2話


 特別補習のクラスが始まる合図、それをいち早く告げたのはチャイムではなく古ぼけた掛け時計だった。もう教室にダラダラと居座ることはできそうにない。俺はカバンを廊下に置き去りにして階段を降りると一階の事務室の前を通り過ぎ、一年のクラスのある通路の手前にある中庭の連絡通路も通り過ぎ、ぐるっと一周遠回りしてグラウンドに出る。唯一の懸念は、この遠回りにどんな価値があるだろう?

 グラウンドの中央左側、芝生の縁側を辿っていくと第二グラウンドに繋がる坂が見えてくる。病気みたいに汗を流しながらそれを登り切ると、やっぱり見えた。


 彼らが先か、バスケットゴールが先に在ったのか、とにかく第二グラウンドの前側半分は顧問のいない日のバスケ部員たちにとって格好の溜まり場のようだった。俺は中庭で買ったばかりのアルミ缶2つを濡れた手でなんとか掴みながら強烈な日光ですっかり色あせた青いカラーベンチに居を構えると、すぐ小高おだかはこちらに気づいてやって来る。

「ありがと」

「お前のじゃない」

「誰のだよ」

角田つのだ先輩だ」

 俺が笑いだしてからようやく冗談を言っていることに気づいたのだろうか、照れ隠しをするみたいにこちらを小突いてきた。

「今日も来てない?」

「来てない。分かってたろ」

「一応ね。」そして安い方の缶を手渡した。

?」

「いつ辺りから来てないんだっけ」

「先月アタマから。これも言っただろ」

「そうみたいだ。確かOBさん等が来た頃だろう?」

 小高は俺に向き直った、そして低くなった日差しのだいだい色を受け付けないほどのさっぱりした目の前のソイツの視線を受け止める。

「前のバッシュは?」

「あれは室内用だ」

「なるほど」


 そして俺たちは少しの間静かにボールが投げ入れられる一連の儀式を眺めていたけれど、俺は暑さに耐えきれなくなったサウナの客みたいに立ち上がる。スポーツは見ているだけでもこんなにカロリーを消費するのだろうか?何か言うべきか悩んで、一言だけ口にした。

「進学っていうのも大変だな」

「そうだよ」

 即答だった。


 分かってはいたけれど、『遠回り』っていうのはこんなに手間暇かかるモノなのか。

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