27. 村を救います

 あの後、無事に夕食を終えた私は、新しく二つの魔道具を作った。


 一つは水を生み出す魔道具。

 もう一つは、水の流れを作る魔道具だ。


 この二つと大きな樽を組み合わせると、便利な物が出来上がるのよね。


「奥様、これは一体……」

「あ、危ないから手は入れないで」


 樽の中で渦を巻く水の中に洗剤と汚れてしまった服を入れる私。

 一緒に居るカチーナは、じっと様子を見ていた。


「これ、服が傷みませんか?」

「手でこする方が傷みやすいわ」


 これは私が家に居る時に作ったものと同じ魔道具で、侍女さん達からは「洗濯機」の名前で大切にされていた。

 本当は金属で作った筒に付けるべきなのだけど、そんな都合の良い物が無かったから、樽を代わりに使っている。


 樽だとそのうち破裂してしまうから、外側を私の氷魔法で固めてあるけれど。


「そうなんですね……。もしかして、一度作られたことが?」

「ええ。家で作って、実際に使っていたの」

「なるほど。だから迷わずに組み立てていたんですね」

「他にも色々あるから、楽しみにしてて」


 ちょうど水が汚れてきたから、一度魔道具を止めて、魔法を使って綺麗な水に入れ替える。

 家にあるものは底に穴が開いているから、手間のかかる魔法を使う必要は無いのだけど、これは試作品だから出来ないのよね。


「水が急に綺麗になりましたけど、これも魔道具ですか?」

「今のは私の魔法よ。でも、しっかりした形になったら、魔法を使わないで入れ替えられるようになるわ」

「どうするのかは分かりませんが、楽しみにしてますね」


 水を満たしたから、水の流れを起こす魔道具に魔力を流す。

 すると再び渦が出来て、服が回りだす。


 じっと眺めていたら目が回りそうだけれど、カチーナは大丈夫なのかしら?


「これ、目が回りますね……」

「ここで良いから、座れるかしら?」

「はい……。ありがとうございます」


 ……大丈夫じゃなかったわ。


 でも、介抱している間に良い感じになったから、魔道具を止めて服を取り出す私。

 広げてみると、元通りの真っ白な服になっていたから、用意しておいた紐に干した。


「この短時間で綺麗になるんですね!」


 目を回していたカチーナが復活して、洗った服を見て目を輝かせている。

 明日、侍女さん達がどんな反応をするのか、少し楽しみだわ。


 洗濯機の確認を終えてからは、普段通り湯浴みを終えてからベッドに入った。




 翌日。

 私はブランの背中に乗って、カストゥラ領の北東に向かっていた。


 もちろん私だって分からないように、帽子と昨日買ったワンピースで偽装している。


 目的は、魔物の大量発生の原因を探ること。

 突然襲ってくるのだから、夜が怖いのよね。


 ブランが起きている間は襲撃前に気付けるけれど、それ以外に襲われたら大変なことになってしまう。


「今日は魔物が少ないね」

「全く見てないのわ。何かあったのかしら?」


 けれども、魔物には一切遭遇しないで、領地の半ばまで来てしまった。

 途中で通り過ぎた町も魔物に襲われた気配は無くて、不気味に感じてしまう。


 ちなみに、グレン様は今日も領地の視察と言って、朝早くに屋敷を出ている。

 どうして視察を何度もしているのか不思議なのよね。


 魔物のことが分かったら、グレン様の視察についても調べようかしら?

 

「魔物、居たよ」

「え……?」


 考え事をしていたら、いきないり声をかけられて、間抜けな声を出してしまった。


「あの村の中」

「中!? 急いで!」

「分かった!」


 村の中なら、急いで助けなくちゃ。

 そう思うよりも早く、私はブランに声をかけていた。


 みるみると迫る地面。

 そして、立派な角を持つ魔物の姿。


 遅れて、怪我をして倒れている人の姿も見つけた。


 魔物の数は一体だけ。

 けれども、十人で囲っても中々倒せないほど強い相手らしい。


 今すぐ魔法で助けたい。

 でも、少しでも手加減に失敗したら、周りのみんなを巻き込んでしまう。


 だから、念のためにと持ってきた剣を手にとって、魔物の目の前に降りた。


「みんな大丈夫?」


 魔物の角が迫ってきているから、剣で防ぎながら呼びかける。

 私の元々の体力だと身体ごと弾き飛ばされている攻撃だけれど、今は魔力を纏わせているから何事も無かった。


 魔力の使い道は、魔法だけでは無いのよね。


「お嬢ちゃん! そこは危ない!」

「大丈夫! 貴方は怪我した人を連れて離れて!

 巻き込んでしまうから、すぐに!」

「分かった。

 死ぬなよ」


 こういう時、他所の領地だと私を守ろうとして寄ってくる人が多いのだけど、この人たちは大人しく聞いてくれた。

 だから、そのまま剣を振るって、魔物の角を切り落とす。


 すごく硬い角でも、魔力を纏わせた剣を使えば簡単に斬れるのよね。

 魔物にとっては予想外だったみたいで、一瞬だけ動きが止まる。


 その隙に、私は魔法を放った。


 魔法を放つ瞬間は隙になってしまうから、こういう時は少し大変だわ。

 でも、無事に倒せたみたいで、黄色の輝く魔石が音を立てて地面に落ちた。

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