第4話 地下世界

 シュテルはその扉の向こうを見つめて言葉を失った。なんと、その先にあったのは自分が最初に行った街だったのだ。


 しかし、その街は人がいない。それどころか、何故か紫色のモヤがかかっている。


「なんだこれ……!?」


「わ、私も知りません……!私の中にある情報にはこのようなものはインプットされてません!」


「じゃあこれはなんなんだ!?まさか、世界の裏側とでも言うのか!?」


「わからないですよ!とにかく行ってみないことには話が進みません!ですが、私はここに行くのはお勧めしません!今すぐ来た道を引き返すべきです!」


 ルビーはそう言ってシュテルの襟を掴み、何とか引き返そうと頑張る。しかし、シュテルは何故かその中に行かなくてはならないという正義感なのかなんなのかよく分からない感情になり、その中へ向けて足を進めだしてしまう。


「ダメです!お願いしますから引き返してください!どんな事でもしますから!」


 ルビーはそう言って何とか引き返そうと頑張る。そして、そこでシュテルは目を覚ました。


「っ!?俺何を……?」


「シュテル様!引き返しましょうよ!」


 シュテルが目を覚ますと、後ろでルビーがそう叫んでるのが聞こえた。その言葉を聞いて、自分がこの中に入ろうとしていたのが分かる。


 シュテルはそれを理解すると、すぐに足を戻し、振り返って引き返そうとした。


「ルビー、帰るぞ」


「はい!」


 ルビーは、シュテルが目を覚ましたことで喜びの表情を露わにする。そして、嬉しそうに飛びながら振り返った。


 その時だった。突如逃げようとしたシュテルの目の前に大きな男が現れた。その男は仮面を被っており、武器を持っている。


 その大男は、シュテル達の姿を捕えるとそのまま押し飛ばして中へと入れてしまった。しかも、扉を閉じて出られないようにする。


「っ!?……嘘だろ……おい!ふざけるな!」


 シュテルはそう叫び扉を開けようとするが、外からものすごい力で押しているのか、ビクともしない。


「クソッ!ダメだ……」


「もう引き返せないですね……」


「そうだな。とりあえず、どこかに出口がないか調べよう」


 シュテルはそう言って街の中へと足を進めた。


 街の中を徘徊すると、大体の地形がわかる。やはり、あの街と全く一緒の地形だ。それに、ライモンの店がある場所に行くと、きちんとライモンの店がある。


 中に入ると武器などがあり、そっくりそのまま持ってきたような感じだ。


「何もねぇな……」


「あれ?なにか置いてありますよ」


 ルビーがゆびをさした。その方向は、街の真ん中にある広場の噴水の上。そこに謎の本が置かれていた。


 その本はかなり古い。所々日焼けしていて、ホコリ被っている。シュテルはその本を手に取ると、すぐに中を開いた。


 中を覗くと、こんなことが書かれていた。


『このゲームには裏の世界がある。私はそれをダークサイドと呼ぼう』


「……ダークサイド?どういうことだ?」


「待ってください。次のページに続いてます」


 シュテルはページをめくった。


『私はなぜ世界中の人々がこのゲームに没頭するのかを調べることにした。なんせ、私以外の家族が全員このゲームにのめり込んでしまったからな。私はこのゲームで遊ぶことによって調べていることもカモフラージュすることにした。しかし、油断は出来ない。何時私もこのゲームに捕われるか分からないからな』


 そして、次のページに続く。


『あれから1週間が経過した。まだ序盤の街だが、かなりレベルアップしただろう。そろそろ次の街にでも行くとしよう。だが、その前に1つ気になることを……いや、やめておこう。そこに行くのはもっと強くなってからだ。今の私には、その場所は恐ろしくて行けたものじゃない』


 さらに次のページへと続く。


『さて、あれからさらに1ヶ月が経過した。所々で私の母と娘の名声を聞く。聞いていて誇らしくもあり虚しくもある。だが、そんなことはどうでもいいのだ。遂に私の調査は進展を迎えた。なんと、事件が起きたのだ。それも、本当の殺人事件。その被害者はこの世界に来ていた時に殺されたらしい。もしかしたらその事がなにか関係があるのかもしれない。今すぐにでも調べに行かなくては。そう思っているのに、何故かログアウトが出来ない。もしかしたらバグだろうか?恐らく1週間ほどで修正が入るはずだ。それまで気長に待とう』


