26. 休暇を作ります
「……ということで、侍女の妊娠が分かったから、給料をそのままに休暇を取らせようと思いますの。
宜しいでしょうか?」
一応、侍女さん達を雇っているのはグレン様だから、提案という形で問いかけてみる。
私に宝石をプレゼントする余裕があるなら、これくらいの出費は大したことではないはずだから。
ちなみに、この休暇制度は私の家ではお母様が私を身籠ってから作られていて、そのお陰か侍女が離れることも無かったのよね。
「……妊娠中は、初期でも休まないといけない程なのか?
その辺りのことを教わっていないから、教えて欲しい」
けれども、グレン様には赤ちゃんがお腹にいる時の大変さを知らないみたい。
でも、素直に相談してくるのは、流石だと思った。
中には分からなくても自分の考えだけで突き進む人もいるのだから。
「もしグレン様に愛する方が出来たとして、その方が懐妊したら、無理をさせられますか?」
「無理だな。
なるほど、そういうことか」
問いかけ方を工夫してみると、グレン様は少し考えてから、そんな風に答えてくれた。
私との契約が終わってから、彼は家族を幸せに出来るような気がするわ。
「はい。
ですが……一人だけだと贔屓になってしまうので、妊娠している侍女には一律で休みを取らせようと思いますの」
「なるほど。良いだろう」
「ありがとうございます!」
私が頭を下げるよりも早く、お礼を口にする侍女さん達。
遅れてお礼を口にすると、グレン様はこんなことを付け加えた。
「これからは侍女の待遇についてはレイラに任せても良いと思っている。
レイラがこの屋敷に来てから、侍女の雰囲気が格段に良くなった」
そこで言葉を区切って、爽やかな笑顔を向けてくる彼の行動に、戸惑ってしまう。
触れたりはしていないけれど、ここから離れられない。そんな気がした。
「……レイラが侍女達のためにと、色々やっていることは知ってる。
そして、全ていい方向で効果が出ているようだから、レイラ以外に適任な人はいない」
私を持ち上げてもらえるのは嬉しいけれど、そんな重役が私に務まるとは思えない。
でも、これも三年間のお仕事のようなものよね?
そんな風に考えたら、少し気持ちが楽になった。
「分かりました。では、侍女の待遇は私が決めますね」
「助かる。正直、そこまで手が回っていなかったんだ」
「そうでしたのね……」
グレン様は領地に関することは優秀と聞いていたけれど、それでもお屋敷の中は疎かになっていたみたい。
本音では、お屋敷に関することは全て私に丸投げしようと思っていたみたいだけど、それでは私が自由に動けなくなるから、丁重にお断りした。
そんなことがあって少し席を外している間に、机の上には見慣れない紙が何枚も置かれていた。
グレン様から一旦離れて、紙を指差しながら問いかける私。
「これは何かしら?」
「奥様に似合いそうな装飾品をみんなで考えていたんです」
すると、そんな答えが返ってきた。
たまに着飾るのは良いのだけど、このデザインの量は厳しいわ……。
「こんなにたくさん……? 流石に全部は無理だと思うの」
「これくらいの出費で公爵家のが傾くようなことは起こりませんから、心配しないでください!」
「そのお金があるなら、みんなのお給料を増やしたいわ」
「もう十分すぎるくらい頂いていますから!
それに、これは奥様が社交界に出られた時に、見下されないようにするためにも大切なのです」
私が少し後ずさりながら、何とか阻止しようとしても、返ってくるのは私の思い通りにならない言葉ばかり。
質素な装いをしていると社交界で見下されるというのはよくあるお話。
だから、もし私が公爵夫人という立場で社交に出ることになったら、王家の方々を超えず、侯爵家の方よりは豪奢に着飾るべき……ということになる。
その機会は……私が公爵夫人で居られる間に訪れることは無いと思うけれど。
でも、備えあれば憂なしと言うから、侍女さん達の言いなりになった方が後悔はしない気がした。
「そういうことなら、どれか三つくらいに絞ってもらえると助かるわ。
こんなに沢山あっても、全く着けない物が出てしまうもの」
「それなら、投票にしましょう!」
それから侍女さんやグレン様によって良さそうな案が三つに絞られて、それを元に宝石商に依頼することに決まった。
ドレスとワンピースの方は三日で完成するみたい。
宝石は少し時間がかかるそうで、一週間と言われた。
今日の打ち合わせはこれでお開き。
外を見ると、すっかり日が落ちていたから、私はグレン様と食堂に向かった。
「お待たせしました」
「ありがとう」
私達が座って待っていると料理が運ばれてきたから、お礼を口にする私。
今日はグレン様も一緒だから、侍女さん達は今まで通り、裏で食事をとるらしい。
だから、私の話し相手はグレン様しかいないのだけど……。
「今日もお疲れさまでした。
領地の方はどんな状況なのですか?」
「魔物の襲撃が増えた以外は、普段通りだ。
今年は豊作だという話だから、魔物に荒らされない限りは大丈夫そうだ」
「そうでしたのね。順調そうで安心しましたわ」
彼の趣味が分からないから、領地のことを問いかけて会話を作ろうとしてみる。
もしも沈黙が続いたら、すごく気まずいことになってしまうから。
「今のところは、だ。
レイラの家の領地は大丈夫なのか?」
「はい。領地にある屋敷の周りには魔物が何故か寄り付かないので、問題ありませんわ」
誰にも言えないことだけれど、私の家には魔物を寄せ付けないための儀式魔法が代々伝わっている。
だから、私の家の領地に唯一ある町が魔物に荒らされるなんて事は起こらない。
ブランでも近付けないほどの効き目だから、一緒に帰れないのは少し寂しいけれど。
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