第9話 フィナムの魔法講座

 シュテルは目の前の一軒家を見て硬直した。なんせ、この誰か住んでいそうな家の下に拠点があるのだから。


「どうすんよ?」


「どうするって……とりあえず中に……」


「君達!そこで何をやってる!?」


「「「っ!?」」」


 突如後ろから声をかけられた。振り返ると、男の人が1人立っている。


「済まない。少し用があってこの家に来てな。俺はシュテル。あなたは?」


「私はフィナム。この家の仮の保持者だ」


「仮?」


 フィナムと名乗った男はそんなことを言ってきた。シュテルは直ぐに疑問に思い問いかける。


「そうさ。ここに住んでいた師匠は4年前、突如ログアウトが出来なくなったと言ってどこかに出かけた。かく言う僕もログアウトが出来ないんだがね。君がここに来たと言うことは、師匠からなにか受け継いだのだろ?」


「っ!?なぜそう思う?」


「君から師匠と同じ力を感じるからだ」


「「「っ!?」」」


 シュテルはその言葉を聞いて直ぐに戦闘態勢をとった。今、目の前にいる男は危険だ。直感でそう感じたからだ。


 それに、シュテルの手の内は既にバレている。もし、この男が敵なのであれば、既に先手を取られている。


「やめておけ。今の君では僕に勝てないよ。まだ力の使い方もよくわかってない君に、僕が負けるとでも?」


「……やってみるまで分からないだろ」


「……口の減らないガキだな。まぁいい。僕は君と戦うためにここに来たわけじゃない。君に力の使い方を教えるために来たんだ。君が望むのであれば教えてやるよ。どうする?」


「……頼むよ」


 シュテルは少しだけ警戒しながらも提案を受けた。


 フィナムはシュテルの言葉を聞くと直ぐに別の場所へと移動し始める。その場所は闘技場のような場所だった。


「ここは?」


「ここは練習場さ。時々闘技場としても使われる。ここで君に技を教えるよ。ただね、僕は暇じゃないんだ。だから、今日中に全て覚えてもらうよ」


 フィナムはそんなことを言ってくる。だが、シュテルからしてもそれがありがたい。別に何日もならいたい訳では無いからだ。


 シュテルはフィナムの言葉に頷き話を聞いた。


「まず、師匠の魔法は転身てんしんと言ってマーキングした場所に瞬時に移動できる。これはわかっているな?」


「あぁ」


「そして、そのマーキングはどこでも出来る。たとえ、人の体でもな。さらに言うなら、マーキングをつければつけた本人が消さない限り絶対に消えない。これが大体の技の説明だ。あとは実践でコツをつかめ」


「了解」


 シュテルはフィナムの話を聞いて、直ぐに地面に手をつける。どうやら手で触れた場所ならマーキングが付けられるみたいだ。


「なぁ、これって手じゃないところで触れてもマーキングは付けられるのか?」


「さぁな。俺の魔法じゃないんだ。知るか。ただ、師匠は手でしかマーキングを付けられなかった。師匠に出来なかったんだから出来ないのだろう」


「なるほどな」


 シュテルはそれを聞いて色々と考える。まず、手でつかなければならないとなると、地面につける時などはいちいちしゃがまなくてはならない。だから、その分隙が生じる。


 だが、マーキングはかなり早いスピードで着くらしい。これだったら一瞬触れただけでもつけることは出来そうだ。


 そして、次に遠くに離れて魔法を発動した。最初は50メートル。それからどんどん距離を伸ばしていく。


 この闘技場の直径が300メートルくらいだが、難なく移動できたため、移動範囲はかなり広いようだ。


 そして、それから色々と試した。ものにマーキングをつけたり、消したり。空中に投げたマーキングの着いたものに移動してみたり、一瞬で2箇所に移動したり……。


「それで、技はどんな感じか?」


「かなりコツを掴んだよ」


「そうか。なら、実際に戦いで使えるか試して見よう。もし使いこなせなければ許さん」


 フィナムはそう言って剣を構えた。それを見てシュテルは理解する。


「なるほどPvPか。ルールは?」


「何でもありだ。体力は半分になったら負け。行くぞ」


 フィナムはそう言って向かってきた。シュテルはそれを難なく避ける。そして、距離を取り少しづつマーキングしていく。


「遅いな」


「っ!?」


 なんと、マーキングしていると、突然フィナムが目の前に現れた。とんでもない速さだ。最初とは段違いに速くなっている。どうやら手を抜いているわけじゃないらしい。いや、もしかしたらこれすらも手を抜いているのかもしれない。


