8. 建前でした
抵抗しても痛い目に遭うだけだから、大人しく騎士さんの言う通りに馬車に乗った。
この馬車は牢屋みたいになっているから、逃げるのは難しそうね。
ここで逃げたら、罪を重くされるだけだから、もし逃げられてとしても実行はしないけれど。
でも、外が全く見えないから不安になってしまう。
騎士団以外の同行は認められないみたいだから、グレン様が迎えに来てくれることも無いと思う。
だから屋敷で待っているようにお願いしたのだけど、これは裏を返せば誰も助けに来てくれないことになる。
不安でお腹が痛くなってきたわ……。
真っ暗だから何も出来ないし、時間が分からないからどれくらい離れたのかも分からない。
起きていても不安で気分が悪くなってしまう。
だから、私は寝ることにしたのだけど……。
「無理だわ……」
こんな状況で眠るなんて、出来なかった。
そんな時。
馬車が止まって、扉が開けられた。
「降りろ」
促されるままに馬車を降りる私。
その直後、私は突き飛ばされてしまった。
ここは崖の上だったみたいで、遠くに見える地面と魔物の群れが近付いてくる。
王都からの追放は建前で、私を殺すつもりだったのね……!
幸いにも私は風魔法を使えるから、自分の身体を上に向かって吹き飛ばすことで空を飛ぶことが出来るのだけど、あの突き飛ばし方はどう考えても私を殺そうとしていたわよね?
陛下の指示なのか、パメラ様の指示なのか、それとも騎士団の独断なのかは分からない。
でも、もう騎士団も王家も信用できないわ。
私やグレン様を騙しているのだから。
馬車に乗せられた時は明るかったけれど、今はすっかり日が落ちてしまっている。
夜は魔物が一番活発になる時間だから、一人で居るのはだわ。
でも、着地出来た場所は魔物の群れの真ん中。
もうダメかもしれないわ。
そう思ったのだけど、どういう訳か魔物達は逃げ出した。
私、何もしてないのだけど?
「……けて。たすけて」
子供の声……?
こんな何もない森の中で?
声がした方向を光の魔法で照らしてみても、人影は見えない。
でも、声はこの方向から聞こえているわ。
ゆっくり進んでみると、ボロボロになってうずくまる小さな白い鳥が目に入った。
声はこの鳥から聞こえているみたい……。
鳥から人の言葉が聞こえてくるだなんて、私は相当疲れているのね。
「助けて!」
「……もしかして、気のせいじゃないの?」
「気のせいじゃないから! お姉さん、治癒魔法とか使えない?」
「使えるわ」
必死そうな声色で言われたから、すぐに治癒魔法を使った。
けれども、なかなか鳥の怪我は治ってくれない。
よく見たら、片方の羽を食い千切られたみたい。
それでも生きているだなんて、この子の生命力はすごいのね。
全力で魔法を使わないと、治せないかもしれないわ。
そう思って、魔力を半分くらい使ったら、小さな鳥の羽が元通りになっていた。
「ありがとう。お姉さんのお陰で助かったよ。
名前を教えてもらえないかな?」
「私……? 私はレイラよ」
「レイラ。良い名前だね」
久々に魔力を沢山使ったからかしら? それとも、もう夜中だからかしら?
突然襲ってきた眠気に耐えられなくなって、私は意識を手放した。
◇
「おはよう、レイラ」
「うう……」
目を開けると、青空が見えた。
どうやら、私は地面の上で眠ってしまっていたらしい。
昨日助けた小さな鳥の声はするけれど、姿が見えない。
起き上がって周りを見てみると、巨大な何かが目に入った。
「な、何よこれ……?」
「僕のことかな?」
「喋ってるの、夢じゃなかったのね……」
驚いて後ずさると、巨大な何かが竜の形をしていることに気付いた。
全身を真っ白な鱗に覆われている、美しい竜。
そして、その後ろには魔物の死体が積みあがっていた。
「あの、今ってどういう状況かしら?」
「レイラが目を覚ますまで、魔物が沢山襲ってきたよ。
こんなところで眠るなんて、不用心すぎるよ」
あれは全部、私を襲おうとした魔物らしい。
この白い竜が守ってくれたのかしら?
でも、竜というのは国に災いをもたらすほど危険な魔物とされていて、生まれたことが分かると国を挙げての討伐体が編成される。
そのどれもが真っ黒な鱗に覆われていて、どんな剣でも貫くことは出来ない。
前回竜が襲撃したのは、聖女様がいらっしゃる時で、聖女様の魔法によって討伐された。
それいら竜は生まれていなかったのだけど、まさか小鳥が竜だなんて思わなかったのよね。
でも、私を守ってくれていたみたいだから、悪い竜ではないのかもしれないわ。
「ごめんなさい。守ってくれてありがとう」
「どういたしまして。ところで、どうして貴女のような人がこんな山奥にいるのかな?」
「王都からの追放を言い渡されされて、そのまま崖から突き落とされてしまったの。
だから、ここがどこなのかも分からないわ」
馬車に乗っている時、外を見ることなんて出来なかったから、ここがどこなのか分からない。
周りに見えるのは山だけで、目印なんて無いから覚えている地図もこれっぽっちも役に立ってくれないのよね。
だから、私も白竜さんも困り果ててしまった。
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