6. 肩書きが変わるだけで

「この宝石も手放されますか?」


 ドレスのことを話し終えると、別の侍女から宝石箱を差し出された。

 これもジャスパー様からプレゼントされたものなのだけど、全部私の好みから外れているのよね。


 これだけあって外れているのは、もう奇跡か才能だと思う。

 ちなみに、私からドレスや宝石をねだったことは一度も無くて、正直迷惑と思っていた。


 プレゼントされるだけなら良かったのだけど、この趣味の悪い装飾品を身に着けるように迫られていたのよね。

 拒否すると機嫌を悪くされていたから、私は仕方なく身に着けて学院やパーティーに行っていた。


「もちろんよ。でも、これだけは売らないで欲しいわ」

「婚約指輪ですか。どうされますか?」

「送り返すのよ」

「なるほど。ジャスパー様がどんな反応をするか見たいですね」

「私を捨てた人なのだから、何も思わないと思うわ」


 マトモな考え方をしている人なら、何かを思い返すかもしれない。

 けれども、私はそうなるとは思わない。


 だって、こんな宝石やドレスの趣味を持っている方なのよ?

 こんなに胸元が開いたドレスをプレゼントして、おまけに着てくるように命令してくる人なんて、マトモなわけがない。


 ……うん。婚約破棄されて正解だったわね。

 こんなのと結婚したら、間違いなく私はストレスにやられていたわ。


「そうかもしれませんね。

 こちらは私達の方で手配しておきますね」

「ありがとう。荷物はこの辺で大丈夫そうね」


 私が大切にしている道具箱もきちんと荷物に入っていることを確認してから、そう口にする。

 それから、一度部屋を出てあるものを確認することにした。


「これから何をするのだ?」

「使用人さん達の仕事を楽にするための道具の点検ですわ」

「仕事を楽にする道具か。俺も見ても良いだろうか?」

「存在を秘密にしてくださるのでしたら、構いませんわ」

「もちろんだ」


 そう口にするグレン様。

 彼なら約束は守ってくれると思うから、私はそのまま魔道具の点検を始めることにした。


「これは一体……」

「見れば分かりますわ」


 最初に確認する魔道具は、洗濯を楽にするためのもの。

 浄化魔法と水魔法を組み合わせたもので、ここに洗濯物を入れてから魔力を流すと、汚れを落とす水を出してくれる。


 これがあれば井戸から水を汲んでくる必要は無いのだから、侍女さん達に喜ばれている。

 多分、私が今まで作ってきた魔道具の中で一番人気がある。


 これが壊れてしまうと大変だから、慎重に魔力を流して確認していく。


「これって、まさか……」

「多分、そのまさかですわ」

「魔道具、だよな?」

「はい」

「なるほど、レイラなら作れるのか」


 言葉を交わしながら点検を進めていって、十分くらいで全部の確認を終えることが出来た。

 細かく確認したから、あと二年は壊れずに動いてくれそうね。


「終わったので、そろそろ出ても大丈夫ですわ」

「分かった」


 それから、私はお父様やお母様、お兄様達に挨拶をした。

 みんな私が離れることを嫌がっていたけれど、私のためだと言って受け入れてくれている。


 けれども、すぐに出発することは出来なかった。


「レイラ・アルタイス!

 貴女をパメラ・アルフェルグを毒殺しようとした罪で拘束する!」


 騎士団が玄関に押しかけてきて、そう口にしたから。

 グレン様の予想が当たってしまったみたい。


 毒殺未遂は、良くて王都からの追放、悪くて死刑だ。

 だから嫌な汗が流れてしまう。


「申し訳ないが、ここにレイラ・アルタイスは居ない」


 どうして良いのか分からなくて固まる私に代わって、隣にいるグレン様がそんなことを口にする。

 その嘘は流石に無理があると思うのだけど……?


「そこに居るのはレイラ・アルタイスじゃないのか?」

「彼女は今日から俺の妻になっているから、アルタイス家の者ではない」

「し、失礼しました。レイラ・カストゥラ様に逮捕状が出ていますので、同行をお願いしたく思っています」


 肩書きが変わるだけで、こんなに態度を変えられるものなのね……。

 でも、私が罪人として扱われていることに変わりは無い。


 どうすれば良いのかしら……?

 抵抗する? 逃げる?


「そうか。断る」

「これは王命でして……」

「分かった。そういうことなら、俺が文句を言いに行く。それでも覆らなかったら、そちらに同行しよう。

 レイラ、行こう」


 そう言って私の手を引くグレン様。

 騎士団の命令に背いて、おまけに騎士団もそれを許すってどういうことなの……?


「え……? 陛下に文句って、正気ですか?」

「王家は下手に公爵家に手出し出来ないから、大したことは無い」

「大したことありますから……! それに、パメラ様の家も公爵家なのですよ!?」

「言わなければ何も変わらない。ダメだったら、一緒に逃亡しよう」


 グレン様の勢いに負けてしまって、彼に促されるままに馬車に乗る私。




 それから少しして、王城に着いた私達はそのまま玉座の間に向かうことになった。

 突然押しかけて、そのまま面会の許可が出るって……公爵家って本当にすごいのね。


 さっきから驚いてばかりだけれど、本当に私は罪人扱いされているみたいで、騎士に囲まれて移動している。

 拘束はされていないけれど……。


「陛下! レイラは毒殺など企てていません!

 逮捕状を取り下げて下さい!」

「それは無理な願いだな」


 ……あっさりと陛下に断られると、ついに私の腕に縄がかけられてしまった。

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