30. もう仕えません
「そろそろ昼食の時間ね。みんなも一緒に食べるかしら?」
時計を見てから、そう問いかける私。
侍女さん達は全員頷いていたから、そのままみんなで昼食をとることにした。
けれども、ダイニングを目の間にした時だった。
「奥様、王都から知らせが入りました。
パメラ様の意識が戻ったそうです。パメラ様自身の治癒魔法で、怪我も全快したとのことです」
「そう、分かったわ」
そんな知らせが届いて、少しだけ安心する私。
パメラ様が回復したということは、私の治癒魔法の存在が知られても大事にならない。
だから、治癒魔法のことを隠さなくても大丈夫なのよね。
死んだことになっているのは変わらないから、正体は明かせないけれど、今までよりも少し自由に出来ると思っていた。
「大変です! また魔物の大群が!
王都が包囲されています!」
……もう一つの知らせを聞くまでは。
「包囲されたの? 私の家族は大丈夫かしら?」
「いえ、全く分かりません。この手紙が玄関に刺さっていただけですので、悪戯の可能性もあります」
そんな言葉と共に差し出されたのは、私のお母様の字で書かれている手紙だった。
きっと、風魔法でここまで飛ばしてきたのね……。
お母様の魔力も感じられるから、間違いないわ。
『城壁が突破されました。
王都が壊滅するのは時間の問題です。
どうか、娘をよろしくお願いします』
『レイラ。
この手紙を見ていたら、今すぐに助けに来て』
お母様から助けを求められた。
そう理解したら、身体が勝手に動いていた。
「みんなごめん。少し王都に行ってくるわ。
必ず帰ってくるから、心配しないで」
そう言ってから、部屋に走る。
剣を持手に取って、ブランの背中に飛び乗った。
「奥様、必ず戻って来てください!」
「戻ってこなかったら怒りますから!」
「分かったわ! ブラン、出来るだけ急いで」
見送ってくれる使用人さん達に手を振ってから、ブランに指示を出す私。
「しっかり掴まって」
「うん」
いつもと違う気配を感じたから、魔力を身体に纏わせながら背中にしがみ付く。
直後、ものすごい勢いで身体が引っ張られた。
普段は空を飛んでも一時間くらいかかる距離なのに、今回は一分ほどで王都にある私の家の屋敷の真上に着いていた。
下を見ると、屋根の上から魔物と戦っているお母様達の姿が見える。
周りが魔物に埋め尽くされているのに、家の敷地には魔物の侵入を許していない状況になっている。
この数を相手に、使用人さん達も総出で戦っている。
でも、魔力は無限ではないのよね。
魔力切れになると、どうなるかは簡単に想像できてしまう。
近くにあるパメラ様の家――アルフェルグ邸が炎に包まれているように、思い出が詰まったこの屋敷も……。
そんなのは嫌だから、私も屋根に降りて、魔物の攻撃を防ぐために魔法を使った。
「お母様、お父様。魔力は大丈夫ですか?」
「あと一時間で限界よ」
「使用人達はもう戦えなくなる」
「分かりました。その分、私が行ってきます」
数が多すぎるから、魔力を使う魔法は温存した方が良さそうね。
こういう時は、身体に魔力を纏った方が長く戦える。
魔力を纏うだけなら、一切消費しないのだから。
みんなも出来ればいいのだけど、今は私しか使えない。
「ブラン、どの辺が多そう?」
「門が狙われてる!」
「分かったわ。ありがとう」
魔物が一番多いらしい門の外側に降りて、剣を振るっていく。
身体を動かすと疲れてしまうから、魔力で身体を動かしているのだけど……。
「多すぎるわ……」
どんなに剣を振っても、数えきれないくらい倒しているのに、魔物の壁は消えない。
「周りに人はいないみたいだよ。
あの城には沢山いるけど」
「みんな魔物に……?」
「少し探してみたけど、死体は無かったよ」
少し違和感を覚えた。
でも、人が居ないなら都合が良いわ。
この一直線になっている道の魔物を、ブランの攻撃で全部倒すことが出来るから。
「それなら、この道をお願い!」
「隙になるから、援護お願い!」
「分かったわ」
私の横に降りてきたブランが攻撃されないように、魔法を使って近くの魔物を攻撃していく。
それから少しして、道幅いっぱいの光の筋が放たれた。
「反対側も出来るかしら?」
「もちろん!」
反対側も同じように、魔物が跡形も無く消えていった。
道は少し焦げているけれど、他に被害は出ていない。
だから、状況を知るために、一度屋根の上に戻る私。
「どうしてお母様達はここに残っているのですか?」
「見捨てられたのよ。
周りには避難命令が出てるのに、この屋敷には防音の魔法が張られていて、異変に気付けなかったの」
「恐らく、例の聖女とやらの差し金だ。治癒魔法を全員が扱える我が家が邪魔だったのだろう」
「……こんな事になるなら、治さなければ良かったわ」
詳しく聞いてみると、お母様はパメラ様の怪我を治すために王宮に連れていかれたらしい。
そして、大金を対価に、怪我を治したみたい。
でも、それは罠だった。
タイミングよく襲ってきた魔物の大群を利用して、この世から消されそうになっているみたい。
「もう、この国に仕えるつもりは無い。
余裕が出来たら、隣国に移ろうと思う。例え女性蔑視が激しくても、私が領主になれば問題は無い」
「分かりましたわ。私も、契約が終わったら、追いかけます」
「待っているわ」
そんな言葉を交わしていたら、ついに使用人さん達の魔力が切れ始めてしまった。
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