85. 魔石を作ってみます
あの後、無事に広場で開くパーティーの計画が纏まった。
けれども、まだ問題も残っているみたい。
「移動して使える冷蔵庫があると食
私に視線を向けながら、問いかけてくる料理長さん。
「材料さえあれば作れますわ。
魔石の消費を増やして良いのでしたら、木箱でも効果はあると思いますの」
「では、お願いします。木箱は我々で用意します」
「分かりましたわ」
魔道具の材料になる金属の塊は用意してあるから、これを溶かして丸い板にすれば三分くらいで作れてしまう。
魔石のお陰で魔力を使わなくても魔導具を作れるようになっているけれど、感覚を忘れないように毎晩一つだけ魔導具を作っているから、それが冷蔵庫になるだけのお話。
ちなみに、最近は朝晩が冷えるようになってきたけれど、暖房の魔導具のおかげでお屋敷の中は上着を羽織らなくても快適に過ごせるようになっている。
こんなに贅沢な暮らしが出来るのも、どこかの誰かさんが魔物を呼び寄せてくれたお陰。
絶対に許すつもりはないから、少し複雑だわ……。
「魔石を使い切らないように、魔物の作り方も調べないといけないわね……」
「レイラなら、場所も決められると思うよ?」
「そんなに上手く出来るかしら?」
パメラ様が治癒魔法を使った時に現れる魔物は、私の近くや離れている場所、それから王都と散らばっている。
だから意図した位置に生み出す事は難しいはずなのだけど……。
「ここに魔物を出してみたらどうかな? もし場所を間違えても、僕がすぐに食べるから安心して」
「すぐって、どれくらいかしら?」
「一秒以内に必ず食べるよ」
「それなら、試してみるわ」
魔物を生み出す方法は簡単で、自分の利益だけを考えながら他人に治癒魔法をかけるだけ。
だからグレン様に軽い怪我をしてもらうことに決めたのだけど……。
「こんな時間に呼び出すなんて珍しいな。何かあったか?」
「魔石切れに備えて魔物を生み出す方法を調べようと思いましたの」
「自分の利益だけを考えながら、他人に治癒魔法をかけると魔物が出てくるんだったな。
俺以外でも大丈夫だと思うが……」
グレン様にはすっごく嫌そうな顔をされてしまった。
周りに迷惑をかけない事は理解してもらえたのだけど、私が持っているナイフが気になるみたい。
私の利益を考えながら魔法をかけたとしても跡は残らない。
でも、使用人達に痛い思いはさせたくないから、グレン様が適任だと思う。
身を守れるようにと鍛錬で痛みにも慣れたと言っていたのだから、指先をちょっとだけ切る程度、大丈夫だと思うのよね。
「グレン様は痛みに強いと自慢していらしたので、適任だと思いましたの」
「そうか……。
俺はその程度の価値ってことか?」
「ご自分の胸に聞いてくださいませ。
少し失礼しますわね?」
「そこは否定して欲しかった……。
自分で切るから、少し待ってくれ」
グレン様はそう口にすると、懐から取り出したペーパーナイフを腕に突き立てていた。
咄嗟に治癒魔法をかけそうになったけれど、何とか堪える。
これは私が魔石を得るための治癒魔法──心の中で何度も口にしながら治癒魔法をかけると、グレン様の傷が無くなった。
でも、起きたのはそれだけ。
瘴気が出た気配は無かったし、魔物が現れた気配もしない。
「失敗……ですわ。グレン様、痛い思いをさせてしまって申し訳ありません」
「ああ、気にしないでくれ。
しかし……五年前の傷跡も一緒に治るとは思わなかった」
グレン様がそう口にした直後のこと。
私は何かに思いっきり頭を殴られたような衝撃を受けた。
防御魔法のアクセサリーが発動しなかったら、頭が文字通り割れていたと思う。
「大丈夫か!?」
「ええ、何とか……」
何かと思って後ろを見てみると、大きな魔石が床に落ちていた。
「グレン様、これって……」
「魔物じゃなくて、魔石が頭の上に突然現れていた。きっと神がレイラの願いを聞き入れてくれたのだろう」
「
浮かれるグレン様だったけれど、侍女長のアンナが冷静に放った言葉のせいで、しゅんとしていた。
確かに頭に当たっているから怒りを買ったのかもしれないけれど、本当に怒りを買っていたら魔物が現れるはずなのよね……。
「グレン様、もう一回試しましょう!」
「ああ、もちろんだ」
真偽を確かめるためにもう一度、魔石の事だけを考えながら治癒魔法を使ってみたら、今度は私の目の前に魔石が現れた。
「次は当たらなかったな」
「もう一度、ですわ」
「分かった」
魔石の魔力を使って治癒魔法を使っているのだけど、魔石として出てくる魔力の方が多いから、時間さえあればいくらでも魔石を手に入れられるみたい。
でも、もっと沢山出てきてくれないと効率が悪いのよね……。
「神様! もっと魔石をください!」
「流石に無理だろう……」
「やってみないと分からないじゃないですか!」
もう一度試してみたけれど、結果は変わらなかった。
今はまだ大丈夫だけれど、どうにかして魔力を集める方法を探さないといけないみたい。
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