第4話 「コロナ禍」のなかで(1)

 「平成」の時代が過ぎて、「令和」の世になった2020年(令和2年)、「コロナ」が襲ってきた。

 その「わざわい」は、ゆるんだことになっては、新しい「株」の登場でまた厳しくなり、続いた。2023年に新型(19年型)コロナウイルス感染症が「五類移行」して「普通の厳しい流行伝染病」並みに位置づけが変わったが、この夏も「禍」はまだ終わってはいない。「「コロナ」で今日は出勤できません」、「数日間「コロナ」で休みました」と言うひとはこの夏も身のまわりにたくさんいる。

 でも、いまは、まるで新型コロナウイルス感染症などないかのように街には人があふれ、さまざまなイベントが「コロナ禍」前と同じ規模で開催されるようになっている。

 「コロナ禍」が最も厳しかったときには「町から人の姿が消えた」とまで言われた。

 私は、自宅の通信環境が悪いので、「コロナ禍」がいちばん厳しかったときにも出社して仕事していた。

 そのころは、通勤時間帯の電車に乗っても一車両に数人しか乗っていない、という状況だった。ロングシート一つに一人座っているかどうか、というところだ。

 その「第一波」がなんとか収まり、その夏に「GO TO トラベル」キャンペーンというのがあった。

 このキャンペーンが結果的に「第二波」を広めることになったのかどうか。ともかく、あまり評判のよくないキャンペーンだったが、私にはありがたかった。

 このキャンペーンが、地元から地元への「旅行」でも適用されることに気がついたからだ。

 同時に、東京都内の観光地のホテルが非常に安く泊まれることがわかった。価格設定が安いうえに、「GO TO トラベル」キャンペーンを併用するともっと安くなる。

 だったら、どうせ時間をかけて出かけるならば、ときには、職場に出かけるのではなく、都内の観光地のホテルに安く泊まって「ワーケーション」すればいいのではないか、と思いついた。「ワーケーション」ということばも、この時期、政府が強調していたことばだ。

 そんなわけで、ネットに接続して短時間で大量の仕事をしなければならないときには、ときどき東京都内の観光地のホテルに泊まって仕事をするようになった。そのうちに、仕事では「GO TO トラベル」は使ってはいけないということが強調されるようになったけど、要するに観光を組み合わせればいいのだ。

 だから、この時期には、まだ閑散としていた東京の観光地や、あんまり「観光地」とは思われていないところをよく歩いた。

 東京都在住なので、「東京の観光地なんていつでも行ける」と思ってそれまでほとんど行ったことがなかった。東京の観光地について、さらに言えば東京の地理についても私はうとかった。

 この「GO TO トラベル」で東京のいろいろなところを歩き回ったおかげで私は東京の地理にはそれまでより詳しくなった。消費拡大に貢献できたかということはべつにして、けっこう活発に「GO TO トラベル」させてもらったと思う。

 「GO TO トラベル」キャンペーンは終わった後も、まだホテルは「この立地でこの値段でいいの?」というほど安く泊まれたので、通信を使わなければならないまとまった仕事が来たときにはときどきその観光地のホテルに行って泊まって仕事をしていた。

 いま思えばぜいたくな生活をしていたものだ。

 ちなみに、『荒磯の姫君』シリーズの連載を開始して、「カクヨム」での現在のような活動を始めたのも、そうやって泊まったホテルでのことだった。

 そんなあるとき、やっぱり仕事を抱えて都内の観光地のホテルに泊まりに行った。

 ふとテレビをつけると、大事MANブラザーズバンドと「それが大事」の特集をやっていた。

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