 次のページへ……


『あれから1週間が経ったが、バグは治らない。早く調べたいのに、いい加減にして欲しいよ』


『そして、さらに1週間……まだバグは治らない』


『それからさらに1週間が経過した……バグは治らない。また、1週間……バグは治らない……今度は少し気長に1ヶ月待ってみよう』


『1ヶ月が経過した。バグは一向に治る気配を見せない。一体運営は何をしているのだろうか?少し聞いてみよう』


 そして、次のページに続いていた。次のページをめくると、何も書かれていない。その次も、そのまた次も、何も書かれていない。


「終わったのか?」


「いえ、最後の方にまだ残ってますよ」


「え?あ、ホントだ」


 そう言ってシュテルはページを開いた。そこには衝撃のことが書かれていた。


『あれから2年が経過した。それにもかかわらず、まだログアウト出来ない。それどころか運営からのメッセージは届かない。私はもしかしたらこの世界に囚われてしまったのかもしれない。こうなってしまっては調査も出来ない。……そうだ、最後にあの場所へ行こう。最初に見つけたあの場所に』


『やはり、転移魔法は便利だ。まぁ、転移魔法と言っても私の魔法は場所を入れ替えるだけの魔法だがね。よし、あの場所が見えてきたぞ。私が最初に見つけたこの洞窟が。奥にはかなり続いているらしい。行ってみよう』


 そして次のページ……


『一体ここはなんなんだ?ベンゲルの街とそっくりではないか。だが、紫色のモヤがかかっている。周りをよく見渡せないな。気をつけなくては。それにしても本当にそっくりだ。一体ここはどこなのだ?』


 次のページ……


『ここはダメだ。ここにいては、生きては行けない。もし私達が生きている世界がホワイトサイドなら、ここはダークサイドだ。もしかしたら、この生物が世界中の人々をこの世界に捉えているのかもしれない。なら、倒さなければ。しかし、この怪物を倒せるものなら倒して欲しい。私のレベルはいま70、それにもかかわらず手も足も出ない。最後にこの書記を残しておく。これは私が死ぬ前に隠れて書いたものだ。恐らく私はもうすぐ死ぬだろう。……見つかってしまった。もしこの書記を読んだものがいたのであれば、その者にお願いする。誰か、このを終わらせて欲しい。そろそろ私もお別れのようだ……』


 そこで文は終わっていた。その先は破り取られたのか、それとも破り捨てたのか分からないが、敗れた跡が残っている。


「ダークサイドゲームだと?このゲームが?まさか、こんな秘密が隠されていたとは……ルビーは何か知ってるか?」


「し、知りません……!初めて知りました……!」


 ルビーは驚きのあまり朝をダラダラと流しながらその文を見つめる。シュテルも、このことが本当なのか、もし本当であった場合自分達はとんでもないものに首を突っ込んだのではないだろうかという恐怖と好奇心で満ち溢れていた。


 だが、現実はそう甘くない。こういう物語やゲームでよくある、『巻き込まれた主人公が、波乱万丈な戦いをしながら世界を救う』なんてことは起こらない。


 そう、起こらないのだ。こういう時は決まって絶望というモンスターが襲ってくる。今、シュテルの後ろに存在するもののように。


「っ!?」


 ふと、何かを感じたシュテルは後ろを振り返った。すると、後ろに虎のようなモンスターがいた。


 そのモンスターはかなり大きく、ざっと測っても街の建物より大きい。


「っ!?これがこれを書いたやつを殺したモンスターか……!」


 シュテルはそう呟き直ぐにその場から離れた。そして、物陰へと隠れる。どうやら気づかれては無いらしい。しかし、シュテルを探していることは分かる。


 出口は無い。探す暇も無い。だとしたら、やることは1つだ。


「……殺す!」


 シュテルは小さくそう叫んでそのモンスターを睨んだ。

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