33. 風習を変えるようです

 あれからしばらくして、私はなんとか王城の周りの魔物を倒すことが出来た。

 パメラ様の回復魔法が止んでからは魔物が増えなかったから、あとは王都に残る魔物を倒していくだけ。


 でも、戦況が良くなったら、戦果を欲している貴族達が出てきて、私達は後方に下がることになった。

 本当に自分の都合しか考えていないみたい。


 王城を挟んだ反対側では、ずっと戦い続けていた貴族も居たみたいだけど、私が居る場所には居なかった。


「お貴族様ってのは、俺達平民をいざという時に守る代わりに権力があるんじゃなかったのか?」

「そのはずだが、今の貴族は自分さえ良ければいいらしいな。もう納税するのは止めて、隣国にでも移ろうかね」

「奥さんはどうすんだよ? 隣国って、女性が奴隷のように扱われるって……」

「抜け道を使うんだよ。

 俺だけの所有物ってことにしておけば、奴隷扱いされることは無くなる」


 そのせいで、貴族への愚痴や不満が溢れているけれど、中には使えそうな情報もあった。

 私の家が王家から消されそうになっている今の状況では、この情報はすごくありがたい。




 王都で暮らしているみんなの今後が心配だけれど、ここに残る理由は無いから、パメラ様が魔物の原因になったという噂だけ流してから、ブランの背中に乗って王城を後にした。


 この噂が広まれば王家も無視できなくなるはず。

 魔物が現れたタイミングがパメラ様が治癒魔法を使っている時間に重なっていることも分かるはずだから、治癒魔法が使われることも無くなるはずだわ。


 この時に現れる魔物に手を出さなかったら素通りされることも広めたから、権力を持たない人たちが怪我をすることも無いと思う。


「やっぱり、少し心配だわ。本当に守ってもらえるかしら?」

「レイラの言葉を信じなかった人は、怪我をしても自業自得だよね。

 だから気にすることじゃないと思うよ」

「そうよね。そう思うことにするわ」


 そんなことを話しながら、家に戻る私達。

 空から見ていると魔物はまだたくさん残っていたけれど、家の周りは綺麗に居なくなっていた。


「ただいま戻りました」

「お帰り。遅かったから心配したわ」

「ごめんなさい。怪我をしている人を見ていたら、見過ごせなくて……」

「それなら仕方ないわ」


 屋根の上でお母様と言葉を交わしてから、今度はお父様に向き直る。

 これから話すのは、私の家族だけじゃなくて、使用人さん達の人生も変えるかもしれない大事なこと。


 だから、すごく緊張してしまう。


「お父様。大事なお話があります。

 最近の魔物の原因がパメラ様だったことが分かりました」

「そうか。薄々、そんな気がしていたが、嫌な予感ほど当たるものだな」


 言葉にしたら、張りつめていたものは和らいでいって、私が王宮で見たことを細かく話すことも出来た。

 そして、お父様はしばらく考え込んでから、こう口にした。


「王族がパメラ様の振る舞いを知らないとは思えない。

 つまり、平民を切り捨てるのは、王家の方針だということだ」

「……反乱が起こりますわね」

「時間の問題だろうな。だが、領民達を危険な目には遭わせたくない。

 そこでだ。隣国で爵位を得ようと思う」


 もう何度か出てきた話だけれど、私達は息をのんだ。

 私達が暮らしている国が唯一国境を接している国では、女性の扱いがとにかく酷いから。


「爵位を得たら、領地のこと自由に治められる。

 女性の扱いが酷い風習も、領地を持てば法で変えられるはずだ。これは王国では知られていないが、今の皇帝は皇女達の扱いを良くしようと躍起になっている」

「その流れに乗れば、風習に打ち勝てるかもしれませんわね」

「計画としては、まずは私が爵位を得られるような功績を出す。

 その後、みんなで移住しようと思っている」


 そこで言葉を区切るお父様。

 意見を求めるようにして、周りに視線を巡らせると、使用人さん達からは賛成の声が上がった。


 家で雇っている使用人さん達は、みんな領地の生まれだから、これは領民達の意見でもある。


「では、計画を実行に移そうと思う。

 爵位は私一人で手にして見せる」


 だから、お父様はすぐに計画を実行に移す決意をしていた。




    ◇




 あの後、私はブランの背中に乗せられるだけの荷物を持って、公爵邸に戻った。

 王都にある屋敷は放置することになるから、どうなるか分からないのよね。


 思い出の物だったり、まだ持ち帰れていなかった魔道具だったり、馬車一台分くらいある。


 そんな量の荷物をいきなり持ち帰ったものだから、公爵邸の侍女さん達にはすごく驚かれた。


「ご無事でよかったです。

 ところで、その荷物は一体……?」

「全部自分で運ぶから気にしないで」

「今は手が空いてるので、お手伝いしますよ」

「それなら、お願いしても良いかしら?」


 侍女さんにそう言ってから、グレン様の姿を探す私。

 そんな時だった。


「レイラ、家族は大丈夫だったのかな?」


 大勢の私兵を引き連れたグレン様が屋敷から出てきて、声をかけてきた。

 私の無事を確認してから私兵達に戻るように指示を出していたから、私を助けるために急いで編成したみたい。


「はい。使用人達も無事でしたわ。

 ご心配おかけしました」

「良かった。そろそろ俺は執務に戻る」


 それだけ言って、玄関に戻っていくグレン様。

 心配はしてくれているみたいだけど、なんだか冷たい気がするわ。


 心配してもらおうだなんて思っていかったのに、どうして胸が苦しくなるのかしら……?


「グレン様、今は冷たくされてますが、奥様のことを心配しすぎるあまり、何も手につかない状態でしたわ」

「妻のことを心配して何が悪い!?」


 ……そう思ったのに。

 恥ずかしそうにするグレン様を見ていたら可笑しくて、不安はどこかへ行ってしまった。

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