第19話 ログアウト
それからシュテルは歩き続けた。なんせ、かなり長い間戦っていたのにまだ夜だったからだ。
と言うか、時間を確認すると洞窟に入ってから自分は数秒程度しかその中にいなかったということになっている。
シュテルはそのことを不思議に思ったのと同時に、自分の魔力と体力に限界が来たため急いで帰ることにした。
そして、シュテルは何事もなく家に到着する。シュテルは玄関の扉に手をかけ開けようとした。そして、ここであることを思い出す。
「あ、鍵かけてたの忘れたわ。鍵開けるか」
そう言って鍵を探そうとドアノブから手を離した時、あることに気がつく。なんと、玄関の扉が開いているのだ。シュテルはそのことに気がつき直ぐに構える。そして、いつ敵が出て来てもいいように気配を察知し始めた。
すると、家の中に人がいることに気がつく。その人はかな強大な力を持っていた。そして、その気はフィナムとは違う。そもそも中にいるのは女性だ。
「……女がいる?……てか、なんで俺こんなにこと出来るの?」
シュテルは不思議な顔してルビーに聞く。ルビーはそんなことを聞かれてもシュテルが分からないことは分からないのでちょっと困る。
「わ、分からないです。とりあえず行きましょう!」
ルビーはシュテルにそう言って中に入るように言った。シュテルは不思議に思いながらも切り替えて中に入ることにした。
シュテルが中に入るとあることに気がついた。玄関には女性の靴が置いてある。やはり、中にいるのは女性らしい。そして、この靴をシュテルは見た事がある。そこでシュテルは中にいる人が誰なのか確信する。
「……はぁ、なんでここにいるのかな。ルビー、俺の体力ってどうなってる?」
「半分しか回復できませんでした……ごめんなさい!」
「いや、良い。それだけあれば問題ない」
シュテルはそう言って中を進み、リビングへと向かった。そして、リビングの扉を開ける。すると、そこには人がいた。その人は暗い部屋に立ち尽くしており、影で誰だかわからない。だが、背は小さく小柄だ。
「……なんでここにいる?」
「……」
シュテルは冷たい言葉でそう聞いた。すると、そこにいた女性は無視する。
「不法侵入した罪悪感か?それとも、俺が嫌いか?フィナムにここに来いとでも言われたか?それなら電気でもつけろよ」
シュテルはそう言って電気をつけた。すると、そこにいた女性の姿が顕になる。その女性はシュテルの思った通りミウだった。
シュテルはミウを見て少し目を細くする。そして、睨むような目つきで言った。
「何をしに来た?敵情視察か?俺に負けるのが怖くて先に潰しに来たのか?」
「……」
「なにか喋れよ。人の家に勝手に上がり込んで、無言で立ち尽くす。なんだ?幽霊ごっこか?ごっこ遊びでもしたいなら付き合ってやるよ」
シュテルはそんなことを言いながらソファに座る。そして、自分のバッグの中の整理をする。
「ルビー、回復をしてくれ」
シュテルがそう言うと、後ろから回復魔法をかけてくれた。しかし、その回復魔法はルビーのものと少し違う。振り返ると、何故かルビーではなくミウが回復していた。
「……」
ミウは何も言わずに回復をする。その表情にはどこか曇りがあった。シュテルは回復された時一瞬だけ殺そうとしたのかと思ったが、その表情を見てなんとなく察する。そして、聞いた。
「ログアウトは出来るのか?」
その一言でその場の空気が変わった。ミウは驚いた表情でシュテルの顔を直視する。シュテルはそんなミウを見て言った。
「何か話せ。出来ないなら出来ないと言え。出来るなら出来ると言え。小学校で習わなかったのか?無視は良くないと」
シュテルがそう言うと、ミウは少し泣きそうな表情で言ってきた。
「出来る……」
「……そうか、じゃあ誰が出来なくなった?」
「っ!?」
シュテルのその一言で再びミウは言葉を失う。
「……答えたくないか?それとも、答えられないか?」
「……答えたくない」
「そうか、なら答えなくていい」
シュテルはそう言って剣を机の上に置く。そして、何も言わずに剣の手入れを始める。
「……聞かないの?」
「言いたくないんだろ?」
「うん……。あのね、今日世界中のトップランカーが集まって会議をしたの。その内容が、最近ログアウトが出来ないって人が増えているって内容だったの。バグかなにかかと思ってたんだけど、運営に報告しても何も修正されなくて、それで私達だけで考えてたの」
ミウは突然そんなことを話し出す。シュテルはその話を聞きながらその状況を大体理解する。
「それでね、そのログアウトが出来ない人に来てもらって話を聞いたの。それがね、その人は普通の冒険中に謎の洞窟を発見したんだって。そして、その洞窟から離れようとした時謎の男に殺されて、でも何故か目が覚めて、そしたらログアウトが出来なくなってたらしいの」
ミウは少し脅えながらその話をする。シュテルはその話を聞いて、洞窟から逃げようとした時毎度の如く出てくる男を思い出す。
恐らく、あの時シュテルに攻撃してきたのはシュテルをログアウトさせなくするためだろう。そして、あの時避けきれなかったら今頃シュテルはログアウト出来なくなっていたはずだ。
「なるほどな。それで、その謎の男が俺なのではないかと思って来たわけだ。そのことについて他の皆はどう言っている?」
「……皆何も知らないって。嫌な予感がするってだけで何も言ってない。もしかしたら知っている人はいるのかもしれないけど、少なくとも私は知らないしその周りの人達は知らない。……ねぇ、あなたは何か知らないの?」
ミウはシュテルに疑いの目を向けてくる。シュテルはそんなミウを見て立ち上がると、冷静な口調で言った。
「たとえ知ってたとして、お前に話すことは無い。それに、俺はこの世界の全てをまだ知らない。だから、話せることは無い」
シュテルがそう言うと、ミウは少しムッとする。しかし、直ぐにぷいっと顔を背けて扉へと向かう。そんなミウにシュテルは言った。
「ダークサイドゲームには関わるな」
「……?何それ?」
「……いや、何でもない」
「そう……。そういえばだけど、あなたはログアウト出来るの?」
「……”まだ”出来るよ」
「そぅ、それなら良かったわ。次に会う時は敵どうしね。6日後にまた会いましょう」
ミウはそう言って家から出て行った。シュテルはその後を見送ると、もう一度リビングに戻りソファに座り直すと天井を見上げてため息をひとつ着く。そして、誰もいない空間に語りかけた。
「ダークサイドゲームが……世界を狂わせ始めたのか……」
その言葉はその場にいたシュテルとルビーの耳に突き刺さるように重たくのしかかった。
シュテルはおもむろに立ち上がるとその剣を持ってリビングを後にして2階にある自分の寝室へと入る。ルビーもその後を着いてくる。
そして、シュテルはベッドの上に横たわるとルビーに言った。
「直ぐに戻る。もしくは、向こうの世界で会うことになるかもしれないな。じゃ、少しの間おやすみ」
シュテルはそう言って目を瞑る。そして、小さく呟く。
「”ログアウト”」
そして、シュテルの意識は現実世界へと引き戻されシュテルから黒星魁斗へと戻った。
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