 フィナムは目の前に来ると、直ぐに剣を振り下ろしてきた。さすがに能力も分からない剣を使うわけにはいかない。最後の切り札として取っておきたい。シュテルはそう思い、何とかギリギリで攻撃を避けた。そして、直ぐにその場を離れマーキングする。


「……マーキングする時に隙だらけだ。死ぬぞ」


「それな。自分でも笑えてくるよ」


 シュテルはそう言いながら紙が着いた大きい針を取り出した。それは、戦いが始まる前に作っておいたものだ。シュテルはそれをランダムに投げる。すると、その大きな針は壁や地面に突き刺さった。当然これにもマーキングしてある。


「考えたな」


「まぁな」


 シュテルは少しだけ不敵な笑みを浮かべると地下世界で拾ってきた短剣を構える。


 その刹那、フィナムが目にもとまらぬ速さで襲ってきた。シュテルは直ぐにマーキングした場所に転移する。


「飛んだか。さすがは師匠の魔法だ。速いな」


 フィナムはそう言って再び剣を構えた。恐らくだが、ずっと逃げている訳にはいかない。いずれ対応されやられる。なら、今度はシュテルの方から仕掛けるしかない。


「やってやるよ」


 シュテルはそう呟いてマーキングした紙をぶら下げた大きな針を3つほど取り出す。そして、その内の1つを投げた。


「来るか……」


 フィナムがそう呟いた時、シュテルは飛ばした針へと飛ぶ。そして、短剣を構えた。


「っ!?」


 しかし、フィナムは既に攻撃してきている。どうやら来ることがわかっていたらしい。


 しかし、反撃してくることはシュテルもわかっていた。だからこそ飛んだ瞬間にこっそり針を飛ばしておいた。


 シュテルはその針に飛ぶ。そうすることでフィナムの背後を取った。


「勝った」


「いや、負けだ」


 フィナムはそう言って後ろに剣を振り回してきた。どうやらシュテルがそう来ることもわかっていたようだ。


「フッ、まだまだだな」


「本当か?」


「っ!?」


 なんと、シュテルは攻撃される直前にフィナムの前に飛んでいた。どうやら地面にマーキングしていたようだ。


「っ!?そうか!最初に……!」


 シュテルはフィナムが対応しきれない間に短剣を心臓に突き刺した。……つもりだったが、避けられ左の脇腹に突き刺さる。


「チッ!」


 シュテルは攻撃をすると直ぐに別の場所へと飛ぶ。そうして距離をとった。


「まさか……ここまで使いこなすとは……君、かなりのゲーマーだろ?」


「いや、俺はこのゲーム初心者だ」


「っ!?じゃあ、普通に運動神経が良いのか……今度リアルで一緒に会ってみたいよ」


「そうだな」


「まぁ、それは置いといて……まさか僕に傷をつけるとはね。しかも、その背中の剣を使わないで。なんでその剣を抜かないのかい?その剣は魔剣だろ?名は確か……”魔剣ジオクロノス”」


「「「っ!?」」」


「知っているのか!?」


「あぁ。その剣は師匠が欲しがってたからな」


「っ!?じゃあ、この剣を使えばダークサイドゲームを終わらせることも出来るのか!?」


「いや、その剣は師匠が『なぁ、この剣ってかっこよくね?』とか言っていたからな」


「なんだよそれ?まぁ俺も、時空間魔法と影魔法が効果で得られるのに、なんで名前が時間魔法みたいな名前なんだろうなって思ったけどさ……」


「何!?君もそう思ったのか!?僕も同じだ!気が合うじゃないか!」


 突然フィナムが顔を明るくさせてそう言ってくる。そして、なんでか仲良くなってしまった。


「まぁいい!今は戦うことだけ考えよう。今君が着けた傷はかなり大きい。さぁ、君は最後の一撃を僕に決め切れるかな?」


「……フッ、やってやるよ」


 シュテルはそう言って剣を背中から抜いて構えた。

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