7. 聖女の言いなり
「何故ですか?」
待ったく聞く耳を持たれなかったことに驚いたのか、そう問い返すグレン様。
直後に国王陛下が口にしたのは、私達が効いたことの無い衝撃的なものだった。
「妻として迎え入れた令嬢が罪人というのを受け入れたくない気持ちは分かる。だが、今回は毒殺の証拠がある。
それに、パメラ嬢は癒しの力を持っていて、先日の流行り病から多くの者を救った実績がある」
「では、その証拠を出してください」
「良いだろう。
これが集まった証言だ」
そう口にしながら、紙の束をグレン様に差し出す陛下。
どうやら私が捕らえられることになったのは、全て証言を元にした証拠かららしい。
物としての証拠は残っていないから、きっとパメラ様に言われて私を罪人に仕立て上げたのね。
「パメラ嬢は聖女として保護していくことに決まっている。聖女は民を救う存在だから、王家としては護る必要がある。
魔物を防ぎ、民を病から救い、時には強力な魔法の力をもって魔物を倒す。これの重要性が分かれば、レイラ嬢の大切さが分かるはずだ」
そう口にする陛下からは、不思議な魔力の気配がする。
誰かに魔法をかけられているのかしら? でも、こんな魔力の変化をする魔法を私は知らない。
ちなみに、魔法の力で言えば私の方がパメラ様よりも上のはずだから、パメラ様が聖女として扱われることは不思議で仕方ない。
私は全ての属性の魔法を扱えるけれど、パメラ様は風魔法が風魔法が扱えない。
でも、瞳の色が金だから、光魔法に一番長けていることになるのよね。
癒しの力は光の属性になるから、もしかしたら治癒魔法が長けていることで聖女になっているのかもしれないわ。
そうだとしたら、私に勝ち目はない。
「そうですか。陛下の意思は分かりました。
ですが、レイラを処刑した暁には、こちらにも考えがあります。このことを表に出すことも許しません」
グレン様もそのことを理解しているみたいで、交渉して私の刑罰を軽くすることを選んだみたい。
この状況になったら、言い渡された刑を受け入れることしか出来ないのに、交渉してくれるのは嬉しかった。
下手をすればグレン様も反逆罪で断罪される危険もあるのに……。
「では、レイラ・カストゥラは王都から永久追放とする。
今後王都に立ち入ったら、即刻処刑する」
「それなら受け入れましょう」
私に目配せしながらの発言だったから、グレン様に向かって軽くうなずいて、受け入れる意思を伝える。
けれども、拘束を解かれることは無かった。
「国外追放の際、騎士団以外の同行は禁止する」
どうやら、私は一人で運ばれていくらしい。
一応、私が断罪されたことは公にならないことは約束されたのだけど、玉座の間の後ろの方にある扉からパメラ様が嫌な笑みを浮かべて様子見てきていることに気付いてしまった。
一体どうして私を恨むのか、理解に苦しむわ。
でも、私が王都追放を告げられた時、パメラ様は喜んでいる様子だった。
「レイラ、必ず迎えに行くから待っていてくれ」
「場所が分からないと思うので、グレン様の領地の屋敷で待っていてください。必ず行きますから」
「分かった、待っているよ」
グレン様にそう言われて、頷く私。
それから私は玉座の間から出ることになったのだけど、パメラ様とすれ違う時、こんなことを言われた。
「もうすぐ死ぬのに、よく明るく振舞えるわね? 稀代の悪女様」
悪女という言葉がピッタリの表情を向けながら投げかけられた言葉は無視して、私は足を進めた。
パメラ様のような人が聖女になれるだなんて、先代の聖女様に対する
先代の聖女様――私が生まれるよりもずっと前に王国を救った伝説のお方は、魔法の才能を取っても性格を取っても、とにかく優れているお方だったらしい。
聖女様に関する記録は色々と残っていて、私も何度も目にしている。
それによれば、容姿は私と同じ髪と瞳の色をしていて、小柄な体格だったらしい。
魔法はどんな魔物でも倒せるほど強力で、ひとたび流行り病が起きれば民のためにと辺境の地であっても駆けつけていたらしい。
貴族からも民からも愛されていた聖女様だけれど、最期は残酷なものだったらしい。
聖女になり損ねた同い年の令嬢に襲われて、殺されてしまったらしい。
もちろん、その令嬢は処刑された記録が残っている。
ちなみに聖女様が亡くなってから、王国全体で魔物の襲撃が増えたらしい。
特に聖女様が暮らしていた王都での被害が大きかったみたいで、しばらく王都は大混乱に陥ったらしい。
それ以来聖女とされる人は現れていなかったのだけど、ついに現れたのがパメラ様だったということみたい。
少し気になるのは、パメラ様のご先祖様がその断罪された令嬢だということ。
そして、私は聖女様の血を引いているのよね……。
これは何かの因縁なのかしら?
すごく気になるけれど、死にたくはないからパメラ様を刺激しないようにしなくちゃ。
「乗れ」
「はい……」
考え事をしながら移動していたら、騎士さんから馬車に乗るように促された。
目の前にあるのは、薄汚なくて窓の無い馬車だった。
私はこれに乗せられるらしい……。
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