52. 狙われていました

「ちょっと、暴れないでよ!」


 掴みにくいから、頭から首に持ち替える私。

 下の方では私が優位に立っていることが分かったみたいで、攻撃魔法も止んでいる。


「何を言っても無駄だよ。黒竜は人の言葉を理解できないから」

「そうなのね……」


 面倒だから倒してしまいたいのだけど、帝国の人達に証拠を見せた方が良い気がしてきたのよね。

 その方が私が倒したと証明しやすくなるから。


 だから、黒竜を掴んだまま地面に降りていく。

 炎を吐かれると厄介だから、口は氷魔法と土魔法で固めて開けないようにしておいたから、大丈夫よね……。


「でも、剣で倒せるのかしら?」

「そのまま頭を握りつぶした方が早いと思うよ?」

「そんな力は無いわよ?」

「ふーん?」


 疑いを含む口調で首を傾げられてしまったけれど、地面はすぐそこ。

 だから、私は帝国の人達を見下ろしながら、こんな問いかけをしてみた。


「皇帝陛下はどこにいらっしゃいますの?」

「女に会う権利は無い!」

「大人しく俺達に従っておけばいいんだよ!」


 けれど、返ってきたのは嫌な言葉ばかり。

 すこしイラっとしたから、火魔法を構えながら問いかけ直してみる。


「皇帝陛下はどこかしら? 

 女だからって見下すのは構いませんけど、ここで黒竜を解き放つことも出来ますわよ?」

「だったら放てばいいだろ! どうせ黒竜はお前を狙う!」


 私の言葉なんか真に受けずに、嫌な視線を送って来る人達。

 その中から、何かを企んでいる顔をしている人を見つけたから、近付いて問いかけてみる。


「……私の手柄を横取りするつもりですの?」

「なっ……」


 図星、だったみたい。

 やっぱり、皇帝陛下の目の前で黒竜を倒した方が良さそうね。


 あまりやりたくないけれど、剣を突き付けて、声を低くして脅しをかけることにした。

 この人たちは、恐怖を覚えないと態度を改めないと思ったから。


「この場で死にたいみたいね? 黒竜の翼をボロボロにした魔法に貫かれるか、剣に貫かれるか、選びなさい」

「陛下の場所を教えますから、どうかお許しください……!」


 目を見てみたら、下心しか見えない。

 だから、私は雷の魔法で目の前の人を気絶させた。


 この程度の脅しは意味が無かったみたい。


「次は誰が良いかしら?」

「皇帝陛下は、城にいらっしゃいます。

 私が案内致します」

「ありがとう」


 でも、隠れていた長身の女性が出てきて、そう声をかけてくれた。

 彼女も奴隷扱いされているみたいで、家畜と同じ首輪をかけられている。


 本当にこの国の男性は酷いわ。


 あまりにも酷すぎて、そんな感想しか出てこなかった。



   ◇




 黒竜を引きずりながら立派な白いお城まで歩くと、私は敬礼で出迎えられた。

 さっきまでの物を見る目は一切無いけれど、怯えが混じっている。


「ようこそ、我が城へ。黒竜を無力化してくれた事、感謝します。

 そして、我が国民の非礼を詫びます。本当に申し訳ありませんでした」


 このお城も無事ではなくて、所々焼け落ちている。


「彼が皇帝です。私はこれで……」

「案内ありがとう」


 まさか皇帝陛下が自ら出てくるとは思わなかったわ。

 女性を蔑む国の長だから、さっきの人達よりも酷いと思ったのに。


 でも、どうして怯えの目で見られているのかしら?


「私、陛下に害を成そうとは欠片も考えていませんので、怯えないでください……」

「そう言われましても、その黒竜が生きている以上、怖いのです」

「では、この場で倒しますね」

「助かります」


 どういうわけか、私は敬語で対応されているから、少しやりにくい。

 敬われるようなこと、全くしてないのに。


 だからと言って、黒竜を倒さない理由にはならないから、魔力を纏わせた剣で黒竜の首を斬った。

 その瞬間、周りから歓声が上がる。


「黒竜を倒していただき、ありがとうございます。

 この御恩のお礼は、必ず」

「私はただの公爵夫人ですので、敬語は止めて頂けると助かりますわ。

 少し、違和感を感じてしまいますの」

「分かった。貴女がそう言うなら、我は普段通りの態度を取ろう」


 そう口にする皇帝陛下。

 黒竜の方はというと、魔力の気配も消えていて、無事に倒せているみたい。


 近くで見ていたグレン様とお父様も、歓声に交じって拍手を送ってくれている。

 なんだか恥ずかしいけれど、黒竜を倒す目標は達成出来たのよね……。


「此度は、我が国を救ってくれた事、感謝する。

 宣言していた通り、貴女には褒美を授ける」

「ありがとうございます」


 陛下の言葉に、頭を下げてお礼を言う私。

 今は褒美の事よりも、この場に居る怪我をしている人達の治療をしたいのよね……。


 私に敬礼を送っている人達からは見下す気配が無いから、治したい。



 さっきの人達……?

 近付くのも嫌だから、放っておくつもり。


 差別だなんて批判されるかもしれないけれど、差別をしていた人に言う権利は無いと思う。

 そもそも、嫌な人に対して治癒魔法を使っても効果はあまり出ないのよね……。


「それから……アルタイス卿、カストゥラ卿。

 助太刀、感謝する。貴殿のお陰で、我は命拾いした」

「我々は当然のことをしたまで。感謝には及びません」

「謙虚なのだな。だが、復興が終わったら褒美は山ほど用意する。覚えておいて欲しい」


 それから、私達は爵位のお話をするために、お城の中に通されることになった。

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