第3話 謎の洞窟
「……」
シュテルは静かに目を覚ました。目に映るのは見慣れない天井だ。
どうやら再びこの世界に来てしまったらしい。シュテルは多少の好奇心と後悔の念を抱きながら部屋を出て下の階へと降りていく。
「……ん?なんだ起きたのか……。良いのか?こんな時間にゲームをして」
「ん?あぁ、構わんよ。どうせ家族もやってる。それに、仮想現実に行っている時は自分の体は眠っている状態だ。疲労は残らない」
「へぇ、そんなもんなんだな」
「そんなもんだ。それより、ライモンは良いのか?こんな時間に」
「あぁ。別に構わないさ。どうせ皆このゲームをやってるんだ。ここにいる方が金儲けが出来る」
「そうか……」
シュテルはその話を聞いて少しだけ暗い顔をした。そして、再びこのゲームの恐ろしさを痛感する。
さらに言うなら、そんなゲームをやっている自分が嫌になってくる。
「俺も、そんなクソゲーマーと同類か……」
「……あ、そう言えばだが、なんでこんな時間に入ってきたんだ?」
「あぁ、いや、単純にレベル上げしようと思っただけだよ」
「そうか。なら気をつけろよ。夜の魔物は昼の魔物とは一味違うからな」
「用心するよ」
シュテルはそう言ってライモンの店を出た。外に出ると、夜にもかかわらずプレイヤー達が多く行き交っている。
「さて、行くとするか」
シュテルはそう言って街の外へと足を進めた。
━━それから少し時間が経って、シュテルは街の外へと着いた。そこには昼とは比べ物にならないくらいのモンスターが居る。
しかも、そのモンスターのほとんどがアンデッド系のモンスターだ。
「なるほどな。だいたい予想はしていたが、やはり昼と夜とでは一味違うな」
そう呟いて片手剣を構える。そして、後ろからこっそり近づき、骸骨を1匹切った。
すると、一撃で倒してしまう。どうやらこの街のモンスターは本当に弱いらしい。シュテルはそれを確認すると、他のモンスターにも切りつけた。
ゾンビと骸骨しかいないが、やはり直ぐに倒せる。そして、それから1時間が経って自分のレベルを見た。夢中になっていたから分からなかったが、今のレベルが既に13になっている。さらに、ドロップアイテムもかなり手に入れたようだ。
「そろそろ戻るか……ん?」
シュテルがライモンの店に戻ろうとした時、不思議なものを見つけた。それは、ごく普通の洞窟。だが、どこか異様な雰囲気を感じる。
いや、初心者が何を言ってんだっていう人もいるかもしれないが、それでも異様な雰囲気を感じる。
「……行ってみるか」
シュテルは夢中になりすぎないようにアラームをかけてその洞窟の入口まで来た。そして、少し中をのぞき込む。
「……普通の洞窟だよな」
シュテルはそう呟きながらどんどん下へと降りていった。
洞窟の中は足音が木霊する。しかし、その音は全てシュテルの足音だ。他になにか音が聞こえるわけじゃない。
さらに言うなら、ここまで暗く、さらに洞窟なのにも関わらず、モンスターが1匹もいない。
それだけでとてつもなく気味悪く思えた。
「……一体ここはなんなんだ……?」
「……です……」
「っ!?誰だ!?」
突如女の子の声が聞こえた。すぐに振り返るが誰もいない。周りを見渡してもどこにも誰もいない。
「……気のせいか……?」
「ここです……!」
「っ!?」
やはり声が聞こえる。しかも、シュテルの服の中から。恐る恐る服の中を確認すると、妖精のような羽をつけた小さな女の子がこっちを見ていた。
「……え?」
「やっと気づいてくれましたね。もぅ!鈍感すぎですよ!」
「はぁぁぁぁぁ!?誰だよ!?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました!私はナビゲートピクシーのルビーです!」
「ナビゲートピクシー?」
「はい!ナビゲートピクシーとはプレイヤーを支える妖精です。主に、道案内や敵の情報の開示などを行います」
「へぇ、便利だな。あ、じゃあさ、ルビーはここがどこか分かる?」
シュテルはルビーにそう聞いた。しかし、ルビーは少し困ったような表情を見せると、申し訳なさそうに言ってくる。
「それが、ここがどこか全く分からないんです。そもそも、こんなところに洞窟やダンジョンは存在しません。それに、今シュテル様はマップ上に表示されてないんです」
ルビーはそんなことを言ってきた。その話を聞いてシュテルはすぐにマップを確認する。すると、本当に自分がマップに写っていない。
シュテルは今のこの不思議な状況に少しだけ恐怖心を覚えた。
「……バグか?」
「可能性はあります……ですが、それならすぐに運営が気づくはずです」
「だよな。なら、この現象を確かめるには進むしかないか」
シュテルはそう言って再び足を進めた。ルビーもその後ろを着いていく。
━━それから10分ほど歩くと坂は終わり、真っ直ぐの道になった。どうやら最下層に着いたらしい。
「最下層か……なぁルビー、なんでこの洞窟はこんなに明るいんだ?」
「それは、この洞窟の石などに発光石と呼ばれる鉱石が含まれているからです」
「発光石?」
「そうです。街灯などに使われてます」
「なるほどな。それでこんなに明るいわけか……」
シュテルはルビーの話を聞いて感嘆の声を上げる。これでどのゲームでも特有の、”洞窟だけど明るい”の謎が解けた。
「あ、シュテル様、目の前に扉がありますよ」
ルビーがそう言って目の前を指さした。見ると、そこには扉がある。
「扉?なんでこんなところに……」
シュテルは不思議そうにその扉を見つめる。そして、その扉に近づいた。近くで見るとかなりでかい。
「……なんだよこれ……?」
「シュテル様……引き返しましょう!ここはなんだか嫌な予感がします!」
ルビーはそう言って、慌ててシュテルの服を引っ張った。そして、引き返させようとする。シュテルもそんなルビーを見て慌てて引き返そうとする。
そして、一気に走り出した。
━━しかし、中々坂が見えてこない。そんなに歩いて来たわけじゃないのにどれだけ走ってもたどり着かない。
「はぁ……はぁ……!なんで帰れないんだよ……!」
「なんで……っ!?シュ、シュテル様……!後ろ……!」
ルビーが脅えた様子で後ろを指さす。振り返ると、何故かそこに大きな扉があった。
「なんで!?」
「そんな……!あれだけ走ってきたのに……!」
2人はその異常な状況に驚き足を止める。そして、扉を見つめて歩き始めた。
「ちょっと……シュテル様?そっちはダメですよ!」
「そうかもしれない。だけど、なんでか行かなきゃいけない気がするんだ。それに、こっちしか道は無い」
「うぅ……き、気をつけてください……!」
ルビーは少し怖がりながらもそう言ってくる。シュテルはそんなルビーに目をやり、掴むと服の中に優しく入れた。
「危ないからそこに入ってて」
「はい!ありがとうございます!」
シュテルはルビーの感謝の言葉を聞き届けると、ゆっくりと扉を開いた。
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