31. 欠陥魔法でした
「申し訳ありません。これ以上は無理です……」
屋根に手をついて、息を切らしながら口にする使用人さん。
これ以上魔力を使うと命に関わるから、お母様が後ろに控えるように指示を出した。
魔道具を使って魔物を攻撃できる使用人さんは、これで十二人だけになってしまった。
でも、魔力を使わなくても攻撃する方法はあるのよね。
「ブラン、魔石を集められないかしら?」
「分かった」
公爵邸で試した時のように、攻撃魔法の魔道具に魔石を触れさせたら、魔力を使わずに攻撃できるはずだわ。
それに、この方法が上手くいけば、魔物が居る限り魔法を使い続けられる。
ブランの魔力が心配だけれど……。
「ブラン、魔力は大丈夫かしら?」
「うん。尽きそうになったら魔物を食べて回復するよ」
「そんなこと出来たのね……」
ブランが魔物を食べている姿はあまり見たくないけれど、まだ耐えられそうだから、希望が見えた気がした。
「魔石はこんなものでいいかな?」
「ええ、ありがとう」
宙に浮いている魔石を受けるための箱を庭から持ってきて、そこに入れてもらう。
ちなみに、ここの屋根は平らになっているから、物を置いても転がり落ちたりはしない。
「みんな、こんな風に魔石を魔道具に触れさせたら、魔力を使わなくても攻撃出来るわ!」
「分かりました!」
「これなら魔物が居なくなるまで戦えます!」
私も魔力の温存のために、魔道具を使って攻撃していく。
倒しても倒しても、魔物が押し寄せてくる絶望的な状況。
それでも、みんな希望は捨てていない。
ブランは魔石集めに専念して、私達で魔物を倒していく。
この様子だと王城も酷い状況だと思うけれど、今は私達の身を心配した方が良いわよね。
王城には聖女になったパメラも居ることだから、きっと大丈夫だわ。
「旦那様。魔物の動きですが、王城の方から押し寄せてきているように見えます。
考えたくないですが、誰かが魔物を生み出している気がします」
「言われてみれば……。
確かに王宮の方から来ている魔物も居るな」
ふと、そんな会話が耳に入ってきた。
確かに、王宮の方からも魔物が押し寄せてきているのよね。
でも、本当に王宮から来ているのかは分からない。
「レイラ。この状況なら、我が家は大丈夫だろう。
少し、空から様子を見てきて欲しい」
「分かりましたわ」
頷く私。
もし王宮の中で王都の人達が襲われていたら、私は見過ごすことは出来ないと思う。
だから、髪を丸くまとめて、帽子の中に押し込んでからブランの背中に乗った。
魔法を使ったら正体がバレると思うから、今回は剣で戦った方が良さそうね。
こういうことは、事前に決めておくと粗が出にくい。
だから、行動を頭の中に入れてから、ブランに飛んでもらった。
あっという間に地面が遠くなって、王都を見渡せるようになる。
一目で、魔物が王城の周りに現れていることが分かった。
近付いてみると、見覚えのある人の魔力が漂っている。
「ここが一番外側なのね……」
「レイラ、ここに長居はしない方が良いと思う。
誰の魔力かは知らないけど、禍々しい気配がするんだ」
この魔力は、パメラ様のもの。
けれども、聖女にされるような人物が魔物を生み出す原因になるとは……。
思いたくないけれど、あの選ばれ方だとあり得るのよね。
「治癒魔法を使う時に、こんな魔力を振りまいているのかしら?」
「そうかも……。治癒魔法は、扱いを誤ると……魔物になる魔力を振りまくことになる。
レイラは大丈夫だと思うけど、自分の欲求のために使うと、こうなるんだ」
「そうだったのね……」
ブランの言葉が本当なら、パメラ様は地位や名声、褒章のことを考えて治癒魔法を使っていることになる。
私は今まで、誰かを救う気持ちで使っていて、見返りのことなんか考えていなかったけれど……。
「どうして、こんな風になるのかしら?」
「それは僕にも分からない。
きっと、神が正しく使うことを求めているのかもしれないね」
「そうだったのね……」
「愚かな人間が魔物に食われて死ぬことを望んでいるんだよ。きっと」
魔物から手が届く場所に居るけれど、この辺りの魔物は私達を襲おうとはしていない。
でも、ここに収まり切らないから、我先にと外側に向かおうとしているようにも見える。
だから、ブランの言葉は本当のように思えた。
「この魔力の中に入ろうと思うのだけど、大丈夫かしら?」
「取り込まなければ大丈夫だから、必ず魔力を纏ったままにしてね」
「分かったわ」
神様の考えていることは分からないけれど、治癒魔法を他人に使う時は、その人のことを考えないといけないみたい。
過去の聖女様は揃って、治癒魔法を必要としている人のことを思って、魔法を使っていたのね。
「準備は良いかな?」
「ええ、お願い」
短く答えると、ブランは小さく翼を動かして、王城の方にゆっくり動き出した。
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