?」


 魁斗は美優の顔を見てニヤリと笑うと言った。


「いや、何でもないよ」


「待ってよ!すごく気になるじゃん!」


「お〜そうか。じゃあずっと気になって置くんだな」


 魁斗はそんなことを言いながら体をお湯で流し始める。すると、美優が頬をふくらませながらちょっと怒っていた。


「お兄ちゃんなんか知らない!」


「ハハハ。そうかそうか、知らないか〜。じゃあ美優は今知らない男と2人で風呂に入ってるって事だな。一応言っておくが、兄妹じゃなかったら結婚できるんだぞ。子供も産めるんだぞ」


 魁斗が冗談でそんなことを言う。しかし、美優はそれを冗談とは取らなかったらしい。何故か真剣に悩み始めた。


「……あ、そうだ。お兄ちゃんの背中洗ってあげる」


 魁斗が頭を洗っていると、突然美優がそんなことを言ってくる。そして、魁斗の返事を聞くことも無く美優は魁斗の体を洗い出した。


「ん?あぁ、ありがとう。後で俺も洗ってやるよ」


 魁斗は何も考えず自然とそう言った。すると、美優はその言葉を待ってましたと言わんばかりの笑顔で見つめてくる。


 そして、美優はそそくさと魁斗の体を洗ってお湯で流した。魁斗も頭を洗い終えお湯を流す。そして、2人は場所を交代する。


「じゃあ洗っていくよ」


 魁斗はそう言って頭を洗う。そして、次に体を隅々まで洗っていく。その間ずっと美優は嬉しそうに笑っていた。


 そして、魁斗が洗い終えると泡を落として湯船に浸かる。その時も美優は嬉しそうだ。


「そんなに風呂楽しいのか?」


「うん!」


「そうか、ならちゃんと毎日入れ」


 魁斗はそう言った。すると、美優はニコニコ笑顔で魁斗の顔を見つめてくる。


「また一緒に入りたいのか?」


「ん!」


「良いぞ。でも、その前にその男と戦わないと行けないんだろ?勝てるのか?」


「勝てるわよ。お兄ちゃんじゃない限りね」


「は?え?どういう事?」


「何でもないわよ」


 美優はそんなことを言って笑う。魁斗はそんな美優を見ながら言った。


「楽しそうで何よりだな。あ、あとな、多分その男には気をつけた方が良いぞ。思ってるより強いと思うから」


「え?なんでお兄ちゃんがそんなこと分かるの?」


「さぁ?何でだろうな?」


 魁斗は少しおちょくりながらそんなことを言う。美優はそんな魁斗に再び不思議そうな顔をした。


 そして、2人の楽しい時間はあっという間にすぎた。2人は風呂から上がるとリビングへと向かう。そして、夕飯を食べ、歯を磨き、再びリビングに戻ってきて言った。


「じゃあ、私はまたあっちの世界に行くね」


「気をつけろよ。俺も少ししたらそっちに行くと思うから」


 2人はそう言ってそれぞれの部屋へと向かうしかし、途中で魁斗は足を止めて言った。


「あ、そうだ、これだけは言っておく。ダークサイドゲームに関わるな。絶対に、何があっても、関わるな。洞窟を見つけたら逃げろ。男に襲われたら全力で攻撃を躱せ。襲われたらすぐに助けを呼べ。プライドなんか気にするな。約束しろ」


 魁斗はそう言う。すると、美優は少し気圧されながらも頷く。そして、魁斗は笑顔になり部屋へと向かった。魁斗は部屋に入ってすぐに机の上にあるARゴーグルを見た。


 それはもう完成間近だ。頑張ればあと一週間もしないうちに完成する。魁斗はそう思ってそのゴーグルの改造に取り掛かった。


 そして、それから2時間ほどで作業を終える。だが、まだ完成はしない。それでも終える。現実にずっといるのもいいが、向こうで特訓しなければ美優に勝てないからだ。


 そして、魁斗はベッドに横たわりVRゴーグルをかけた。


「また行くのか……”ゲームスタート”」


 そして、魁斗の意識は常闇へと誘われ、再びバーチャルの世界に囚われた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……シュテルは目を覚ました。目を開けるとやはりバーチャル世界の家の天井だ。


 シュテルは目を覚ますと直ぐに体を起こす。そして、ベッドから降りる。その際でルビーも目を覚ました。


「あ、おかえりなさいませ。シュテル様」


「おぅ、ただいま」


「今日は何を……」


 その時、勢いよく扉が開かれ一瞬で締められる音がした。


「「「っ!?」」」


 2人は慌てて玄関に向かう。すると、かなり焦ってドア越しに外を見ようとするフィナムがいた。


「おい、何をして……」


 シュテルが声を着ようとした時、フィナムが口に人差し指を当てて声を出さないように指示をする。シュテルはすぐに気づき、音を出さないようにフィナムの隣に行く。


「何があった?」


 シュテルはフィナムにしか聞こえない声で聞いた。すると、フィナムはこう言う。


「ずっと謎の男につけられている。最高速度で走っても着いてくる。一体なんなんだ!?」


「何⁉︎だとしたら、フィナムと同じ速さで動いていることになるぞ」


「全く、一体何者なんだ……っ⁉︎」


 その時、フィナムは背後にその謎の男がいることに気がついた。フィナムは咄嗟にシュテルを守ろうとする。そこでシュテルも異変に気がついた。そして、気がついてコンマ何秒かでフィナムを連れて転移する。


「っ!?」


 転移した先は家の外だった。


「助かったよ」


 フィナムはシュテルにそう言って周りに星を散らばらせる。シュテルも針を飛ばそうとした。


「しまった……、荷物を全て部屋に置いてきてしまったよ」


「こんなことになるとは思ってなかったからね。そもそも、この街は敵モブの侵入を許さない。禁止されているからな。百歩譲ってアイツが敵モブじゃないとして、なぜ家の中に入れるのかが分からない。家の鍵を持つ者の許可がない限り入れないからな。それに、敵対している人を家の中に入れることは出来ない」


 フィナムはそう言って戦闘態勢に入る。シュテルはそれを見て戦闘態勢に入る。そして、2人は謎の男を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る