53. 失態があったようです

 あの後、私は侯爵位を授かることに決まった。

 最初は子爵位くらいだと思っていたから、提案された時は驚いたわ。


 ちなみに、女性を奴隷のように扱う事は皇帝が望んでいたことではなかったらしい。

 だから私に対しても普通に接して下さっている。


 問題は海に近い場所に領地を持つ貴族達と、その領民達。

 その辺りは女性を好き放題するために、権利を無くすような政治が行われていたみたい。


 私利私欲のための権力濫用で、その貴族達は全員罰せられた。

 領主が居なくなった土地は、今の公爵様が治めるらしい。


 私が授かることになったのは、帝都に近い差別が少なかった場所。

 今はその領都に来ている。


「ここは無事だったようだな」

「そうですわね。少し安心しましたわ」


 久々に馬車に乗って、前の領主が使っていたというお屋敷に向かう私達。


 今お話ししているのはグレン様だけれど、お父様もこの馬車に乗っている。

 ……御者台だけれど。


 ちなみに、この馬車は皇帝陛下から頂いたもの。

 馬はグレン様とお父様が乗ってきた子達らしい。


 でも、使用人は連れてきていないから、私達の誰かが御者をしないといけなかった。

 そんな時に、お父様はすぐに引き受けてくれたのよね。


「……でも、怪我をしている人が大勢いるみたいですわ」

「そのようだな。激しい戦いがあったのだろう。

 援軍が無かったのか、恨みを含んだ視線が気になるな」


 周りの様子を見て、そんなことを呟くグレン様。

 私も彼と同じことを感じていたから、領主のお仕事を上手くこなせるか不安になってしまう。


「話を聞いてみないと分かりませんけど……すぐにカストゥラ家に戻るのは難しそうですわね」

「そうかもしれないな。

 レイラなら明日には解決出来そうだが」


 そんなことをお話ししている間にこの町にあるお屋敷に着いたから、中に入っていく私達。

 当然のように屋敷の中は誰もいなくて、しんと静まっている。


 でも……。


「綺麗……ですわね」

「そうだな。本当に放置されていたのか、疑問だ」

「ええ、少し不気味ですわ」


 ……放置されていたはずの屋敷なのに中が綺麗で、私達は拍子抜けしてしまった。

 誰かの手が入っていることは間違い無いのだけど、誰なのか分からない。


 でも、その謎もすぐに解けた。

 外から子供の声が聞こえてきたと思ったら、玄関の扉が開けられたから。


「ねえ、秘密基地ってここなの?

 領主様の屋敷は入っちゃだめだよ」

「へーきへーき、誰も居ないから見つかりっこないって!

 俺達が掃除してるから、汚くないし!」


 子供達は私に気付かないまま、近付いてくる。

 そして男の子が段差につまずいた時、その子と目が合った。


 慌てて手を伸ばしたけれど、魔力を纏っていない今の私が間に合うわけなくて……。

 ごちん、と鈍い音が響いた。


「大丈夫!?」

「うわー、いたそー」


 女の子の方は駆け寄ったけれど、残る男の子達は他人事のように眺めているだけ。

 ちなみに、ここの床は石造りだから、今の打ち付け方だと危ないと思う。


「いてて……」

「前はしっかり見てよね!」

「ごめんごめん、でも大丈夫だから! ほら!」


 そう言いって飛び跳ねて、頭を押さえる男の子。

 どう見ても大丈夫じゃないのよね。


 それに……さっき私と目が合ったはずなのに、忘れている様子。

 早く治癒魔法をかけた方が良いと思ったから、私は子供達に近付いた。


「危なくないのか?」

「相手は子供ですわよ?」

「子供でも魔力を使えば力は出せるから、油断はしない方が良い」

「分かりましたわ」


 グレン様の助言通り、魔力を身体に纏わせながら。


「君、頭を怪我しているから動かないで」

「だ、誰!?」

「胸元の飾り、領主の証だ……」

「領主!? 私、乱暴されちゃうの!?」


 途端にパニックになる女の子を見て、色々なことが頭に浮かんでしまった。


 前の領主が子供に何かをしていたの?

 それとも、この辺りも女性の扱いが酷いの?

 そもそも、どうして同性の私が怯えられているの?


「何もしないから安心して。私は貴女の味方だから」


 床に膝をついて話しかけると、少しだけ落ち着いてもらえた。

 でも、まだ怖がられているみたいで、女の子は小さく震えてる。


「なんで領主様が居るんだよ!?

 また母さん達を連れて行くつもりか? 俺はそんな汚い男の命令なんか聞かないからな!」

「私、女だけど……?」


 声で分かると思うのに、子供達は私に強気の言葉をぶつけてくる。

 前の領主はかなり好き勝手していたみたいだけど、それと私が男だと思われることに関係は無いと思うのよね。


「レイラ、防具で声がこもってるから、分かりにくい」

「あっ……」


 そう思っていたけれど、グレン様に指摘されたから慌てて防具を外した。


「これで信じてもらえるかしら?」

「女の人……」

「もう母さん達が連れて行かれなくて済むのか?」

「ええ、もちろんよ。

 それより、先に怪我の治療をしても良いかしら? 頭、痛いのよね?」


 ようやく怯えが消え……グレン様とお父様が怯えの目で見られていたから、一旦奥に行ってもらって、私は男の子に治癒魔法をかけた。


「治癒魔法……?」

「奇跡の力、お話の中だけじゃなかったんだ……」


 子供達は私のことを受け入れてくれたみたいで、目を輝かせながら治癒魔法をかけるところを見ている。

 受け入れてもらえて良かったわ。


 グレン様からは嫉妬の視線が送られているけれど、気にしないことに決めた。

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